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第18章「あんやく」 3-1 皇帝の違和感

 「半分成功、半分失敗です。私の責任です。副中継ポイントが、これほどの効果を発揮するとは予測できませんでした」


 「そんなこと、魔王様の責任では!」

 思わずリースヴィルがそう云った。


 「王都の防御結界が半壊、冬の日の幻想の効果が半減した模様です。いま、大至急ゾールン廃神殿跡地に現地滞在偵察部隊が向かっています」


 「なんだって……!」

 オネランノタルも息を飲んだ。


 そして、すぐさま魔力の高速船を出し、3人で乗りこむや王都に向かって超高速転送をかけた。



 元よりゾールン封印地跡は監視の対象で、騎士や兵士が近くの村に駐屯している。いや、駐屯地にあとから村が形成されたと云ったほうがよい。


 ここ何百年かは監視も形骸化し、半年ほど前にオネランノタル、ピオラ、フローゼが探検した際は久々に緊張が高まったのだが、いま新王レクサーンの命で監視が強化されていた。偽ムーサルクことヴィーキュラーガナンダレ密林エルフの巫女戦士ノコォノスガンマナがどこから現れたのかといえば、この神殿跡地以外に考えられなかったからだ。


 「とばせ、とばせェッ!」

 超高速伝達魔法により至急電を受けた偵察騎士団、毛長馬リャドフをカッとばした。

 「隊長殿、あれを御覧あれ!!」


 云われなくとも、地平線にいままで見たこともないもの・・が出現しているのが見えた。


 それは古代ギリシャ建築物めいた、巨大円柱に囲まれた真四角の白亜に極彩色の装飾のついた建築物だった。


 (な、なんだ、あれはあッ……!!)

 騎士部隊長が、おもわず馬を止めた。

 「ど、どうされました……!?」

 追い抜いた6人の部下が、あわてて戻った。

 「あ、あれを見よ!!」


 おそらく数百年……いや、下手をすると数千年ぶりに復活したゾールンの魔神の神殿から、続々と兵が出現していた。


 しかも、すべてが屈強な南方人、そしてヴィーキュラーガナンダレ密林エルフだった。


 さらに、見たこともない双頭や複頭のゲドル、我々の象にも似た姿の巨大な陸生軟体生物(陸生巨大イカ)、また有翼の鷲頭獅子や大獅子(キレットとネルベェーンが帝都で使っていたもの)などの魔獣も、ゾロゾロと出現していた。


 「あ、あわわわ……!!」

 さしものチィコーザ騎士たちも度肝を抜かれて、一目散に引き返した。


 

 3 

 

 マーラルは無事、特任教授に任命され、短い研修ののち、新任として皇帝(魔術師協会会長)に謁見した。


 「陛下、このたびこの3名が新たに特任教授と相成りまして御座りまする」

 「そうか」


 本来はもっと大々的に執り行う儀式なのだが、事実上の臨時就任(正式な特任教授ではないという暗黙の了解がある)のと、皇帝の体調が思わしくないということで、小広間で簡易的に執り行われた。


 マーラルの他の2名は、1人はマーラルも知っている30半ばほどの溌溂とした帝都人女性で、1人はヴィヒヴァルンかその周辺小国の出身らしい知らない若い男性だった。3人の中で、見た目は40代ほどのマーラルだけが、やけに草臥くたびれている。


 だが、ペンドロップの云っていたように、魔術師に見た目や年齢としはさほど参考にならず、若かろうが老年だろうが魔術のレベルに関係ないのである。


 マーラルは当然のように会員ながら魔術師協会とはほぼ無縁で、ものすごくたまに何かしらの用事があるときに協会を訪れるていどだった。そもそも、どうやって会員になったのかも覚えていない。


 したがって会長である皇帝ともほぼ無縁で、ものすごくたまに遠目で見かけるていどだったので、初めてこんな間近に皇帝を見た。


 (さて、こんな御方だったか……?)

 それでも、一撃で違和感を看破したのだから、さすがと云えよう。

 通り一辺倒の紹介と挨拶ののち、皇帝からの、

 「励め」

 の一言で謁見は終わり、皇帝はサッサと退室した。


 緊張を極めていた2人が大きく息をついて、互いに微笑みあった。その後、マーラルに声をかけようとしたが、不愛想に一点を見つめて黙りこんでいるマーラルを見やって、口をつぐんだ。


 (そもそも、こんな人まで特任教授に?)

 と、最初から思っていたからだ。

 「どうせ、後方支援要員だ。前線に出る私たちとは違いますよ」

 などとも、すでに話し合っていた。

 マーラルはそんなことは知ったこっちゃないので、


 (どうもひっかかる……この違和感は何だ……魔力が異質なのか……? 微妙な差異だが……なんにせよ、どんな些細なことでも代王に報告だ)


 特任教授は広大なリューゼン城内に住まうことが義務付けられているので、マーラルも宿舎を与えられた。


 その窓より、ルートヴァンに向けて伝達魔法を飛ばす。

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