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28.悪役令嬢らしく悪い子ルートに突き進む。

「やばい、涙が出るくらい美味しいんだけど」


 私がゲームやラノベ関係以外で覚えている前世の記憶は少ない。

 でも、ゲームやラノベの延長とでも言えばいいのかそれらを楽しむ時の相棒は覚えてる。

 その一つが今私の目の前にある。


「ふわぁーー! もう、最の高しかないんだけどっ!! ミストレイン(うちの国)は紅茶メインの国だから美味しいコーヒーってなかなかないのよねぇ。そして、このフローズンドリンクの再現率の高さよ! ひっさびさに聞いたこの呪文メニュー」


 もう完全に某コーヒーチェーン店じゃん! とひたすら感動する私に。


「わぁー悪役令嬢キャラ崩壊。本家ガチ勢に怒られるやつでしょ、コレ」


 ゴスロリメイドちゃんが呆れながらそう言った。

 メル、と名乗った彼女をマジマジと見る。

 黒髪に紫のメッシュが入ったふわりと巻かれた髪に、大きな黒い瞳が特徴的な可愛い女の子。だけど、私はこんなキャラクターに見覚えはない。


「メル、は本名?」


 敵キャラで見落としてるのかしら? と首を傾げた私に、


「んー前世のゲームネーム。メルってけっこー気に入ってんだー」


 可愛いっしょ、とメルはにかっと笑う。


「突わた、やってた感じ?」


 ゲームネームという懐かしい単語に反応し、私はそう尋ねる。

 この世界は『突然公爵令嬢になった私が幸せを掴むまで』という乙女ゲームが舞台だ。

 私は初期設定のままクリスティーナでプレイしていたけれど、確かヒロインの名前も変えられたなとぼんやりゲームの仕様を思い出す。


「やったやったー! まぁ、ここが"突わた"じゃん!? って気づいたのわりと最近なんだけど」


 数年前まで全然気づかなかったーとカラカラと笑う。


「……気づいたきっかけは?」


「ん? ウラド様に拾ってもらったからだよ」


 んで、今ココとメルはじゃんっと店内を自慢げに披露する。

 ウラド、とはこの乙女ゲームでの黒幕の名前。

 "銀の花びら"は彼のアジトであり隠れ蓑としてゲームにも登場している……のだけど。


「私の記憶してる仕様と全然違うんだけど」


「え? うちの趣味だが?」


 良すぎて良くない!? とこだわりポイントを列挙するメル。


「やぁーでも一番苦労したのは、美味しいコーヒー手に入れるのとフローズンドリンクの再現よ。名前も馴染みのある感じにしたかったけどやっぱ異世界でも商標登録って有効なんかなーとか」


「これだけ堂々とパクっておいて、急にメタい発言するわね。あと私の知ってる限り某コーヒーショップにゴスロリメイドはいなかったわ」


「え? うちの趣味だが?」


 何か問題でも? と趣味を前面に押し出したメルが首を傾げる。


「いや、趣味はいいんだけどね。可愛いしテンション上がるのも分かるし。ただ世界観ぶち壊しな前衛的過ぎる提案をよくウラドが受け入れたな、って」

 

「ん〜? ウラド様にプレゼンしたら、面白いって即時叶えてくれたけど? ハイスペック魔術師マジで良き」


「まって、あの人そんな気さくな感じなの!?」


 もうちょっと厨二病患ってますって感じの外観と設定では!? とツッコむ私に、


「ふふふ、会えば分かるよー。リズリズの目的ってウラド様しょっ?」


 急にメルが纏う雰囲気が変わる。


「まさか、そっちから来てくれるなんて思わなかった」


 探す手間が省けちゃった、と長い髪を手で掬いさらっと流したメルは、


「その上悪役令嬢が転生者なんてついてるわ」


 と妖しく笑う。

 モブなんて嘘でしょ、ってくらい悪役が板についていて、私はメルから目が離せなくなる。


「運命を変えに来たんでしょ?」


 まるで最初から分かっていたかのようなその問いに私は静かに頷いて、


「ええ、そうよ。未来を変えに来たの。ウラドに会わせて頂戴」


 ここに来た目的を告げる。

 この一歩が地獄に繋がっていても構わない。

 その先にシリル様のハッピーエンドがあるのなら、私は喜んで"悪"になる。

 そんな私の決意を掬い上げるかのように黒曜石のような瞳が楽しげに笑う。


「歓迎するわ、悪役令嬢リゼット・クランベリー。ようこそ、"銀の花びら"へ」


 差し出された手を取って、私は"銀の花びら"の一味に加わった。

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