表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1280/1287

第18章「あんやく」 3-12 荒野再び

 その刺とヒゲだらけの竜の口元が、ニヤッと笑ったようにも観えたが、黄色く光ったギョロ眼を細めて、応竜がウネウネと夜空に上って行ってしまった。


 それを呆然と、アルーバヴェーレシュとホーランコルが見送った。


 「……なんだ、ただの魔獣ではなく、強力な魔族だったのか……どおりで強いわけだ」


 アルーバヴェーレシュは、そう云うのが精一杯だった。

 「よくそんなものを召喚し、操れましたね……!」

 剣を納めたホーランコルも、感心しきりだ。


 「操るなんて、とんでもない。向こうが面白がって、来てくれただけかと」

 キレットが自嘲気味にそう云ったが、それは本当だった。

 「本当にたまたま・・・・来たということか……運がよかったのだな」

 アルーバヴェーレシュが放心しつつ、首を振った。小剣を納めて、


 「幸運が続くとは限らない。今のうちに行けるだけ進もう。相手は紙切れだ、蟻がごとくにやって来るぞ」


 アルーバヴェーレシュが云い、3人がうなずいた。

 


 夜の闇を裂いて4頭の浮雲が飛び、やがて夜が明けた。進行方向の山あいの向こうから日が昇ってきて、とにかく東側に向かっていることが確認できた。


 「少し、休まないか!?」


 ホーランコルが速度を落としながら他の者と並走飛行して叫び、皆うなずいた。だが、眼下に降りるところを探してると


 「見ろ、ホーランコル! 街道だぞ!」

 山あいの隙間を縫うような小さな平野があり、街並みと街道が見えた。

 「……ずいぶん兵士がいるな!」

 ホーランコルも気づいた。


 街道筋や、ささやかな村落に、ウジャウジャと槍を持った雑兵がいる。

 一行が街道を通るのを警戒しているのは、明白だった。

 「飛んできて正解だったな!」


 アルーバヴェーレシュが、安堵したように云った。やはり、相手が正規兵だと魔物を倒すようにはゆかない。例え、1000や2000は倒せたとしても、だ。国を敵に回して勝てるのは、魔王だけだろう。


 「休憩は我慢して、もう少し行こう!」

 アルーバヴェーレシュがそう云い、逆光にまぶし気に銀の目を細めつた。

 


 けっきょく、一行はそのまま昼近くまで飛び、当初目標にしていた「妙に尖った山」の稜線を越えた。


 とたん、なだらかな丘陵と森と平野、そして遠くに目標である荒野が見えた。


 タケマ=トラルに率いられ、狼竜ベゲットで渡ったあのマートゥーやクァラ諸侯領と接する大荒野だ。


 (来た時も、なんだかいろいろと敵がいたな……)

 ホーランコルがそう思って、風に目を細めながら苦笑した。

 「ホーランコルさん、あのあたりで休みましょう!」

 キレットの声で我に返り、指をさしている辺りを見下ろした。

 春先の雪交じりの景色に、5つ6つほどの湖沼群が現れている。

 「よし、水を補給しよう!」


 ホーランコルが叫び、アルーバヴェーレシュから順に浮雲を旋回させて、湖の畔に降り立った。


 「イテテ……」

 竜から降り、ホーランコルが腰を押さえる。

 あの、イアナバの高級宿で受けた按摩が既に懐かしい。

 「冷たい水だ」

 泉に手を入れ、水筒に新しい水を補給しながらネルベェーンがつぶやいた。

 休息中でも、3人は魔力の動きを探るのをやめない。

 「特に、問題はないようだな……」

 アルーバヴェーレシュも水を補給する。


 そこで、上空を燕のように旋回していた伝達小竜がホーランコルの肩に止まった。


 「ホーランコル、聴こえるか」

 「殿下!」


 ちなみにホーランコル達は、いまだルートヴァンが代王に即位したことを知らされていない。


 さらにちなみに、ストラが影の魔王を倒したことを受け、夏前には正式にヴィヒヴァルン王に即位することとなった。それは、初めてルートヴァンがストラと出会った日に合わせる。


 「かなり荒野に近づいているようだが、状況はどうだ?」


 「ハ! 敵の執拗な魔術による追っ手も撃破し、いま荒野の手前の泉で休息中です。しかし、イェブ=クィープ上空の風が強く、かなり南に流されていると思われます」


 「そのようだな……僕の術では、おおざっぱな位置しか特定できん。聖下であればよいのだが……聖下はいま、チィコーザなのだ」


 「えっ……!?」

 意外な状況に、4人が驚いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ