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第18章「あんやく」 3-5 軟禁状態

 「あと、さいきん、皇帝陛下に謁見したかね?」

 「……いいえ、このところ、協会にも御出になられておりませんので」


 何か変わったことは無いか聴こうと思っていたが、これでは分からないだろう。


 「すまん、ありがとう。じゃ、今日はこれで上がるよ」

 「御疲れ様でした。ごゆっくり御休みください」

 「では」

 マーラルがデーレウと別れ、本当に宿舎へ戻った。

 (なんとかして、代王と連絡を取らねば……!)

 


 そのころ……。


 ホーランコル達は、イェブ=クィープを脱出せんと残雪の残る山中を、とにかく東に向かって彷徨っていた。


 10日以上前、ルートヴァンより驚愕の知らせがホーランコル達に届いた。


 特に強力で高速かつ隠密可能な特殊伝達小竜が、正確にイアナバのホーランコル達の宿舎に到達した。小竜といってもカラスほどの大きさなのが一般的なので、スズメより小さなトカゲみたいな竜がチョロチョロと畳の上に出た時は、本当にイェブ=クィープに住む小さな生き物が冬眠から覚めて出てきたのだと思ったほどだった。


 小竜は慎重に室内や周囲を探り、寛ぎつつも深刻に考えこんでいるホーランコルへ素早く近寄ると、


 「……僕だ、ホーランコル。1人か?」

 「でん……!!」

 大きく息を飲んだホーランコルが咳払いし、声をひそめて、

 「か……殿下ですか!? いかがされました!?」


 小竜を隠すように畳に寝転がってそうささやいた。すぐさま、緊急電であることを理解する。小竜がホーランコルの顔に近づき、


 「他の3人は一緒か?」


 「一緒ですが、広い宿舎でして、けっこう離れ離れの部屋をあてがわれております」


 「そうか……イェブ=クィープも、警戒しているな」


 「やはり、そう思われますか? いちど斎王に謁見しましたが……その後、半ば軟禁状態にて」


 それより、ホーランコルはタケマ=マキラに聞いた話をルートヴァンにしようと思った。が、その前にルートヴァンが、


 「ホーランコル、いますぐイェブ=クィープを脱出しろ。東の国境沿いまで、迎えの魔法の船を出す」


 「なんですって……!」


 「斎王と帝都の皇帝は、聖下の御覇業に疑義を抱いている。もしやもすると、手を組むかもしれん。おまえたち、人質に取られるか、殺されるぞ」


 「で、では、魔王様がイェブ=クィープを訪れる段は……」


 「当面は無くなった。それか、訪れる際はイェブ=クィープを亡ぼすときだろう」


 「……!」

 ホーランコルの表情が、俄かに険しくなった。


 「殿下……ストラ様が御倒しになられる敵の魔王……世界に何人いるかも分からぬと、祭祀王が申しておりました」


 「そのことだ。タケマ=ミヅカ様の古例に則って、これまで世界の魔王を倒してきたが……聖下はいっさいの魔力を御遣いにならん。タケマ=ミヅカ様と同様の法は、現実的ではないという。僕も今更ながらだが……マーラル殿とも打ち合わせ、聖下でどのように救世するものか……それを探りながらの救世となる。聖下がどうのこうのではない。我々が試されると思え。これは、我々の救世なのだ。聖下は、有難いことにそのために御身をどのように我らが使おうと勝手次第……と、申された」


 「なんと……!」

 ホーランコルの胸が、高鳴った。

 「取り急ぎ、脱出しろ。いいな」

 「畏まりまして御座りまする……で、どこに向かえば」


 「随時、連絡する。まずはそこを脱出して東に向かえ! そこはイェブ=クィープの中枢だ。危険極まりなくなった」


 「いかさま!」


 「それと、矛盾するようだが、イェブ=クィープで逐一内情を知らせてくれる協力者になりそうな者は、誰か心当たりがないか。お前たちを逃がすと、イェブ=クィープの情報は一切入らなくなるからな」


 「間者ですか……!」

 ホーランコル、すぐにタケマ=トラルの顔が浮かんだが、

 「今のところは、難しいでしょう」


 「そうか……そんなに深い情報でなくとも、いま何が起きているか程度でも助かるのだが……まあいい、だめならだめで、やりようはある。まずは、その街を脱出するのが先決だ。みなを頼んだぞ。いま、お前たちを失うわけにはゆかん!」


 「御任せくだされ!!」

 トカゲ小竜が素早く走り、小春日和に開け放った障子から飛び立った。

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