第18章「あんやく」 2-17 デカイってのは、それだけで武器
「この規模の魔像を製作できるのは、帝都の魔術師協会しかないでしょう」
「協か……」
フローゼが黙った。皇帝の手配だろう。
「正直、私たちじゃ、ちょっと手こずるかもね」
2人の実力では倒せなくもないが、時間がかかる。いま、その時間が最も惜しい局面だ。
「既に、オネランノタル様に救援を御願いしました」
「そうこなくっちゃ」
とはいえ。
「黙って待ってる場合じゃない! 魔像なら、魔力阻害装置で部分的にも機能停止できるはず! 私が正面から行くから、リースヴィルは私の阻害効果に気をつけて遠隔攻撃を御願い!」
「分かりました!」
思えば、ゾールンの廃神殿跡の調査でも、これほどではなかったが、地下洞窟で巨大な魔竜と戦った。
その時はオネランノタルとピオラが猛攻を加え、怯んでいる隙にフローゼが魔力中枢器官に阻害効果をぶちかました。
(だけど、魔像となると、どうだろう!? むしろ、私の攻撃が通りやすいのでは!?)
その判断は、大正解だった。
帝都に入る前の北方街道に番人のメカゲドルがいたのは第13章で記してあるが、それの改良版であるこの黒竜、云うなれば機構により全身に魔力が電流めいて流れていて、それを阻害するのだからむしろ通常の魔物よりフローゼの必殺技は効果がある。
だが、問題はこの大きさだ。
ライオンがネズミを捕らえるかのように、ウロチョロするフローゼめがけて仁王立ちで起き上がった竜が、豪快に前足を叩きつけた。阻害効果がどうの以前に、風圧と魔力圧でフローゼがはじき飛ばされてぶっ飛んで無様に転がった。
「なんだ、コンチクショウ、リースヴィル、攪乱して!」
そのまま転がりながら起き上がって、フローゼが叫んだ。
「畏まりました!」
リースヴィル、飛翔魔法で飛びあがると、巨大竜の周囲を旋回しつつ、ありったけの攻撃魔法を浴びせた。
が、こちらはライオンの周囲を飛ぶ1匹のハチていどで、しかも完璧な対魔法防御がその攻撃の全てをはじいた。
「だ、だめです、攪乱になりません!」
珍しくリースヴィルが弱音を吐いたが、フローゼには聞こえていなかった。
黒竜が巨大な翼を動かすや、これも猛烈な風圧と魔力圧がリースヴィルを襲い、たまらずリースヴィルが錐揉みして大地の向こうに飛んで消えた。
「ウァアアアア!!」
雄叫びと共に、フローゼがありったけの阻害効果を乗せて、とにかく黒竜の巨体のどこかにめがけて炎刀を叩きつけた。
1メートルはあるだろう竜の黒い鱗がバラバラに砕け散り、分厚い皮のような層も破けてなにやら砂と油を混ぜたようなものが大量に噴き出たが、怪獣が弱る気配は無かった。
「デカイってのは、それだけで武器なんだ!」
逃げ惑いながらフローゼが感心したが、感心している場合ではない。
「リースヴィル、何やってるの!? 攪乱してって云ってるでしょッ!?」
ヒステリーめいてフローゼが叫ぶも、戻ったリースヴィルは渾身の超特大火の矢5連発が全て竜翼の表面にはじかれて転がり、そこら中に巨大な炎柱を立ち昇らせたのを見やり、
「私の魔力じゃ、こいつの防御を貫けない! 陛下やオネランノタル様でなくては……! フローゼ様こそ、必殺の魔力阻害装置は何やってるんです!?」
「デカすぎるんだって!」
互いに会話をしているわけではないのだが、そう独り言で叫びながら、フローゼが何度も黒竜の足元や尾のどこか、執拗に叩きつけられる巨大な手の、自分の背丈ほどもある射干玉に艶めいて輝く鉤爪に阻害効果をぶちかますも、一部が大きく欠けるていどのダメージしかない。完全に出力不足だった。
そのうち、黒竜の首の周囲の巨大な鱗や刺が鰓めいて立つように開き、空気と魔力を強力に吸いこんだ。
太い首が俄かに膨れ上がって、鱗の隙間が青白く発光し始める。
誰がどう見ても、ドラゴンブレス攻撃だった。
「フローゼ様、逃げてください!!」
リースヴィルが叫びつつ、自らに何重もの魔法防御をかけた。
フローゼも一目散に逃げながら、魔力阻害効果で自らを囲う。これは玄冬にかけた阻害効果の檻の応用で、防御に利用するものだ。
その黒竜の右肩の辺りに、超高速で一直線に飛んできた巨大な杭が矢のように突き刺さった瞬間、大爆発を起こした。
天に向かって青白い炎が噴きあがり、さしもの黒竜が横倒しになった。
「2人とも、いったん下がるんだ!」
「オネランノタル様!」
リースヴィルが安堵の声を発した。




