19."いい子"はやめたので、"いい姉"も辞退する。
「えーっと……気づいたら、でしょうか?」
本当は前世から知ってます、とは言えずギリギリ通りそうな嘘を吐く。
「根拠は?」
「勘ですわ!!」
食い気味に全身全霊で言い切った私の発言を、
「なるほど、野生の勘か」
シリル様はあっさり信じた。
「誰が野生児ですか!! 純粋培養クランベリー公爵家産のお嬢様ですっ!!」
うぅーーっと唸って私は猛抗議する。
「冗談だ。唸るな」
ポンポンと頭を撫でられ即座に機嫌が直った私は、
「そもそも、シリル様はこんな突飛な話信じますの?」
恐る恐るシリル様に尋ねる。
この世界に生きる人間は使える使えないは別として多少なりと魔力を秘めていて、魔法の影響を受けている。
その影響を全く受けない魔法無効化は、この世界の理の範疇から逸脱した存在だ。
世界の前提条件を覆すような話なんて、あり得ないと普通は一蹴しそうなものだけど。
「信じるに決まっている。リズが言うならそうなんだろ」
シリル様は当然、とばかりにスパッと言い切った。
「そもそも、お前は昔からそうだったろ。本能で生きていて、世間一般の"常識"が通じない」
「わたくし、今めちゃくちゃディスられてませんこと?」
もう! と頬を膨らませる私に、
「だから、良いんだよ。リズは」
ふわりと神々しい笑みを浮かべてシリル様はそう言った。
「笑っ……はぁーーシリル様を見ているだけで寿命が延びますわ」
尊い。
本当に尊い。
推しのいる世界最高かっ! と内心で歓喜していると。
「あの、私は一体何を見せられているのでしょうか……」
置いてけぼり状態だったクリスティーナから控えめな声が上がった。
「そうでした! シリル様。この体質はシリル様のお役に立てるのではないかしら?」
「コレを知っている人間は?」
「わたくしとシリル様以外いないかと」
まぁ、もし私以外に転生者がいたなら話は別だけど。
クリスティーナはゲームのヒロインそのままだし、少なくとも今までの繰り返しの人生でそれっぽい人を見かけたことはないので多分大丈夫。
「あのぅ、お姉様。私、全然話がみえないんですが」
クリスティーナに説明する許可を求め、シリル様が頷くのを確認してから私は困惑するスミレ色の瞳を覗く。
「わたくし達は今とある事件を追っているの。その解決には、あなたのその体質が必要なのよ」
「体質?」
「クリス。あなたは"特別"なの」
学園の生徒が行方を眩ませる怪事件。
この事件を解くためには、クリスティーナの存在が欠かせない。
シリル様パートの時だけではなく、他の攻略対象のストーリーでもそうだった。
それくらい、魔法無効化はこのゲームで重要な設定で。
私はそれを知っていたのに、ずっと黙っていた。
黙っていただけじゃない。
いい子を演じ、クリスティーナを保護することで、乙女ゲームのイベントを一切発生させなかった。
クリスティーナにはシリル様以外の攻略対象と結ばれるルートだってあったのに。
クリスティーナの魔法無効化の特性が表に出ることで、シリル様がクリスティーナに関心を持つ事が怖い。そんな身勝手な理由で。
結果、クリスティーナの魔法無効化の特性が露見することはなく、私は彼女が本来享受するはずだった"幸せになる機会"を奪い続けてきたのだ。
何度も、何年も。
「ずっと、黙っていてごめんなさい」
この世界のヒロインがクリスティーナなら、自分の都合だけで動く私は間違いなくゲーム通りの悪女だろう。
クリスティーナが享受すべきものを奪い続けた過去を今更謝ったところでなかったことにはできないし、今世はクリスティーナにヒロインらしく本来の筋書きを歩んで欲しいなんて、勝手過ぎるのは充分わかってる。
それでも、シリル様が幸せになるには他に方法がないなら。
「お姉様?」
きょとんと首を傾げる仕草も可愛いらしい。
誰が見たって私よりシリル様の隣が相応しいのは分かっている。
努力なんかでは到底埋まらない、残酷な現実を突きつけられたから。
私は、もう自分を偽るための努力はしない。
「わたくし、本当はずっとあなたが妬ましかった。だからもう"いい姉キャンペーン"は終了するわ」
「え?」
クスッと口角をあげ、クリスティーナの顎をくいっと持ち上げた私は彼女のスミレ色の瞳を覗く。
「学園に上がって分かったでしょ? わたくしの本性が」
マリアンヌを打ちのめしたことで、私の今までの悪行がクリスティーナの耳にも入っている頃だろう。
「気に入らなければ、唸るわ、噛み付くわ、テーブルごと全部ひっくり返すわの癇癪持ちで、アレが欲しいコレが欲しいと我儘三昧。シリル様の執務室にアポ無しで突撃なんて日常茶飯事だし、もう王妃教育なんて嫌っと叫んで行方をくらませ、街まで勝手に出かけたりする。公爵令嬢の風上にも置けない! それが、わたくしリゼット・クランベリーよ」
ちなみに王太子殿下のお墨付きよ! とにっこり笑い、
「妬ましくて堪らないあなたのことなんて、わたくしは尊重しない。いいこと? あなたに拒否権なんてありはしないわ! 分かったら黙ってシリル様に協力なさい」
いつも通り我儘で手に負えないリゼット・クランベリーらしく傲慢に、ヒロインにそう命令した。
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