33.悪役令嬢の願い事。
「ダリウス様が、私を"嫌い"だと。肩書きではなく、私自身を見て、私の行動に苦言を呈して、その上ではっきり面と向かって"迷惑だ""嫌い"だと言ってくれた人だから。だから、あなたを推しました。そんなダリウス様がシリル様に必要だと思ったから」
私は静かに淑女の仮面を外す。
「いつも言っているではありませんか? ダリウス様とはシリル様大好き同盟で同志だって」
ここは気の抜けない魔窟ではなく、完全なるプライベート。
おそらくこのやり取りが外に漏れることはない。
こんな風にダリウス様と過ごす機会はこれから先ないかもしれない。
そう思ったら、今この瞬間だけは公爵令嬢ではなくただのリゼット・クランベリーとして彼と向き合ってみたくなった。
「とはいえ、私はきっかけを作ったに過ぎません。さっきも言いましたけど、王太子の最側近にあなたがいるのはあなた自身の実力です。シリル様がご自身の目で見てダリウス様を選んだんです」
その実力は疑いようがないというのに、どうしてこの人はこうも謙虚なのか。
「貴重な存在なのですよ、シリル様の側に居続けられる人って。絶対折れない"頑固さ"と積み上げて揺らがない"自我"の強さがなくては。だって、シリル様は一番星だから」
一番星はとても眩しくて、焦がれるけれど。
妬まれる事も多いのだ、と私は知っている。
「私にとって、シリル様が世界の全てです。他は、全部どうでもいいの」
シリル様がいない世界の絶望感。
アレに比べたら全て些細なことだ。
たとえ選んだその先に私の未来がなかったとしても。
そう言って笑う私に、
「リゼット嬢。それは、きっと愛ではない」
痛ましいものを見るかのようなモスグリーンの瞳。
そんなダリウス様を見ながら私は良かった、と心から思う。
「そんなの、まるで……」
と言葉が紡げず目を伏せるダリウス様。
良かった。
シリル様の側に居る人が"まとも"な感覚を持った人で。
いい子のフリしかできない悪役令嬢の私では、きっとシリル様に"まとも"も"普通"も分け与えられないから。
シリル様ルートで見たヒロインとのハッピーエンドみたいな、穏やかな幸せを。
「まるでクランベリー家の"呪い"そのものだ、ですか?」
クランベリー家の呪い。
それは強い"炎"の魔法を継ぐ公爵家の女性に顕著に現れる性質。
身を焦がす程の"執着"と大多数には理解されない"愛"に他者を巻き込んで破滅する。
私の亡き母、ミレイユ・クランベリーのように。
「だとしたら、私はクランベリー家の娘で良かったとこの血を誇りに思います」
だって"呪い"と呼ばれるほど強い強い想いなら。
私はブレずに最期まで大好きなシリル様だけを想っていられるから。
そう思った瞬間、耳につけているイヤカフを通して"お姉様"と私を呼ぶ声がした。
ああ、もう"悪役令嬢"リゼット・クランベリーに戻らなくては。
「わたくしは"一途"なだけですわ」
時間通りだ、と私はクリスティーナの真面目さに感謝し満足気に微笑む。
「だから、ダリウス様。シリル様のこと、頼みましたよ?」
くるりとダリウス様に背を向け、そう言った私は魔法が発動しない窓を全開にし、窓枠に足をかけ、
「では、ごめんあそばせ?」
躊躇うことなく2階から飛び降りた。
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