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第18章「あんやく」 3-8 山岳地帯上空

 一行も走り、かんじき・・・・を脱いでまたがるや、いつも通りあとは乗るのも魔術だ。勝手に竜が勢いよく四肢で雪面を蹴って飛びあがり、すかさず羽ばたいて風を捕まえると、一気に山の上に舞い上がった。


 「みな、いるか!」

 ホーランコルが、4頭にそれぞれ4人がちゃんと乗っているのを確認した。


 「とにかく東へ向かう! おそらく……殿下は、最初に渡ってきたあの荒野に魔法の船とやらをよこすはずだ! そこへ向かおう!」


 「なぜわかる!」

 アルーバヴェーレシュが、風音に負けぬよう声を張り上げた。

 「俺だったらそうするからだ!」

 「なんだ、そりゃ……大公なんかアテにならない!」


 「じゃあ、お前ならどうする!」

 ホーランコルがそう叫ぶや、アルーバヴェーレシュが、

 「私も、荒野に出向かえを寄越すだろうな! 行こう!」


 そう叫び、太陽の位置から真東を正確に読み取って、真っ先に浮雲を飛ばした。


 「続け!」


 次にホーランコルが方向転換し、キレットとネルベェーンがその後ろを飛んだ。



 一行はそのまま日が暮れるまで飛び、夜は人気のない山の影や谷間に降りて休んだ。アルーバヴェーレシュの魔法の背嚢バックパックには旅費や糧食がドッサリと入っており、飢えることは無い。追手もなく、非常に順調だった。浮雲という竜は草食寄りの雑食のようで、冬でも枯れない笹や木の枝を飽きることなくバリバリと齧っていた。


 3日目の夜に、今度はカラスほどの大きさの黒い小竜が一向に接触した。

 「みな、順調か?」

 焚火の前に立った黒い小竜からそうルートヴァンの声がし、


 「はい、殿下、いまのところ追手もなく、飛竜に乗り東へ突き進んでおります。まっすぐ行くと、イェブ=クィープとマートゥーの合間にある荒野に出ますが、そこへ向かっておりますが、よろしいでしょうか?」


 「街道の南にある荒野だな。僕も、そこが良いと思っていた。人目につかないからな。しかし、目印は必要だ。この小竜をそのまま帯同しろ。小竜の魔力をめがけて、すぐにも魔法の飛行船を飛ばすとしよう」


 「畏まりました!」


 「いまのところ追手はないと云っていたが、無いはずはない。そのつもりで、警戒を怠るな! おそらく魔術的な追手だろう!」


 「いかさま!」

 「キレット、ネルベェーン、アルーバヴェーレシュ」

 「ハッ!」

 3人が同時に返事をした。


 「油断するなよ、イェブ=クィープの魔法は独特だぞ」

 「御任せくだされ!」

 代表してキレットが答えた。

 「では、荒野で会おう!」

 通信が終わり、黒小竜がそのまま大欠伸をして焚き火の前に横たわった。



 イアナバに向けて山中を抜ける時、タケマ=トラルが、今時期はイェブ=クィープの空は風が強くて飛ぶのは危険……と云ったことがあったが、一行はそれを身をもって痛感した。


 イアナバを出て東に進んでいるつもりだったが、強烈な東北の向かい風に押されて、気がついたらかなり南に向かっていた。


 黒小竜がいるので、それに合わせてルートヴァンの魔法の船もやってくるのだろうが、距離が遠くなるのは確実だった。


 けっきょくジグザグと細かな乙字運動飛行を繰り返し、5日もあればイェブ=クィープを抜けられるだろうと目論んでいた5日めには、


 「ここは、どこなんだ?」

 という状況に陥った。


 上空から四方を見渡しても、山ばかりで、どこか広大な山岳地帯に迷いこんだのだろうということは理解できた。西の海も、東の荒野も、浮雲の飛ぶ高さからは全く見えなかった。


 その春先の深山の合間に降り立ち、風で乾いた眼をこすりながら、


 「参ったな。完全に迷った。イェブ=クィープの簡易な地図でも、見せてもらっておけばよかったな」


 ホーランコルがそう云って嘆息した。

 「地図なんか、見せてもらえるわけないだろう」


 さすがに疲れたアルーバヴェーレシュが、清水を入れた水筒に口をつけてつぶやいた。


 「それもそうだ」

 ホーランコルが、肩をすくめた。

 「それはそうと、追手はどうなっている。何故来ない」

 ネルベェーンが、大きな目を不審そうに細め、ぶっきらぼうに云った。

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