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第3章「うらぎり」 2-2 大変でやんす

 「森の中だと見えないし、聞こえないでやんすからねえ」

 プランタンタンがそう云い、

 「とにかく、急ぎやしょう! 合流する前に全滅されても、面倒でやんす」

 山に向かって駆け出した。

 「マジかよ……!」

 フューヴァも、その後を追う。


 ストラが続き、最後に大荷物(しかも液体)を背負しょったペートリューが死に物狂いで走り出した。


 休みながら進んで、夕刻近くに山道へ入る。そこからは慎重に進み、やがて日が暮れた。暗くなると、松明の火が激しく動いているのが分かった。


 「どっちだ?」


 フューヴァが囁く。敵か、味方かということだが、まったく分からぬ。物陰に隠れながら覗いているが、暗くてよく見えないのもあるうえ、傭兵隊も敵のマンシューアル軍も見たことがないので区別がつかない。


 「困りやんしたねえ」

 ここは、夜目の聴くプランタンタンが偵察に出ることとした。

 「おい、気をつけろよ……」

 フューヴァが云った時には、もう闇に紛れていた。

 「さすが、エルフだな……」


 フューヴァが感心する。なんだかんだと、野外ではエルフというだけで重宝する。


 「ストラさん、隠れそうなところを探知の魔法で……」

 「あっち」

 フューヴァが皆まで云う前に、ストラがそう云った。が、


 「い、いまここを動いたら、プランタンタンさんとはぐれてしまうのでは……?」


 怯えきったペートリューの声が闇の中に響いた。それもそうだ、と、フューヴァ、


 「では、ここでプランタンタンの帰りを待ちましょう」

 「いいよ」


 なんにせよ、ストラの広域三次元探査が常に走っている。周囲数キロで動いている者は、ネズミ並の小動物に至るまで、全て感知していた。とうぜん、先ほど偵察に出たプランタンタンもだ。


 ストラ以外の二人が緊張を極め、じっとり・・・・と時を過ごした。ペートリューが辛抱たまらず、背中から小樽を下ろし、コルク栓を抜くと両手で抱えて口をつけ、直接飲み始める。


 ゴキュゴキュと音が鳴り、フューヴァがびっくりして振り返った。

 「おい、ペートリュー、いつでも逃げれるようにしておけよ……!」

 「う、うん……」


 一気に樽の四分の一ほども赤ワインを飲んでしまったペートリュー、口をぬぐって人心地つき、また栓を差しこみ、大切に背負せおい直した。


 そこへ、

 「戻ってきた」


 ストラがそう云い、闇の中を薄緑の二つの光が明滅ながら蛍のように上下して向かってき、すぐにプランタンタンが闇から現れた。


 「いやはや、大変でやんす、大変でやんすよ」

 「状況はどうなってんだ!?」

 「ここじゃなんでやんす、どこか、落ち着けるところは?」

 「こっち」

 もう、ストラが動いている。


 真っ先にプランタンタンが動物のように続き、次いでフューヴァが、そして最後に、


 「ま、待ってくださ……!」

 這うようにして、ペートリューが後を追った。

 「はぐれるなよ!」

 フューヴァが、気を使いながら誘導する。


 しばらく斜面を横切って進んだところに、岩の谷間というか、半洞窟というか、とにかく身を隠せる岩盤の裂け目があって、闇が口を開いていた。


 「こっち、こっちでやんす!」


 プランタンタンの眼の光が、よい目印となる。が、足元がおぼつかぬ。何かに蹴躓けつまずいて、ペートリューが転んだ。


 「気をつけろ!」

 「イタ……」

 半泣きになり、なんとかペートリューも狭隘きょうあいな岩の裂け目に入った。

 中は、当たり前だが真っ暗だ。


 薄く発光するプランタンタンの両眼だけが、深海生物のように闇に浮かんでいた。


 「ペートリュー、明かりの魔法とかねえのかよ」


 フューヴァにそう云われたペートリュー、しかし、明かりというより照明弾みたいな強力な光の魔法しか使えず、躊躇。そうしている間に、ストラがぼんやりと間接照明めいた、淡く温かい火のような光を出した。まるで蝋燭ロウソクで、皆の顔がようやく見える程度だった。


 「これなら、外からも見えねえでやんす」

 プランタンタンが安堵し、荷物から水を出して飲んだ。

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