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第5章「世の終わりのための四重奏」 1-3 プラコーフィレス

 


 それからエーンベルークンが案内された客間は、洞窟を掘った穴ではなく、岩壁に木を組んで小屋を作った場所だった。洞穴内は異様に冷え、炭を入れた行火あんかや、厚く植物繊維を編んだ布団が用意してあった。洞窟深くなので昼夜の感覚が狂うが、その夜は休んで、次の日、プラコーフィレスに呼ばれ、違う部屋で打ち合わせをした。そこが洞窟のどこかも良く分からないが、とにかく鍾乳洞内に掘られた、二人だけの作戦室だった。


 「こんな穴倉の中だけどよ、よく眠れたか?」

 「ああ……御陰様でな……」

 「しゃべれるじゃん」

 「ああ……」


 無表情は相変わらずだが、エーンベルークンが先日よりずっと声を張っており、プラコーフィレスは満足した。


 「ところで、連中、いまどこにいるんだ?」

 「スラブライエンに向かったのは、つかんでいる……」

 「スラブライエンか」


 「だが、その後……マンシューアル軍と戦争をしていたピアーダ将軍が裏切って……ガニュメデを攻めるらしい。その中に……いるかもな」


 「じゃあ、ガニュメデか」

 「偵察に……向かうか?」

 「そうだな……」

 ピカピカの石の床に胡坐あぐらで座ったまま、プラコーフィレスが少し考えた。

 「観に行って、確認して……しかし、ガニュメデでは戦わんぞ」

 「なぜだ……」


 「オマエさんの話を聴く限り、我々二人でも、そのストラとかいうバケモノには勝てないからだ」


 「…………」

 エーンベルークンが、その銀灰色に光る眼を細めた。

 「では……どうする?」

 「魔王様に喰わせる」

 「魔王……!」

 エーンベルークンは息をのみ、

 「魔王レミンハウエルか……!」

 「様をつけろよ」

 プラコーフィレスが苦笑しながらも、大真面目に云う。

 「す、すまん……ここにいる・・・・・のだったな……」


 つい、周囲をキョロキョロと見てしまう。その辺にいるというわけではないというのは、分かっている。が、魔王というからには、魔術的な機構でこの洞窟全体を隅々まで監視している可能性は高い。


 「しかし……本当によいのか……その……」

 「なにがだ?」

 「魔王……様を……利用するなどと……!」

 「それは、心配無用だ」

 「ほう……?」


 プラコーフィレスは胡坐あぐらをかいた膝に肘を乗せ、身体を傾けて頬肘をつきながら、


 「これは族長の考えだし、そもそも、魔王様はヴィヒヴァルンとの古い盟約により、常に生贄を欲しているのさ」


 エーンベルークンが息をのむ。

 「その話は……本当だったのか……!」


 「本当も本当。ヴィヒヴァルンの王は、280年にも渡って代々魔王討伐をうそぶき、何千人という自称勇者や英雄の自己顕示欲の塊のバカ、あるいは冒険者とかいう一攫千金を狙うだけの強欲なアホを魔王様に捧げているのさ!」


 「ふうん……」


 エーンベルークン、何のために? とは聞かなかった。盟約の内容に踏みこむからだ。それこそ、不遜。


 「分かった。では……どうやって……」

 「それは、魔王様に直接、聴こう」

 「なんだと……!?」


 胡坐あぐらのまま背筋を正したプラコーフィレスが左手の甲をエーンベルークンへ向けるや、その手の甲に小さいが山吹色に光り輝く宝玉が現れる。


 シンバルベリルだ。

 色からして、濃いオレンジのエーンベルークンの六~七割ほどの魔力量か。

 「う……!」

 光というより、魔力の輝きに目を細め、エーンベルークンが額に手をかざした。

 気がつくと、広大な洞窟内空間にいる。我々でいう、ドーム球場ほどの大きさだ。

 魔法により、空間転移したのだ。転移魔法である。

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