第17章「かげ」 4-18 エナジードレイン
その隙に玄冬が近似次元へ脱出を試みたが、入れ替わりだけではなく単純な移動も禁じられていた。
「クソがあッ!!」
思わず胸元に貼りついているマーラルの封印呪符台紙を掴んだが、元魔王の強烈な呪力で貼りついており、ビクともしなかった。
「無楽仙人めが!!!!」
真っ赤に焼けたコークスのような両目が、怒りで歪んだ。
ストラが空中で燕返しに急カーブを描き、玄冬の背後に迫った。灼熱の空気の流れを切り裂く衝撃で熱風が吹き荒れ、熱で溶けて舞い上がった土砂がダイヤモンドダストのように光った。
物体が超高速で移動する気配を察知し、玄冬が空間歪曲による時間遅延を発動。
それは、発動できた。
あくまで禁じられたのは、多次元との「移動」だ。
であれば、使える能力を駆使して異次元魔王を倒すほかはない。
だがストラ、時間遅延効果範囲外より大出力で熱線を放った。
その熱線の滝が玄冬の周囲でゆっくり降り注いだが、遅延範囲外はそのまま地面を抉った。
時間差でまず玄冬の足元が吹き飛び、衝撃で玄冬が浮き上がった。
そこで時間遅延が終了し、玄冬がビームの奔流に巻きこまれる。
空間断層バリアでダメージは無かったが、大爆発に翻弄され、玄冬は位置を失った。
そこにストラが光子剣を振りかざして迫った。
空間のゆがみを足場にし、玄冬が高速飛行によるストラの胴斬りを華麗に避ける。
避けながら、分身をかけようかどうしようか判断に迷った。
すなわち、8乗体を解除し、4乗体を2体にするかどうか……だ。
それ以上に分かれては、とてもではないが瞬殺されるのは確定だ。
(いや、いま、別れてはまずい!!)
玄冬はそう判断した。4乗体でも、おそらく相手にはならない。
で、あれば……!
玄冬、忍びらしく逃げを打った。
(先に、無楽仙人の封をなんとかしなくては! このバケモノに勝てるはずもなし!! 勝負にすらならぬわ!!)
玄冬が空間のゆがみを蹴って、一気に4人になった。
これは2乗体が4人になったのではなく、空間をゆがめてミラー効果のように空間に三次元体を写し出したにすぎない。ただし、空間ごとコピーしているので、実体である。
そこでストラが、広範囲に余剰エネルギー回収フィールドを展開した。
自らの一部を爆破させたこの1メガトン程度の余剰エネルギーを強力に回収しつつ、フィールドの一部が玄冬を捕らえた。
たちまち、これまで玄冬が吸収した魔力や霊力が、ごっそりと奪われる。
「……!?」
玄冬はアンデッドなので苦痛は無かったが、それよりストラがアンデッドと同じ攻撃を仕かけたことに驚愕を極めた。
これは、アンデッド特有のエナジードレイン攻撃と同様のものだった。
少なくとも玄冬はそう判断した。
玄冬もそれを行うことができ、イエユエ=シャンより生命力の全てを搾り取った。
だが、アンデッドからはドレイン攻撃ができないのがアンデッド世界の理だった。この攻撃は、アンデッドが生者に行う攻撃だ。なぜなら、アンデッドは死者なので、生命力を有しない。そういう理屈である。
ストラが回収しているのはあくまで玄冬が変換した魔力、そして霊力であり、厳密には生命力ではない。
ストラの理論では、霊力だろうが魔力だろうが生命力だろうが、何でも良いから回収できるエネルギーをただ回収しているだけで、いちいち選択しているわけではない。
ミラー効果を維持できなくなり、分身が消えた。
それどころか、急激にパワーを失って、8乗体の維持すら難しくなる。
「貴様!! こんな攻撃を!! どうやって!!」
玄冬が、灼熱色の眼光でストラを凝視して叫んだ。
幾度か記しているが、この「余剰エネルギー回収フィールド」は、ストラにとってはエネルギー回復プログラムのうち、予備のまた予備ほどのサブサブ機能で、滅多に使わないし、元の世界では回収量も限られたものだった。そもそも元の世界では、敵から直接エネルギーを吸収できない。
しかし、この魔力世界や、玄冬のいた世界のような霊能科学の世界の存在からは、エネルギーを直接吸収でき、このように恐るべき攻撃法として確立している。これは、ストラにとっても予想外だったし、どういう理論でそうなっているのかも不明だった。
とにかく、できるものは利用する。
ストラにとっては、それだけのことだった。
吸収される範囲外の余剰エネルギーが範囲内に向かって動いて熱風を生み出し、ストラと玄冬に向かってすさまじい勢いで風が吹きこみ始めた。




