第18章「あんやく」 2-4 不意の遭遇
シートベルトもないので、プランタンタンとフューヴァは必死で席の背にしがみついていたが、ペートリューは床に転がって気絶していた。
「やれやれ、なにをするにしても、すんなりいかねえな!」
目を回して、フューヴァがふらつきながら席から立ちあがった。
「キィッヒヒヒヒ! 愉しくていいじゃないか!」
「うるせえ!」
フューヴァがそう悪態をつきながら荷物を背負い、斜めになっている飛行体のハッチをなんとか下りた。
「ペートリューさん、行くでやんすよ!」
プランタンタンがそう云うが、席と席の合間で転がったまま、ペートリューは起きなかった。
「もういいでやんす。オネランの旦那、みんなが出てから、このフネを消したほうが早いでやんす」
「云うじゃないかプランタンタン! 是非そうしよう」
その通り、全員が出たのを確認して、オネランノタルが飛行体を消し去るや、高さ2メートルほどからペートリューが地面に落ちた。
それでもペートリューが死体めいて微動だにしなかったので、フローゼが吹きだして笑ってしまった。
「相変わらず、すごいなあ、この人……」
「感心してる場合じゃねえぜ、フローゼ」
フューヴァがそう云い、ペートリューの荷物から出した酒の入った水筒の蓋をとって、ペートリューに嗅がせる。
「起きろ、ホラ! 酒だぜ! これでも飲んで目を覚ませや!」
「それ、どういうセリフ!?」
フローゼがまた笑いだした。
「お酒ェエ!」
ペートリューが飛び起き、四つん這いになってフューヴァの手の水筒に口だけつけて家畜の子供みたいにワインか何かをゴキュゴキュと飲み始めたので、フローゼ、
「アアーッハハハハハ……!!」
腹を抱えて笑った。
「寸劇じゃねえぜ! まったく……」
ペートリューに水筒を渡し、フューヴァが嘆息。
やっと動けるようになったペートリューが立ち上がり、一息ついた。
「じゃ、行こうか」
真っ黒いフード姿になったオネランノタルが、そう先導した。
春先とはいえ、標高の高いチィコーザはまだまだ寒い。
残雪の下を通る雪解けの湧き水にぬかるみはじめた春初旬の昼下がりの荒野を、みなでゾロゾロと歩き、王都を目指す。
王都はもう遠くに見えているので、このまま歩けば明日の昼ごろか、休まなければ深夜半には到着するだろう。
荒野からいったん森というほどでもないが木々のまばらに生えた場所を通り抜け、そこを抜けたとき、ばったりと5頭の毛長馬に物資を満載し、何頭かの家畜まで引き連れて、手綱を引いて歩いていた旅人と遭遇した。
「うおッ!?」
男たちが驚いて身構える。1人が剣に手をやったが、リーダーと思わしき男が手でそれを制した。フローゼやリースヴィル、フューヴァが素早く状況を認識した。
(商人では無い……盗賊……にしては、装備がイイ。戦士が3、後ろは魔術師? が2……冒険者……にしては、状況が妙だ。さては、冒険者くずれか……下手をすれば、勇者くずれかも?)
フローゼが的確に判断した。
一方、男たちも、
(なんだ……?)
盗みと殺しに澱んだ目で、フローゼらを素早く観察した。
1.女勇者=フローゼ ※要注意
2.女魔術師=ペートリュー
3.女? 軽戦士か魔法戦士=ストラ ※注意
4.女盗賊=フューヴァ
5.ガキ? 従者か?=リースヴィル
6.正体不明、たぶん魔術師=オネランノタル ※要注意
7.エルフの盗賊?=プランタンタン
(なんだ、黒いの以外は全員女で、しかもガキ連れか……)
数では上だが、その思いが賊どもを安堵させた。
しかし、イマイチ良く分からない変則パーティーだ。
(危なそうなのは、赤いヤツと、真っ黒いチビだ……)
勇者くずれで無精ひげの中年、取り繕うように、
「ああ……オホン……観ての通り、王都に物資の運搬中だ。あんたらは?」
「こっちも、王都に向かっている最中だけど?」




