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第3章「うらぎり」 1-10 そういう問題じゃねえ

 聴いたことも無いような黄色く色っぽい声でペートリューが応え、グラスを傾ける。


 ストラは相変わらずの無表情で水みたいにただ飲み、フューヴァはいつもの酒となにが違うんだという渋い顔で小首をかしげた。プランタンタンは、匂いを嗅ぐだけで眉をひそめている。


 ペートリューも、こんなグラスワインなど砂に水をこぼしたかのように味も素っ気もなく一瞬で飲み干すと思いきや……。


 グラスに鼻の穴を片方ずつ近づけてたっぷりと薫りを楽しみ、ゆっくり、うっとりと少しずつ口に含み、空気を混ぜながら芳香を鼻に通して、舌全体と喉で味わいを楽しんだ。そして、


 「……美味しいですぅ……!! 魂が抜けてしまいそおですぅ……!!」


 その声と、自然に作ったしながなんとも艶っぽく、フューヴァが唖然としてペートリューを見やった。


 「さすがだね、きみぃ! 分かっているじゃないか! 気に入ったよ!」


 ピアーダの嬉しそうな声にも、プランタンタンとフューヴァが呆れて目を丸くする。


 「さあ、こっちへ! 私自ら、酌をしてあげよう!」

 「ええー、光栄ですぅ、将軍様あ」


 無意識にでかい胸を揺らし、尻を振って前に出るや、ペートリューが遠慮なくグラスを差し出した。そのグラスへ優雅に注がれるまま、さもうまそうに赤い液体を流しこむ喉の上下運動を見やって、ピアーダは目を細めた。


 「素晴らしい! いい飲みっぷりだよ、きみ。味も分かるが、量もいけるんだって?」


 「将軍様には、かなわないと思いますぅ」

 「ハハハハ、世辞がうまいじゃないか!」 


 楽しそうに笑い、秘書兵士やプランタンタン達へ同意を求める視線を送るも、とうぜん、冷たい視線しか返ってこない。


 それにも気づかず、ピアーダ、

 「どうだね、きみ。余興だ。ひとつ、私と勝負しないか?」

 「ええー、飲み比べですかあ?」


 「万が一にも、きみが私に勝ったら、ストラ氏の報酬を月2,500にしようじゃないか!」


 プランタンタンが手を打った。同時に、

 「しょ、将軍!!」

 秘書の兵士が叫んだが、

 「心配するな! 私が負けるはずがない!」

 「そういう問題じゃねえ」

 秘書のつぶやきに、プランタンタンとフューヴァが同情する。


 「ようし、勝負だ! タスト、いつものやつを用意しろ!」

 「いけません!」

 「命令だ!」

 秘書兵士は一瞬、苦虫をかみつぶし、

 「どうなってもしらねえぞ!」

 小声でそう吐き捨てると、部屋を出て行った。

 「ストラ氏と、従者御二方が立会人りっかいにんだ。さあさあ、かけたまえ!」


 将軍が自ら応接用の椅子を引き、三人を座らせた。楽しそうに応接テーブルへペートリューをつかせ、自らもその対面に座る。


 やがて給仕係のメイドや、庁舎の酒蔵を管理する役人が何人も困惑した表情で現れる。みな、


 「またですか?」

 「これ・・さえなけりゃあ、いい方なのに……」

 と、囁いて憚らない。

 「さあ、私を失望させるんじゃないぞ! ええと……」

 「ペートリューですぅ」

 「ペートリュー君!」

 ピアーダは楽しそうに揉み手をし、


 「勝負は何で行う? ビールがいいか? ワインか? それとも、蒸留酒スピリッツでいくか? その混合戦でもいいぞ!」


 「なんでもいいですぅ」

 「よし……では……手始めに、ワインだ」

 ねっとりとした視線でペートリューをめつけ、ピアーダが舌なめずりをする。

 「これは質より量だから、味は勘弁してくれよ」


 給仕係が、ワイン差しから二人の金属製のゴブレットへなみなみとワインを注いだ。


 「では……よいかな」

 「どうぞぉ」

 「はじめ!」


 云うが、ピアーダが喉を鳴らして一気飲みする。

 もちろん、ペートリューもだ。


 が、ペートリューは得意の食道と胃を直結する隠し芸みたいな飲み方で、飲むというより口から胃まで液体が通るだけなので、ゴクゴクとピアーダが飲み終わるころにはもう二杯目を飲み終え、三杯目を注いでもらっていた。


 「な……!!」

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