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第1章「めざめ」 5-5 魔法戦士

 と、ボソリとストラが云ったものだから、暗がりに光って分かるほど兵士がドッと汗をかき、


 「も、もうしわけござりません! 何卒、御許しを……!」

 いきなり片膝を床について頭を下げた。

 「なにが?」

 その後頭部に、ストラが冷たい声を浴びせる。


 (話がズレてるでやんす)

 プランタンタンが首を振った。とたん、

 「プランタンタン、話を聞いて」

 そう云って、ストラが下がったので、


 「へ、へえッ、さいでやんすか、へえ! すいやせん、旦那の御命令なもんで……さ、ささ、兵士さん、お立ち下せえ。ええ、と……そうでやんす、あっしらが、ゲーデル山羊製品卸商組合の使者であるベンダさんとアルランさんの護衛を引きうけやあして、へえッ! なんせ、組合から御領主様へ御助けを願う御手紙を出すのは、その御二人でなんと四回目らしいんでやんす! それまで、おおそれながら、タッソの御代官様と、ゲーデルエルフの超絶極悪酋長グラルンシャーンの手下に……へえ!」


 そこでプランタンタンは声をひそめ、眼を丸くして自分を見つめる兵士の耳元へ背伸びをしながら美しい顔を近づけ、


 「ぜんぶ暗殺されたんでやんす……」

 兵士が、ゴクリと唾をのんだ。訴状の通りだ。


 「へえ! それで、四度目の正直! 組合の方々の身を案じて、この! 凄腕の魔法剣士ストラの旦那が、用心棒に……と、そういうわけでやんして! ゲッヘッヘヘッ、シッシシッシ、シ……!」


 最後の、前歯の隙間から空気を漏らす笑いさえなければ、プランタンタンの説明や交渉もまだ説得力があるのだが、これでどうにもうさん臭さ・・・・・が残る。


 「そのことについて、我が主へ証言を願いたい!」


 「そりゃあもう! なんせ、あっしらは間違いなく! 十人以上もの、超絶極悪非道なグラルンシャーンの竜騎兵に襲われやんしたからね! もっとも! ストラの旦那が! アッ…………………という間に!! たったお一人で、こう、チョイチョイのチョーーーーイッと、やっつけちまいやんしたけどね!」


 「……ゲーデルエルフの竜騎兵十騎を、一人で!?」

 「それもそれもそれも!! 瞬きする間に……でやんす!!」

 流石にそれは誇張が過ぎる、と兵士は思ったが、事実である。


 「ねえ、ペートリューさん!」

 「き、きっと、高速行動の魔法を……」

 「高速行動の魔法!?」

 兵士が眼を見開く。


 「ま、魔法剣士……そういうことでしたか……!!」

 兵士が驚愕に打ち震え、窓際で微動だにせず立つストラを凝視した。

 「よくわかんな……」


 「いやいやいやいやいや! それで、ゲへエッッシシッシ、シシ~~~! もしでやんす! もしよかったら! 組合の仕事が終わりやしたら、ストラの旦那を傭兵にでもいかがでやんしょおおおおー~~って、御領主様に、どうかお口添えなどいただけましたら、幸いでやんす~~~!」


 火でも出るのではないかというすごい速度の揉み手のプランタンタンに眉をひそめて、兵士は、


 「そ、それは、閣下に直接、云え……」

 と、返すのが精一杯だった。


 「そ、それで、スト……ストラ様……エルフの竜騎兵に襲われ、それを確かに撃退したこと……閣下の前で証言し、またどこで撃退したかお教えください。我らが、確認してまいります……!」


 「いいよ」

 「で、では、どうぞこちらに……」


 ストラを先頭に、三人は兵士に続いて宿から出た。馬……に似た生物が用意され、ストラが器用に跨がる。その後ろにプランタンタンとペートリューが続き、三人は暗い中を城間で案内された。


 

 6


 夜の城内は、漆黒の中に松明の明かりだけがぼんやりと浮かび上がって、ひっそりとしていつつ、異様な空気に包まれているのが分かった。タッソのゲーデル山羊製品卸商組合と云えば、本来なら代官直属にして、領主直轄の半公営組織だ。それが、その代官とエルフたちによって商売から外されているというのだから、衝撃は大きい。


 もっとも、その空気は領主や魔法使いランゼが醸しだしているものが城内に伝わっているのであって、まだ公にされてはいない。一部の高位の者たちだけが異様な雰囲気となり、それが城内に伝染している。

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