21.婚約者リゼット・クランベリーについて④(シリル視点)
ブクマも評価もありがとうございます!連載中にブクマ100超えるなんてびっくりです(*´꒳`*)
さて、どうしたものか。と、リズに押し付けられた彼女の異母妹をじっと見る。
明るいキャラメル色の髪も、スミレ色の瞳も、纏う雰囲気一つとっても、母親が違うというだけでこうも違うものかと思うほどリズとクリスティーナは全く似ていなかった。
『心配しなくても、シリル様にはクリスティーナが嫁ぎますわ。ね? 王家とクランベリー公爵家との契約は果たされるのだから何の問題もないでしょう』
婚約を解消して欲しいとリズが初めて言った日、彼女は確かにこう言った。
問題しかない、とリズはきっと分かっていない。
「わたくしのシリル様に近づかないでっ! シリル様の妻になるのはわたくしなのだから!!」
ほんの少しでも下心を持って俺に近づく相手がいれば、男女問わずところ構わずリズは唸り噛みつき蹴散らしてきた。
周りの大人はそんな彼女の姿に眉を顰めたが。
魔力が抑えきれず、リズの心情を反映したかのように彼女の周りを舞う火の粉一つさえ、俺にとっては愛らしいものだった。
『なんでもできる殿下には、我々下々の気持ちなど分からないでしょうね!』
『惨めな気持ちになるんです。殿下をみていると』
『まるで、心のない機械みたいだ』
聞き飽きたいくつもの事実。
リズが婚約者になるまで、それらに傷つく心すら俺にはなかった。
だが。
「わたくしのシリル様を侮辱するなんて、万死に値するわ」
やんのか、コラ。とばかりにどんな相手でも睨みつけ、紅蓮の炎で片っ端から焼き尽くさんばかりの勢いで立ち向かうリズはまるで箒星のようだった。
決して下を向かないその真っ直ぐさが、目が眩むほど眩しくて。
力の限り暴れ、倒れてしまうリズがいつか燃え尽きてしまわないかと心配で。
別に気にしてないから一々相手にするな、と俺が言えば。
「嫌ですわ。シリル様を侮辱されたらわたくしが傷つくのです!」
涙をポロポロとこぼし、
「わたくし、このままだと悔しくて涙が止まりません。シリル様はわたくしが泣いたままでいいとおっしゃるの?」
わたくしが嫌なのだから、シリル様を悪く言う人なんて焼き尽くします。
と庇われる当人の意向なんてガン無視で自分の意思を優先させるリズ。
リズはいつだって、苛烈で、過激で。
そして。
「わたくしの"大好き"を邪魔しないでくださいませっ!!」
どうしようもなく、ただ俺を愛してくれた。
『どうか、わたくしと婚約を解消してください』
そんな彼女が泣きながらそう願うなら、やはりそれは俺のためなんだろう。
どうしてそれが"真実の愛"とやらになるのかはさっぱり理解できないが、それでも今更リズが俺に向ける気持ちを疑う事はない。
それくらい長い時間リズは俺の側にいて、ずっと変わらずにいたのだから。
「あのう、シリル王太子殿下」
控えめなクリスティーナの声で我に返り、彼女の方を見る。
リズが自ら進んで誰かを俺に近づけようとするのが初めてなら、俺以外に時間も心も割くのも初めてで。
懲りもせずあからさまに俺とクリスティーナが共にする時間を作ろうとするその意図は全くわからないが、はっきり言って面白くない。
「王太子として来ているわけではない。一応、身分としては教員だ」
素っ気なく返せば、
「えっと、ではシリル先生?」
クリスティーナは躊躇いながらそう口にして、
「ふふっ、シリル先生! 不思議な響きですね。あ、でもなんだかちょっとだけ、シリル様との距離が近くなったような気がします!」
スミレ色の目を瞬かせると、何が楽しいのかクスクスと笑った。
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