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第2章「はきだめ」 7-1 シュベールの来訪

 三人が杯を飲み干し、一息つく。


 それからプランタンタンとフューヴァが金を数え、必要経費分とストラの分を除いて残りを三等分した。


 「とはいえ、旦那はまったくカネを使わねえんで……」

 「もっとけよ。云われたら、出せばいい」

 「で、やすんね」

 その横で、ペートリューはひたすらニコニコしながら独酌で飲み続けた。

 プランタンタンがこっそり杯の数を数えていたが、三十三杯に及んだ。



 7


 翌日。

 昼前に、アパートを訪れるものがいた。

 「だれだ?」

 警戒しつつ、ドアの小窓を開け、フューヴァが確認する。

 「やあ」

 「あんた……」


 シュベールだ。毎夜のように遊び歩いている、いつもの夜会用正装である。いや、午餐会用の昼正装だ。少し、異なる。


 「何の用だ!?」


 「警戒しなくたって、大丈夫だよ~。ぼかあね、ストラさんとは協定済なんだ。味方だ、よ」


 軽薄な笑顔でそう云うシュベールを、フューヴァはまったく信用していなかった。


 「金持ち道楽貴族が、ストラさんに何の用だって聴いているんだ!!」


 「やれやれ……困った子だなあ~。いいから、ストラさんを呼んできてくれたまえ」


 「帰りな」

 小窓が閉められる。


 「……お、おー~い! 待ってくれたまえ! ストラさん!? ストラさん、私だ、シュベールですよ!」


 ステッキでドアを叩き、大声をあげた。

 「うるっせえんだよ!!」

 また小窓が開き、フューヴァが叫んだ後ろで、

 「開けて」

 ストラがそう云い放ち、振り返ったフューヴァが驚いて固まった。

 しぶしぶドアを開け、満面の笑みでシュベールが入ってくる。


 「あ、大丈夫です。尾行はされておまりせん」

 「分かってる」

 当然、ストラの三次元探査で周囲数百メートルを探査している。


 「いや、昨日の試合は見事でしたねえ~。感服しました。地方伯に、推薦させていただきますよ」


 「なんだ、こいつ、偉そうに! 地方伯閣下が、おまえみたいな道楽貴族を相手にするかってんだよ!!」


 「気の強い子だなあ~」


 つっかかってくるフューヴァを横目に、シュベールは勝手にテーブルへつくと、


 「ああ、きみきみ、お茶でも出してくれたまえ。無ければ、ワインでもいいよ。割とよさげなワインの薫りが、凄くするじゃないか。まるで、樽であるみたいだ……」


 シュベールがそう云って、さりげなくペートリューの部屋へ顔を向ける。


 「なにを、このヤロウ……!」

 「フューヴァ、用意して」

 「なんですって!? ストラさん、ホントにコイツと知り合いだったんですか!?」

 「うん」


 ニヤニヤするシュベールを睨みつけ、まだ寝ているペートリューの部屋に入った。


 「おい、起きろ!! 客だ、ペートリュー! 酒を出してやれよ!」

 ペートリューは死んだように床で横になっており、ピクリともしなかった。

 「おい! ……クソが!! 飲まれるなら飲むなってんだ!!」


 仕方なく、フューヴァが樽からワイン差しにワインを入れて用意する。

 階下の騒ぎに、プランタンタンも何事かとおりてきた。

 「おら、勝手に飲め」


 ドン、とゴブレットとワイン差しをテーブルに置き、不貞腐ふてくされたようにフューヴァも席に着く。腕と足を組んで天上を向くように顔をあげて眼だけ見下ろし、


 「で!? 何の用だってんだ!?」

 「ストラさんと話をしたいんだけどねえ……」

 苦笑しながら、シュベールが手酌で一杯、やる。

 「ストラさんとの交渉は、必ずアタシを通すんだよ!!」

 「そうですか……では」


 シュベールはフューヴァへ話しかけているようにして、窓際へ立っていつも通り隣の建物の壁を見つめるストラへ向けて話しだす。


 「ギーランデルへ所属したようですな。で、ストラさんのことだ。昨日の今日だが、既に謎の地下空間への出入り口は発見した……違いますか?」

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