13.好きになった時点で推しにはすでに負けている。
シリル様に連れて行かれたのは、教員控え室だった。
作りや備品自体は他の教室と一緒だけど。
「なんか、かなり充実してません? この部屋」
一教員が空き時間を過ごすだけの部屋にしてはやたらと豪華。
しかも防音魔法をはじめとしたその他多数の魔道具が設置されている。
「まぁ、しばらく過ごすことになるからな」
別に他の教員と同じ待遇で構わなかったんだがなとシリル様は話すけれど。
これから事件をクリスティーナと解決するまでここで過ごすのだから、快適空間にするのは必須だと思う。
手配したのはきっとダリウス様ね、きっと。と、心の中でシリル様大好き同盟に勝手に加盟させているダリウス様にグッジョブと拍手する。
そんな事を考えていると、シリル様が手ずから飲み物を準備してくれようとするのが目に入った。
「あの、わたくしがっ」
シリル様にお茶を淹れさせるなんて、と慌てて止めようとするけれど。
「いい。一応ここでは俺は臨時講師でリズは生徒だからな」
座ってろ、とビシッと椅子を指さされる。
「一生徒だというのなら、せめてリズ呼びはお控えく」
「断る」
速攻で拒否。あまりにキッパリと言われ、えーっと固まる私。
「それにリズだって名前で呼んでいる」
「それは失礼いたしました。王太子でん」
「呼び方変えたら、リズの黒歴史を掲示板に貼り付けて1つずつ公開する」
淡々とした口調だが、目が本気。美人怒るとマジで怖いの図だ。
「……分かりました」
私は両手を軽く上げ白旗を掲げる。
惚れた方が負けだというのなら、私は一生シリル様には敵わない。
私は一体どこでシリル様の地雷を踏んだのかしら? と首を傾げつつ、どうせもうすぐ名前で呼べなくなるのだからいいかと自分を納得させる。
私だってシリル様から愛称で呼ばれるのは嫌じゃない。
ただこれから何の繋がりもない王族とその他貴族の娘になる間柄なのに、愛称なんかで呼ばれたらどうしようもなく未練が募って、苦しく苦い思いが込み上げるってだけで。
苦いのは嫌い。
また感情を飲み込めなくなる、とため息をついて大人しく椅子に座った私は、
「なんか、この椅子おかしくありません?」
はて、とおかしな点に気づく。
見た目は生徒指導用の普通の椅子なのにめちゃくちゃ座り心地がいい。
ふんわりもっちり、だけどしっかりホールドしてくれるこの感じ。
何故かしら、私この座り心地に非常に覚えが……なんて思っていたら、
「認識阻害はかけてるがそれはリズ用だ」
シリル様の執務室に置いてある私専用の待機椅子だと説明された。
「……シリル様、何故椅子に認識阻害を?」
「何故、ってリズはその椅子じゃなきゃ絶対嫌っ! なんだろ。昔そう言って俺の椅子を強奪したじゃないか。コレをそのままここに置くには少々目立ち過ぎるからな。かけるだろ、認識阻害」
当然、とばかりにシリル様に言われ私は額を押さえる。
やりました。
ええ、確かにやりましたとも。
王太子妃になるための教育が始まった初日に、もう無理っ!! ってシリル様の執務室に逃げ込んだ時に。
私のわがままに『そうか』と言ったシリル様は、そのまま私用にその椅子を作り直してくれた。
しかも成長するたびにカスタマイズされ、今でもシリル様の執務室に設置されているという家臣真っ青ドン引き案件の一つである。
が、何故にそれがここにある? っていうか魔法の無駄遣いっ!!
認識阻害をかける対象を絶対間違えている。かけるべきは椅子ではなく、シリル様でしょう! と突っ込まずにはいられない私に、
「安心しろ、それにはお前しか座らせない」
安心要素迷子の返答が返ってきた。
それはリズ専用なんてシリル様は言うけれど、誓約魔法を解いてこの部屋を出たら私がもうここに来ることはない。
のに、なぁ……。
「シリル様、わたくしは」
「婚約者なら、相手の機嫌を取るのもやる気を出させるのも当然だろう。どうせお前はここに居座ることになるんだから」
「何を言って……?」
だから婚約者じゃなくなるんだって、と疑問だらけの私に、
「まぁ落ち着け」
と差し出されたのは柑橘系の香りがするフレーバーティー(しかも私の一番好きな奴)だった。
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