第3章「うらぎり」 2-3 三人の協力
「で、どうだったんだよ、プランタンタン」
フューヴァも自分の水筒から一口飲んで、息をつきつつ確認する。
「そうでやんした……。旦那、傭兵隊は壊滅でやんす」
「壊滅だあ!?」
「話してるのは、敵さんばっかりでやんす。言葉がよく分からなかったんでやんすが、身なりや髪の黒い見た目からして、そりゃあもう、松明かざして動き回ってるのは、みーーーんな敵さんでやんした。それで、森ん中にゃあ、おそらくお仲間かと思われる死体がゴロゴロ。まだ生きてる十人ほどが、捕まって縛られてやんした」
「傭兵隊って、たしか全部で四十人ほどだとか云ってたよな」
「そうでやんす」
「敵は、何人くらいだ?」
「ザッと見積もって、二百人くれえかと……」
「ダメだ、負けだ」
フューヴァがため息をついた。
「だけど、いったい、どうしてなんでしょう……?」
また小樽から直接グビグビとワインを飲んでいたペートリュー、半分以上も飲み終えて、やっとまともに話せるようになってくる。
「奇襲をかけられたようです」
時空間探査で過去直近の空間記憶をたどったストラが、状況を説明。
「いつもフランベルツ傭兵遊撃豚に翻弄されているマンシューアル軍が、逆に行動を読み、逆奇襲をかけたかこうです。傭兵隊は不意を突かれたうえに多勢に無勢で、なす術なく壊滅した模様。なお、奇襲状況の鮮やかさ、攻撃の各状況から鑑みて、傭兵隊に内通者がいたと推察されます」
「裏切者かよ!」
フューヴァが吐き捨てたが、
「傭兵なんでやんすから、御金様が一番でやんしょう、高額を提示されたのでは?」
「お前は、殺伐としているなあ」
流石だぜ、と思いつつ、なるほど、なんだかんだと云いながらピアーダが結局ストラに月額2,500もの大金を出したのは、高額提示による敵の引き抜き防止でもあるのかと気づき、フューヴァは感心した。
(やっぱり、フィッシャーデアーデ総合一位っていうのが効いてるんだな)
それはそうと……。
「旦那、どういたしやしょう?」
「救出しましょう」
「エッ!?」
三人が息をのむ。二百人を相手に、会ったことも無い仲間を救出?
とは云え、戦闘に関しては、ストラなら相手が二百だろうが二千だろうが大して変わらないのかもしれない。問題は、
「で、でもストラさん、ただ相手を倒すだけとは、わけが違いますよ……仲間を巻きこまないように戦わなくてはいけませんよ」
「はい、もちろん、三人の協力が不可欠です」
そう云われたペートリューが、鶏が絞め殺されたような声というか音を喉から出した。プランタンタンも途端に不安げな表情になり、
「あ、あっしらが……何をすりゃあいいんでやんしょ?」
「私が敵を引きつけるので、仲間を救出してください」
「どうやって?」
「ばか、それくらい考えろよ!」
フューヴァが、プランタンタンの肩を叩いた。
「じゃあ、フューヴァさんが考えておくんなせえ」
「アタシに分かるわけねえだろ」
「こっちだって、おんなじでやんす!」
二人してペートリューを見やったが、暗がりに動揺して目を泳がせ、ブルブル震えながら浴びるように酒樽を傾けている。
(だめだこりゃ)
二人ともそう思い、
「だ、旦那……あっしらにゃあ、どうもそりゃあ荷が重いようで……」
薄緑に光る両目を八の字に下げ、プランタンタンが訴えたが、
「じゃあ、よろしくね」
ストラが立ちあがるや、ぼんやりとした淡い明かりだけを残して、素早く出て行ってしまった。
「あっ……そんな、旦那あ!」
三人残され、呆然と闇を凝視する。




