213 新たな日常 12
アーマービキニ姿のまま、ガーターベルトとストッキングを着ける。マリコはその辺りから何となく異物感を感じ始めていた。シュミーズを被ってメイド服を着込むとそれはより顕著になった。エプロンも着けて腰のリボンを締めるとさらに何か落ち着かないというか、座りが悪いような気がする。
「どう? マリコさん」
着替え終わったマリコが首をひねっていると、お見通しとばかりにカリーネが聞いてくる。
「ええと、モコモコすると言うかゴワゴワすると言うか」
「そうでしょう?」
水着とは、言ってみればそれ一つで下着と上着を兼ねた服である。それなりの丈夫さが必要となるが故に、下着ほど繊細にできていないのだ。生地は厚めであるし、結ぶ紐も紐パンの物よりずっと太い。浜辺でパーカーを羽織る程度ならまだしも、きっちりした服を上に着るといろいろと邪魔なのだった。特に腰の両側と首の後ろの紐の結び目がゴロゴロして鬱陶しい。
「そのまま寝転がって寝返りを打ったらどうなると思う?」
「寝返り?」
今の格好のまま寝るというカリーネの例えがピンと来ず、マリコが首をひねっていると横からミカエラが補足してくれる。
「探検の最中は毎晩寝巻きに着替えたりしないからね」
「ああ、そういうことですか」
人の住まない所へ分け入るのだから、考えてみれば当たり前である。服なり鎧なりのまま寝ることになるのかと納得したところで、マリコは今の姿で寝返りを打つところを想像してみた。
「……痛そうですね、それ」
特に腰の横の結び目はそこに硬いコブがあるようなものである。寝返りを打ったり、横向きに寝たりすれば身体に食い込みそうだった。
「これが革鎧なんかだと、下に着る服とかも含めて考えて作ってあるから思ったより大分マシなんだよね」
「だから短い間ならともかく、そのアーマービキニをずっと服の下に着ておくのは難しいわね」
「なるほど」
マリコは頷きながら、小学生の頃のことを思い出した。体育がプールの日は服の下に水着を着込んで登校したりしたものである。しかし、プールに入るまでの間だからあの少し窮屈な感じもさほど気にならなかったのであって、そのまま何日も過ごすのはさすがに嫌だろうと思えた。
「それにね。服や鎧はともかく、下着はできたら毎日替えたいと思うもの。浄化ばっかりじゃ、ちょっとね」
そう付け加えるカリーネに、マリコはさすが女の人だなあと思うと同時に恐らく自分にはそういうところが分かっていないのだろうとも思った。だから時々妙な目で見られることになるのである。
「さて、じゃあマリコさんはちょっと待っててね。私たちも着替えてみるから」
「え?」
話が終わりならアーマービキニを脱ごうと思っていたマリコをよそに、カリーネたちはそれぞれメイド服を取り出した。どうやら、マリコが着替えている間にバルトの部屋から取ってきたらしい。
「これもちょっと気になるところがあるから、マリコさんに聞いておきたかったのよ」
そう言うとカリーネはさっさと着ている服に手を掛ける。
「ええと、では今度は私が外に……」
「全部脱ぐわけじゃないから別にいいわよ」
出ていようかと言い掛けたマリコを止めると、三人はめいめいに着替え始めた。じっと見ているものでもないなと、マリコはイスに腰を下ろすと適当に目をそらして部屋の中を見回すふりをする。時折三人から「まさか」とか「やっぱり」とか聞こえてくるのが気になった。
やがて聞こえていた衣擦れの音が止み、マリコがそちらに目を向けると長短のメイド服姿となった三人が立っていた。とりあえずストッキング抜きで着けてみたようだが、マリコの思った通り三人ともよく似合っている。
「ねえ、マリコさん」
マリコが微妙に目を細めていると、カリーネにやや固い感じのする声を掛けられた。急いで表情を取り繕うとマリコはそちらに顔を向ける。カリーネは声音と同じく少し強張った顔をしていた。
「この服なんだけど、もしかしてかなり珍しい素材を使ってない? 例えばミスリルとか」
「ええと、はい」
「やっぱり! 道理で誂えたみたいにぴったりになるわけだわ」
「え……」
言われてマリコは改めて三人の姿を見渡した。先ほど見た通り、三人ともきちんと着られていてよく似合っている。と、そこまで考えたところで、それがおかしいということに気が付いた。三人は身長こそさほど大きく違わないが、体型はそれぞれ違っているのである。その三人にマリコの服がぴったり合うということが普通ではないのだ。
「あー」
マリコは思わず小さく声を漏らして額に手を当てた。ゲームには服にサイズの違いというものがなかったのである。NPCから買った服もPCが製作した服も性別さえ合っていれば誰でも装備することができた。実際問題として、そうでなければ製作や取引が非情に面倒なことになるだろう。そのことをうっかり失念していたのである。
しかし、どうやらここでもそのフリーサイズ設定は生きているらしかった。カリーネが言うには、ミスリルやオリハルコンを材料に使った服や鎧は装着者に合わせてサイズが変わるものなのだそうだ。何じゃそれはと思わないでもなかったが、スキルなどゲームのシステムと似通ったところはこれまでも目にしている。そういうものなのだと受け止めることにした。
「だとしたらこの性能も納得ね。でもこれ、すごく高いわよ? さっきの武器よりもずっとね」
またしても、差し上げますもらえないわよという議論が再燃し、ミカエラとサンドラも交えてしばらくわあわあ言い合った挙句、武器と同じく借りておくということでなんとかまとまった。
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