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第18章「あんやく」 3-3 地下神殿の日常

 いまだに破壊の痕跡が残る空間を見渡し、また次元の乱れを観測して、マーラルが畏れ入った。しかもそれが軍団であった云うのだから、皇帝騎士や特任教授に戦死者が続出したのもうなずけた。


 (ストラ殿がいなければ、どうなっていたことか)

 それだけでも、ストラに与する価値はあると再確認する。

 「新人か?」


 とある皇帝騎士に声をかけられ、マーラル、ふり返って大柄なリューズリィ皇帝エルフである騎士を見あげ、


 「はい、後方支援を主に担います。リール・マーラルです」

 そういって礼をした。

 「後方支援? おまえさんが?」

 人間でいうと38ほどのベテラン騎士が、濃藍こしあい色の目を丸くし、

 「冗談だろう」


 「どうしてです? 私は、前線で強力な敵と戦うような術は持ちあわせておりません」


 「そうかね……」

 騎士は、まじまじとマーラルを見つめていたが、

 「ま、そういうこと・・・・・・なら……支援をよろしく頼む」


 何かを察し、そう云うとマーラルの肩を軽く叩いて、何かしらの調査作業をしている仲間の元へ行った。


 「フ……」

 思わずマーラルがそう微笑し、見回りを続ける。


 「神の間」の直前の大広間に直接現れたという怪物どもが、メシャルナー神を狙っていたのは明白だった。何のために、次元を超えてまでタケマ=ミヅカを狙うのか……。いまもって謎は解明されていない。


 (追い返したり、退治したりするだけではなく、捕らえてその辺りを調べる必要があるのだろうが……我々の魔法技術では、とてもそんな余裕はないのが現実だ)


 次元回廊を通り、皇帝及び一部の皇帝騎士と特任教授しか入室を許されない「神の間」の直前まで来た。


 「見回り御苦労。新人の教授だな? 聴いていると思うが、其方は立ち入り禁止だ。それ以上、近づいてはならない」


 最厳重装備で神の間の門前(物理的な門ではない)を護る2人の皇帝騎士が、マーラルを止めてそう云った。


 「御苦労様です」

 静かにマーラルがそう答え、礼をして踵を返した。


 (タケマ=ミヅカ殿……真意はどこだ? なぜ、現れない? 本当にストラ殿を後継にする場合、どうやって行うかまで考えていたのかね?)


 心の中で呼びかけ、マーラルが神の間を後にする。



 そのようにして何度か見回りを行っているうちに、特任教授の知り合いもできた。


 幸い、緊急警報アラートが鳴るほどの襲撃者は、いまだ出現していない。


 ルートヴァンに報告したいことはいろいろあったが、常に城の上空を例の大鷲が何匹も・・・飛び回っていたので、何か他の法を模索していた。


 (数が増えとるぞ……)


 苦虫を噛みつつ、マーラルは少しずつ半魔魂マルトの研究者に接触していた。勅命で、半魔魂マルトを根本から強化することになっているのは、研修で習った。


 (特任になって正解だった)

 その情報も、外部からではまったく分からなかったろう。


 ペンドロップとの共通の知り合い(ペンドロップの弟子の1人)である、年のころは40前後のデーレウという溶岩を含む岩石魔術の研究者かつ最前線特任教授と親しくなったマーラルは、ある日、見回り中に同じく別件で偵察任務中だったデーレウと地下神殿でばったり会った際に、


 「半魔魂マルトのほうは、進んでいるのかね?」

 と、聴いてみた。


 聴きながら、天井近くを蠢いていた不気味な黒い塊をデーレウに見えないように手早く祓ったのだが、


 「さすがマーラルさん、あんなシミのようなものまで見逃さずに……ただの見回り要員ではないことは、気づいている者は気づいておりますよ」


 「よしてくれ。ただの見回り要員だよ」

 「御謙遜を。ペンドロップ先生の御推薦ですからね」

 「それはそうと……」

 「はい、半魔魂マルトですね」


 そこでデーレウが声をひそめて歩きだし、共に歩き出したマーラルに向かってヒソヒソと、


 「マーラルさんは御存じないでしょうが……そもそも、あの戦い・・・・のとき、強大な怪物どもを食い止めた英雄が、いま噂の異次元魔王だったというのですよ」


 「ほう……」

 当然、マーラルはシラを切る。

 「異次元魔王……」

 「御存じで?」

 「噂だけは」

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