表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
35/1287

第1章「めざめ」 6-5 ストラの呪い

 魔術式波動に同調し、強制的に反転、効果や術式そのもの・・・・を打ち消して霧散させる指向性干渉波を放ち、ランゼへ直撃させる。さらには、強制的にランゼの魂魄近接領域から魔力を吸い出した。


 「!!」


 心臓を鷲掴みにされたような感覚に襲われ、ランゼは胸を押さえて息を詰まらせた。心筋梗塞にも似たこの感覚。医学的知識もないし、まして魔術式干渉効果の副作用という考えも無い。自分の身に何が起きたか理解できず、


 (ま……まさか、ストラのやつめが……呪い・・を……!?)

 そう考えるのが精一杯だ。

 (心音、脈拍、脳波に異常を感知。干渉を中止)

 「……!!」

 突然、楽になって大きく息を吸う。


 が、耳から心臓が出るのではというほどの鼓動を打つ胸を押さえ、脂汗を大量に吹き出しながら、ランゼは魔法陣の中央で膝から崩れ、荒く息をついた。視界が真っ暗だ。


 (おのれ……おのれえ……)

 ただの魔法戦士ではない。こんな、恐るべき呪いの秘術まで駆使するとは……。

 しかも、殺しもせずに途中で術を解いた。警告だ。なぶるような。


 勝てない。

 痛感する。


 魔法学院の成績で、最初から勝負するのもはばかられるような、雲の上の優等生たち。そいつら・・・・と対決させられた、攻撃魔法の授業。一撃で吹き飛ばされ、失笑と苦笑にまみれた若かりしあの日。それ以上の感覚に襲われる。屈辱を超えるもの。


 それは、恐怖だ。


 こんな相手に、勝てるはずがない。こんな恐ろしい呪いを使い、さらには剣でもエルフの竜騎兵十騎を一人で瞬殺する。


 (化け物だ……化け物がリーストーンに現れた……)

 それはもう、不運というものだ。

 (グラルンシャーン殿……お許し下され……私には、勝てません……)


 最初は、たわいもない野望だった。領主の甥であるタッソ代官を領主にして、古くから続く慣習を廃止し、複雑な流通の仕組みを改める。リーストーン家とグラルンシャーンで直接ゲーデル山羊製品を扱って、儲けを数倍にする。そうして、領民に還元する。


 一種の流通革命であり、現領主と卸商の連中を排除するのは、必要最低限の犠牲だった。


 リーストーンのためと思った。それだけだ。


 動悸が治まってきて、なんとか立ち上がる。そのまま、激しい吐き気と頭痛と胸の圧迫感をこらえ、寝台へ横になった。何度か深呼吸しているうちに、眠りに落ちた。


 そうして、そのまま、目覚めなかったのである。


 

 7

 

 翌日、早朝。


 兵士80人と共に、ベンダとアルランがタッソへ戻るために城を出た。ストラたちも、二人のそばにいる。


 領主は執務室で出発の報告を聞き、何度も深い嘆息をついた。

 「……ランゼはどうした」

 「まだ、お休みかと」

 「あやつも、もう年だな……」


 リーストーン公がランゼの急死を知るのは、昼前であった。


 そのころには、一行は街道を順調に進んでいた。そのまま三日半かけ、タッソへ何事もなく到着する。


 「戻ってきやがった」


 タッソ代官、ヨートルホーン・ガールム・リーストーンは、35歳。領主の亡くなった弟の子で、領主の子らと兄弟のように育った。それなのに、老獪なエルフの大酋長グラルンシャーンの口車に乗り、伯父と従兄弟らを追い落として領主になりたいだけ・・の人間だった。


 最初は、ナニを馬鹿なと思ったが、ランゼが味方になると知って、俄然やる気になった。

 「ランゼは、暗殺に失敗したようだな」


 本来は代官の目付役のはずである三人の魔法使いが、代官屋敷に集まっている。元は四人だったが、ペートリューは大酒のみの無能がバレて早々にクビになった。三人とも若く、ランゼの弟子や、魔法学院の伝手つてを頼って雇った者たちだった。男が二人と、女が一人である。


 「そうですね。生きて、タッソまで戻ってきておりますので」

 「ランゼは、どんな云い訳をしてきたんだ!?」

 魔法使いたちが、不安げに見合う。

 「……それが、連絡がつきません」

 「なんだって?」

 代官が眉をひそめた。


 「……まさか、裏切ったのか!?」

 「そんなはずは……」

 もし、領主に鞍替えしたのであれば、三人は梯子を外されたことになる。

 「グラルンシャーンの指示は、なにかあったか?」

 「そ、それは……」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ