026 世界の始まり 23
「さて、門の番人が何かっていうのは一応分かったね。最前線の話はここからなんだからね」
タリアはカップのお茶を一口飲むと、受け皿に戻してそう言った。
(門の番人。門の発見者が門の番人をして、宿屋の亭主を兼ねて里の長になるって書いてあったな。じゃあ、宿屋の女将さんだっていうタリアさんは……)
「四人の長が考えた通り、ハジメの門はじきに大きな里になって街になった。今では最初の四つの門の国の次に大きな国になってるよ。それで、後はそこに書いてあるとおり、新しい門が時々見つかるようになったんだよ。一つ見つかったから、門を探しに探検に行く奴が出てきたってのもあるんだろうね。そうやって、新しい門が見つかる度にそこに宿屋を建てて里を作ってってことを繰り返してきたのさね」
タリアがまた話始めたので、考え込みかけたマリコは話の方に注意を向けた。
「始めは、四つの門に行くのに便利だからって新しい門のところに向かう奴が多かったんだけどね、見つかる門がだんだん四つの門から遠いところになってくると、もうそんなに便利でもなくなってきたんだよ。転移する先の門が遠けりゃ遠いほどたくさんの魔力が要るって分かったからね。
例えばうちの門からだと、四つの門に直接行けるような人は滅多にいないよ。うちは今見つかってる中で、一番東の端にある門だからね。それで、うちみたいに元の四つの門からいろんな方へ向かって、それぞれ今一番遠い門があるところを最前線って呼んでるのさ。今人間が住んでる中で一番前、そこから先に住んでる奴なんかいない、それが最前線なんだよ」
「最前線は、人が住んでいる中で一番前で一番端」
「ああ、そうだよ。要するに、別に便利でもなんでもない、ただの何もない田舎だってことなのさ。だから、皆本当はこんなところにわざわざ来ることなんかないんだよ。もっと大きな街にいた方が便利だし、危ない事も少ない。実際、ほとんどの人はそうやって暮らしてる。それでもね、どうしてだかそういう暮らしで満足できない奴がいるのさ。そういう奴らが最前線に出てくるんだよ。
新しい門を見つけたい奴、誰も見たことのない景色を一番に見たい奴、自分の腕を試したい奴や上げたい奴、魔物狩りで一攫千金を夢見てる奴、金はないけど自分の家や畑が欲しい奴、そういう後ろでじっとしていられない奴らをひっくるめて、最前線で暮らすことを選んだ連中を開拓者って呼ぶのさね。中には、仕事にあぶれたとか、しつこい男から逃げてきたとか、親が結婚しろってうるさいとか、そりゃ別に最前線に来るんじゃなくてもいいだろ、ってのも混ざってるがね。
そういう最前線にやってきた連中に、とりあえず住むとこと食べ物を世話して、何かできる事をやらせて、この辺をもうちっとマシにするのが、門の番人たる宿屋の仕事なのさ。体さえ満足に動くんなら、やる仕事は一杯あるからね。何か仕事してりゃあ、喰いっぱぐれる事はないし、余計なこともしないもんだ。フラフラしてると碌なことをしないからね。そうなったら結局宿屋が片付けることになるんだ。そういうのはさっさと捕まえておくのさ」
タリアは「お前の事だ」と言いたげにマリコを見て、またニッと笑った。
(ああ、この人は義務だ仕事だって口では言ってるけど、本気で私の、いや最前線に来る人皆の面倒を見ようとしているみたいだ。でも)
「どうしてですか」
マリコはなんとかそれだけを口にした。
「どうしてって、それが宿屋のって、ああ、あんたが聞きたいのはそんなことじゃないね」
タリアは優しい眼差しでマリコを見て言った。
「今読んだ本の話の中で、神様が何と言って転移門と皆に通じる言葉をくれたか、覚えてるかい?」
「神様の言葉……。皆でなるべく仲良く楽しく暮らせ、でしたか」
「そう、それが神様の言葉で、神様が人間に望んでいることなのさ。人間が勝手に生まれたのか、神様がそう仕向けて生まれてきたのか、その辺は私に分かることじゃないがね。でも神様はなんでか人間に愛情、とまではきっといかないんだろうね、多分。少なくとも何がしかの好意を持って見てくれてるんだと思うんだよ。いろんなことをやらかす我々人間を、神話のとおりに興味深く眺めてる。で、時々人間の助けになるようなことをしてくれる。転移門みたいにね」
タリアは一度言葉を切って、ソファの背もたれに身体を預けて座りなおした。
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2014/12/25 「019」~「026」を構成変更。




