30."大好き"を抑えるのはストレスなもので。
「もう、やだぁ」
学園を抜け出し、走って、走って、走りまくって、力尽きた私はついにうずくまる。
「あー嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、もうホント嫌っ!!」
癇癪を起こした子どものように私は心の底からそう叫ぶ。
幸せそうなシリル様のスチル画も。
その先にいるクリスティーナの存在も。
全部が全部気に入らない。
だけど。
「でも、シリル様がいない世界は、もっと嫌ぁああーー」
ぼろぼろと涙を溢しながら私は首を振る。
思い出すのは前回の自分の人生。シリル様がいない。それは世界の全てを失ったかのような絶望感だった。
言えない"大好き"が積み重なって私から溢れるかのように、魔力が勝手に流れ出て私の周りを火の粉の花が舞う。
ああ、抑えないと。
気に入らない。とそんな一言でまとめられる感情のままに全部を焼き尽くしてしまいそうで。
そんな身勝手なところはゲームのリゼットと同じじゃダメなのに。
「……っふぇ」
叫びそうな感情とともに魔力を何とか押さえつけようと私は手で口を覆う。
「……だめ、なのにっ」
上手く魔力のコントロールができなくて、チリリと舞う炎が大きくなる。
私の髪や目と同じ紅い、全てを飲み尽くす炎の色。
紅色なんて、大っ嫌い。
私が好きなのは……。
「たす……けて」
誰か、と呼んだ声に応えるように後ろから腕が伸びて来てぎゅっと私を抱きしめて、
「リズ、そのまま全部発散してしまえ。俺が抑えるから」
耳に馴染む声に、耳朶に響いた。
「シリル……様?」
どうして、ここに? と思った次の瞬間に私はハッと我に返る。
このままでは火傷を負わせてしまう。
絶対ダメ、と抵抗する私を自身の方に向かせ宥めるように抱き止めて、シリル様の長い指が私の紅い髪を掬う。
「ああ、相変わらず綺麗な紅だな。俺の好きな色だ」
淡々とした口調でそんな言葉が落ちて来た。
「す……き……?」
「何だ。知らなかったのか?」
と、優しげな声が落ちてくる。
「リズ。お前の婚約者はこの程度も抑えられないほど無能か?」
無能?
シリル様が?
バッっと顔を上げる。
「天地がひっくり返ってもあり得ません!」
吐息すら感じられるほどすぐ近く、私の大好きな澄んだ蒼色の瞳を覗き込み、私は真っ直ぐそう宣言する。
「シリル様はいつだって完璧で、完全無欠で、最強で、最高ですっ!!」
「なら、大丈夫だ」
ふっ、とシリル様が不敵に笑う。
ああ、やっぱりシリル様はかっこいいと見惚れていると。
シリル様はいつもみたいに私の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。
抑えきれず、どんどん拡がっていた私の紅蓮の炎を青色の光が覆い尽くす。
「お前がそう望むなら、俺はいつでもそうあり続ける」
あれ?
これは、乙女ゲームで好感度MAXになった時のシリル様の台詞。
「安心しろ。俺がリズを手放す日は来ない」
パチンと耳元で音がして、私から力が抜ける。
全てを焼き尽くす炎はすでになく、抵抗する力すらなくなって閉じていく瞼に争うことすらできなくて。
「……それじゃ、ダメなんです」
シリル様のバッドエンドを回避しないと。
シリル様の幸せ。
私の望みはそれだけなのに。
落ちていく意識の中で、私はただそれだけを祈っていた。
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