第18章「あんやく」 2-11 中継地点
「ハイ! では、さっそくですが……」
リースヴィルが椅子の上に乗り、地図に手をつき、指さしながら、
「先日の攻撃を私も観測しましたが、魔力と術式の流れは紛れもなく西から来ています。しかし、それが帝都なのか、イェブ=クィープなのかが判然としません。西方の術は独自の術式を組みますので、対抗魔法を開発するのは手間です。時間もありません。なので、術者を直接叩いたほうが早いと考えます」
「こ、皇帝府かイェブ=クィープを、直接攻撃するのですか!?」
ムラヴィールリィが仰天して声を荒げ、また半分気絶して倒れこんだ。
「後ろで休ませておけ!」
レクサーンがそう命じ、兵士と役人がムラヴィールリィを運び、ソファに横たえた。
「場合にと必要によっては、そうなりましょうが……」
リースヴィルがオネランノタルを見た。
「直接かつ最速でそんなことができるのは、ストラ氏だけだ。しかし、魔王が直に動くとなると、影響が大きいよ。なにせ、相手はゾールン……もしかしたら、そのまま魔王同士の戦いに雪崩れこむかもしれない。そうすれば、帝都もイェブ=クィープもチィコーザも、どうなるか分からないよ」
「それは、勘弁願いたい……!!」
レクサーンがそう呻き、頭を抱えた。
「で、ですが、ゾールンのヤツは、冬の日の幻想があるかぎり、まともに出てこれないのでしょう!?」
誰かがそう云い、オネランノタル、
「そうだ、そのために冬の日の幻想を狙っている。しかし、どうなるか分からない。ストラ氏の攻撃が間に合わず、王都の防御が破られるかもしれない。それに、まともに出て来ていない、分体の分身だかという貧弱な状態で、私や代王やフローゼが手も足も出なかった。まともに出てきたら、どっちにしろおしまいだよ」
一同絶句。
そんなやつを国内に抱えていたなんて、まったく誰も認識していなかった。イリューリ王ですら、そこまで認識していたかどうか。
「私が直接動くのは、最終手段であり、現実的ではありません」
やおらストラがそう云い、全員が押し黙った。
「オネランノタルの云う通り、魔王が動けば魔王が出る可能性は高いです。まして、相手はゾールンです。どのような手を使うか想像もできません。私は、ゾールンが出るまで裏方に徹します」
「では、直接攻撃は私とリースヴィル、フローゼで行うのかい?」
オネランノタルがそう云い、
「イェブ=クィープや皇帝府を、直接襲撃するのは止めておきましょう」
「どういうことだい?」
「中継地点があるはずです」
「中継?」
そこでリースヴィルが息を飲んだ。
「そうか……敵魔王ならいざ知らず、イェブ=クィープからここまで、あの攻撃の規模で魔術効果を飛ばすのは、我らの常識では不可能です。やはり、西方の術でも難しいと考えるのが妥当。とすると、どこかに魔力や術の中継地点が……!」
おお……! と、一同が感嘆の声をあげた。
「だがストラ氏、その中継地点が帝都の可能性は?」
「衛星軌道上からの魔力子の人為的な動きを観測したところによると、複数の中継地と思わしき場所が確認できます。帝都もそのうちの1つですが、チィコーザ王国内にも大規模な中継地点があります」
「どこですか!!」
レクサーンが叫んだ。
「このあたりです。ここに、なにか施設はありますか?」
ストラが王国全図の西部を指さした。
大きな尖塔付の建物が描かれている。
「……スターコールリィ大神殿です」
リムスカール伯爵が、少し震える声で云った。
かつて、コンポザルーン帝が大神官を務めていた場所だ。
そして、現在は死罪を免れたアーリャンカ王女が半ば軟禁され、政変で散った人々を偲び、メシャルナー神へ世の安寧の祈りを捧げている。
「そこを、破壊すると!!」
チィコーザの人びとが動揺を隠さなかった。雷鳴王にして建国王イヴァールガル自らが創建し、1000年の歴史があるチィコーザの心の支えの1つだった。
「また、再建すればいいでしょう! いま、その神殿のせいで国が滅びようとしているのですよ!」
そう厳しい声で叫んだのは、フローゼだった。
レクサーンが机を叩いた。
「よりによって、ここを……!」




