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第2章「はきだめ」 1-3 ルール無用の闇闘技場

 「いや……実は、私はこの街の出身でして……」

 口元をひん曲げながら、ペートリューが眼を合わさずに云った。

 「へえ!? ペートリューさんが!?」

 ペートリューがボソボソと語るには……。


 ペートリューは、ギュムンデの超下っぱ役人の家に産まれ、12歳ころから役所の雑用などをしてたが、18歳でそれとなく魔法の才能が開花。ただし、フランベルツで唯一の魔法学校であるティアード魔術専門学校に入るには年齢が進みすぎていたため、リーストーンから戻ってきたゲーデル山羊製品買付け商人より伝え聴いた、ダンテナで領主付の魔法使いランゼが弟子を募集しているという話を頼りにダンテナへ向かい、弟子入りしたのが19のころ。四年間修行し、なんとか低レベルながら魔法使いとしてやってゆこうとした矢先に、15のころから飲み続けている酒の依存症が発覚したというわけだった。


 「へぇー……しかし、こりゃまたうまくやれば、天下無敵のストラの旦那なら、いくらでも稼げそうでやんすなあ、ゲヘェッ、シッシッシッシシシシ……!!」


 プランタンタンが肩を揺らして笑う。


 「プ、プランタンタンさん、けっして、一人で外を出歩かないでください。あと、必ずあのケープを着て、フードをかぶって顔を隠して。特に夜なんか、絶対出歩いちゃダメですよ。必ずストラさんといっしょにいてください」


 「どうしてでやんす?」


 「この街……いえ、フランベルツじゃ、エルフは珍しいんです。特にここ・・じゃ、あっというまに誘拐されて、売られちゃいますよ……」


 「ゲェッ」

 奴隷に逆戻りは御免被ると、プランタンタンが身をすくめた。


 「桑原桑原でやんす……。それはそうと、ストラの旦那がご用意してくだすった手持ち金はまだたっぷりありやあすが、これを元手に、どうやって御金様おかねさまを増やそうって魂胆で? 賭けごとでやんすか? あっしは、あまり得意ではねえでやんす」


 「私も、賭け遊びはちょっと……大酒飲み大会なら出られるんですが」

 「違いねえでやんす」

 プランタンタンが、笑えずに顔を歪ませる。


 「でも、賭けは賭けでも、賭け試合ならどうです? ……ストラさんなら、絶対に負けませんよ」


 「賭け試合でやんすか?」

 「領内では禁止されている、ルール無用の闇闘技場があるんですよ……」


 「ははあ、なるほど……旦那に賭け続けていりゃあ、無限に勝ち続けられるっちゅうわけでやんす」


 プランタンタがもう、融けたような笑顔になる。

 「そっ、それに、賞金が出るんですよ、勝った人には!」

 「しょっしょ、賞金でやんすか!?」

 「そうです!」

 「決まりでやんす!! 旦那!! だんなあ!!!!」

 「いいよ」


 「よっしゃあああああ!  さっそく、超絶大金持ちへの第一歩でやんす! 前祝いでやんすよ、ペートリューさん!」


 「ま、待ってました!」


 ペートリューが、隣の部屋から中型のワイン樽をゴロゴロと転がしながら持ってきた。通常の樽の三分の一程度……75リットルほど入る。とても、個人で買うものではない。飲み屋にあるものだ。


 「い、いつの間にこんなものを買ってたんで!?」

 プランタンタンが目を丸くする。そもそも、どうやってこの三階まで運んだのか!?


 そして、もしやと思い、ペートリューが樽を出してきた隣の部屋へ行ってみると、同じような樽がひい、ふう、みい……五つも置いてあった。


 「…………」


 あきれ果て、あいた口が塞がらぬ。もう、焦りながらもペートリューが栓を抜き、専用のひしゃくですくって、金属のゴブレットに並々と注いでいる。プランタンタンもストラも飲まないので、一人で飲む。が、


 「ま、まあ……じゃあ、少しだけ頂くでやんす」


 コップというより、ちょっと深い皿のような、我々で云うお猪口ちょこのようなものに赤ワインを少しだけ注いでもらった。


 「さ、さあ、旦那も……」

 「うん」


 ずっと街中を三次元探査していたストラがそれを終え、ペートリューからゴブレットを受け取った。プランタンタンが音頭を取り、


 「えー~、ではでは……この街でのあっしらの御金儲けを祈念しましてー~、えー、もう御金持ちは決定事項でごぜえやすが、あー~」


 既に顔が弛みきっている。

 「プランタンタンさん、顔、顔」

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