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第18章「あんやく」 2-2 皇帝の覚悟

 コンポザルーン帝がそう声を高くした途端、激しく咳きこんだので、

 「へ、陛下! 御心を御鎮めなさりますよう……!」

 「すま……すまん……だが、余の期待とおりだ。斎王……」

 コンポザルーン帝が息を荒げながら、


 「異次元魔王では世界は救えん!! 余は、異次元魔王に直に会った! あの者とて、好きでこの世界に来たわけではない……たまたま、漂着したにすぎん。まして、この世界のために身を捧げるつもりもない。元の世界に戻ることができるのなら、それに否やは無いとはっきり云いおった」


 「では、遠慮なく帰ってもらいましょうぞ」


 「勿論そうする。異次元魔王を持ち上げるヴィヒヴァルンとその傀儡には、打ち滅んでもらうほかはない」


 「できますか……!?」


 「魔王がいるうちはできまい。なので、先に異次元魔王を元の世界に帰すか……またどこか知らぬ世界へ行ってもらうほかはない」


 「いかさま」


 「現在の反魔魂マルトの法では、異世界より来たばかりの漂流者を、その世界とまだ半分つながっている状態でしか、通用せん。そのつながっている世界に帰すのだからな。異次元魔王は、すでに完全に元の世界とえにしが断ち切られており……反魔魂マルトでは帰せなかった」


 「で、あれば……」


 「彼奴きゃつめの元いた世界をどうにかして探すか……どこかまったく関係ない世界に飛ばせるよう、法を改良するしかない。が……おそらく余が生きているうちは完成すまい。後事を、御主に託すほかはない」


 「ハハッ……!!」


 「世界が崩壊するとて、最低でもあと100年はもつだろう……異次元魔王ではなく、真に世界を救世できる者が現れるのを待つしかないのだ……タケマ=ミヅカ様のようにな……」


 「仰せの通りに御座りまする!!」

 「それを、御主に託す……!」

 「有り難き幸せ……!」

 「それに当たり、斎王よ。頼みがある。……いや、命を下す」

 「何なりとお申し付けくだされ」


 「チィコーザの『冬の日の幻想』を破壊せい!!」

 タケマ=マキラ、俄かに意味が分からなかった。黙りこんでしまい、

 「どうした、マキラよ!」

 「あ、ハッ……陛下、そ、それは、いったい?」

 「知らんのか」


 「畏れながら、存じ上げませぬ」

 「そうだったか……すまぬ。死期が近いせいか、気ばかり焦りよるわ」

 「左様なこと……」


 「異次元魔王に対抗できる、古き竜の魔王を封じる珠だ。正確には、すでに封じられている墓所をさらに封じているのだが……かつて、イヴァールガル雷鳴王はタケマ=ミヅカ様の命で、その魔王を封じる墓所を見張るため、かの地にチィコーザを建てた」


 「なんと……!」


 そういえば、コンポザルーン帝はチィコーザの先王の弟だったとマキラは思った。


 「その後、チィコーザも内紛で混乱する時期があり、古き竜魔王がその混乱に乗じて復活を目論んだ際に、謎の放浪魔術師が墓所の中身を・・・・はるか南方の地に移封した。そうして、移封を頑強にするためにかけたカギこそが『冬の日の幻想』なのだ」


 「それを、破壊してしまってよろしいのでしょうや?」


 「チィコーザが異次元魔王に帰依したいま、むしろ古き王家の者として、チィコーザを滅ぼさねばならん!」


 皇帝が断固とした声を発し、マキラは感嘆した。

 「そこまでの御覚悟を……!!」

 深く瞑目し、決意をこめた眼で刮目する。


 「分かりました。イェブ=クィープに伝わるあらゆる秘術をもってその封をやぶり、異次元魔王に対抗する古き竜の魔王を見事よみがえらせてみせましょうぞ」


 「よく云った、流石だ!! それでこそわが後継者よ!! さすれば、その古き竜魔王が新たなる救世者となるやもしれぬし、ほかの救世者を待つことも叶おうというもの。とにかく、異次元魔王では世界は数えぬということだけが確定しておるのだ」


 「畏まって候」


 「頼むぞ!! マキラ斎王、偉大なるメシャルナー神の末裔よ。我らはその隙に、全身全霊全魔力をもって、異次元魔王を元の世界に帰す法を確立する!」


 「御任せくだされ……!!」


 巨大な密林ワシが大きな翼を広げ、甲高い声を発すると一気に神祇庁の中庭より飛び立った。


 その風圧を受けて目を細めたタケマ=マキラ、人が変わったような鋭い眼に尋常ならざる神聖魔力を秘めて、すっくと立ちあがった。

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