表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
40/1287

第2章「はきだめ」 1-1 脱出準備

第2章「はきだめ」



 1


 タッソから三日かかるところを、二日で命からがらダンテナへ逃げ帰ってきたストラ……いや、プランタンタンとペートリュー、兵士たちにまぎれて城へ入り、あてがわれていた部屋に戻るや、すぐさまダンテナも脱出する用意を始める。


 「それにしたって、御金様おかねさまをもらい損ねたでやんす! どうやって、フランベルツなりヴィヒヴァルンなりに行きやあいいんでやんしょ……!」


 プランタンタンが、城から配給された少ない荷物を纏めながら、顔をしかめる。

 「そうですよ! 無一文では、ヴィヒヴァルンはおろか、フランベルツまでだって……」

 「これ、持ってきた」


 いきなりストラが重そうな革袋を出し、ドシャリと音を立てて机の上に置いたので、目の色を変えてプランタンタンが皮紐を解いて袋を開ける。


 「……すっげえええええええ!!!!!!」

 中には、一枚100トンプ銀貨が、なんと80枚も入っていた。

 「は、は、は、は……8,000トンプもあるでやんす!!!!!!」


 「どっ、どうしたんですか、これ……!?」

 ペートリューも、息をのんで銀貨とストラを何度も見比べた。

 「タッソの代官所から、持ってきました」

 「ええええええ!?」


 シンバルベリルを破壊しただけではなく、公金まで失敬してきたとは……!! 常識で考えれば、とんでもない大悪党の所業である。


 それ以前に、そんなことができるのかどうか、だったが、できるも何も、現実にタッソは壊滅し、目の前に8,000トンプある。


 「ひょええ……!」

 ペートリューは、感嘆して声も無かった。


 「そんなことよりいいいいっしっしっしっししししししィィ~~~!! これで、どこでも行けまっせええええええ!!!!!!!! さ、さささあ、さあさあさあ、とっととこんなところトンズラしやしょう!! これを元手に……フランベルツで一旗! 二旗!! 上げるでやんす!!」


 そう云ってプランタンタンがガバリと袋を持ち上げ、懐へしまおうとしたので、

 「まッ!! 待ってください!!」


 ペートリューが血眼となってその手をつかんだ。プランタンタンがギョッとして、必死の形相のペートリューを凝視した。


 「な、なんでやんす……!」

 「お酒!! お酒買わせてください!!」

 てっきり分け前の話かと思ったが……ホッとしつつ、プランタンタン、


 「こ、この非常時に酒なんざあ、後で買やあいいでしょ!! いまは、逃げるのを最優先にするでやんす……!!」


 「少しでいいから!! 少しで!! 酒、酒!! 酒酒酒酒酒酒さけえええええええ!!!!!!!!」


 血走った眼をむいてゾンビみたいにプランタンタンへ取りすがり、ペートリューがそう叫んだので、


 「シーーーーーッッ!! 声が大きいんでやんすよ!! いっつもいっつも!!」


 ペートリューの口へ手を当て、黙らせる。外をあわただしく、兵士がドタドタと駆けて行った。


 完全に行ってしまってから、仕方なく、銀貨を一枚、渡す。

 「これっぽっち!! で!! すか!? もう!! ちょっと!! プランタンタンさん!!」


 「うるっさ……!! バカでやんすか!? こんなときにいきなり大金なんざ使ったら、アシがつくでやんしょう! ただでさえ、この銀貨は代官所の刻印が入っているのに!!」


 「えっ……」


 云われて、ペートリューが渡された銀貨を目の前にして良く見た。リーストーン内で使われる貨幣に違いないが、ゲーデル山羊製品を取り扱う専門貨幣でもある。タッソを訪れた商人達は代官所でこの銀貨と両替し、卸商組合でゲーデル山羊製品を買うのが古くならの習わしだ。


 それが、組合を通さないで代官所が直接、エルフ達と製品の取り次ぎを行い始めたのが事の発端だったが。


 もう、どうでもよくなった。状況的に。


 「認証を受けた商人以外……特に、ペートリューさんみたいな魔法使いがこの刻印入りの銀貨で酒なんざ買おうものなら、酒屋から通報されて、それだけで衛視がすっ飛んできまさあ! もちろん、あっしやストラの旦那もでやんす! だから、リーストーンから出て、両替してから使いたいんでやんす!!」


 「そんなああああああ、お酒無いとフランベルツまで持ちませんよおおおおおおお!!」


 プランタンタンが、あからさまに舌を打つ。チラッ、とストラを見やったが、ストラは我れ関せずで明後日の方を向いて……いや、いつもの半眼で、明後日の方向の虚空を見つめていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ