第17章「かげ」 4-15 兵器として
「御屋形様は、貴様を後継に認めたことなど、一度たりとてないわ!! 貴様は、狡猾で愚かなヴィヒヴァルン王に利用され、担がれているだけの神輿よ……!! その化けの皮を剥ぎ……元居た世界に叩き戻してくれる……!!!!」
玄冬は、既に8体すべてが合体した「8乗体」だった。本体がいつまで持つかは分からないが……究極奥義だ。短時間ながら、戦闘力は少なくともゴルダーイやロンボーンに匹敵するか、上回っているだろう。
「そも、貴様は、この世界で何をしている!! 何のために魔王を倒している!!」
その言葉は、オネランノタルには聴こえなかったが、ストラには聴こえた。一種の次元波通信だ。
「……非作戦時自律行動における私の第一行動目標は、当該世界への移動時に失われた主エネルギーの回復です」
「なあにぃい!?」
玄冬が珍しく感情をむき出しにして、片眼を細めた。
「それだけのために、貴様はこの世界をメチャクチャにしているというのか!!」
「はい」
ストラが何の感情もなく、そう答えた。
玄冬は両目とも細めて、
「……フ……主を持たぬ野良兵器は、当然そうなるわな……哀れなヤツ……」
そこで刮目した。
「だが、兵器としては正しい!! 兵器は、自らの勝手な意思や判断で戦ってはならぬ!! それはもはや、兵器ではない……ただのバケモノよ。貴様が、この世界を救うため……などとぬかそうものなら、怒髪天を衝くところであったが……!!」
玄冬は、そこでゆっくりと腕組みを解いた。
「我らは、人に使われるために生まれてきた。それだけが共通点だ……。ならば、自律待機行動中の貴様より、御屋形様の命に従う身共に理も分もあろうというもの……」
そこで大仰に構え、手の甲をストラに向けて、チョイチョイと手招いた。
「こい、異次元魔王!! 手合わせ願おうか!! 勝負だ!!!!」
「いいよ」
ストラがゆっくりと降下し、城壁の上の通路部に降り立った。
「クク……次元戦を極めた身共に、貴様が得意な膨大な熱攻撃は効果が無い! 無駄にエネルギーを消費するだけだ……。ここは、互いに躯体を打ち滅ぼすまで、殴りあう他はあるまいて……」
「そうは云っても、貴方は理論上ほぼ無尽蔵に多次元の存在と入れ替わることが可能です」
「それも含めて、なんとかしてみせよ。それが身共の性能だ」
「いいよ」
云うが、ストラが第1戦闘速度の超高速行動に突入!!
一瞬で、音速をはるかに超えた。衝撃波で城壁の一部が崩れ、街を嘗め尽くす炎が引き裂かれる。
しかし、玄冬が周囲の空間をゆがめ、時間の進行を一時的に遅らせたため、むしろスローモーションのようにストラが玄冬に迫った。
光子剣による居合の一閃を、一足跳びに間合いに入った玄冬がその柄頭へ左手を添えて抜刀を封じつつ、体を開いて受け流しながら猛烈な右肘打ちをストラの左半面に打ちこんだ。
時間が戻り、ストラが自分の突っこんだ超高速反動も加わって、版築塀と石積の通路を崩しながら数十メートルもぶっ飛んで、瓦礫と土砂に埋まった。
ストラが何らかの生物であれば、顔面の半分が砕けるか陥没して即死は確実だったが、とうぜん、無傷である。どころか、打った肘が砕けるかという衝撃が玄冬に返った。
玄冬もアンデッドであるから、自身の肉体が砕けようがひしゃげようが関係ない。
破壊が進めば、多次元の新品と入れ替わればよいだけだ。
「ヌゥオオオオオ!!」
地鳴りめいた雄叫びをあげ、玄冬がストラに吶喊した。
「ィイエヤアア!!」
珍しくストラも気合発声し、迎え撃つ。ストラが居合を止め、抜き放った光子剣を超高速で振り回し、玄冬へ叩きつけた。光子破断効果により、光が触れるだけであらゆる原子が断ち切られる。玄冬は刃とその刃の発する光に触れることもできないが、そのすべてをストラの手首を押さえ、打ち、あるいは避け、蹴りを放って光子の斬撃を防いだ。
どころか、ストラに蹴りや拳や手刀を確実に打ちつけた。
だが、ストラはどんな攻撃を加えようと全く意に介さないし、ノーダメージだった。
能面か仏像めいた無表情のストラの下段からの斬りつけを仰け反ってかわしつつ、玄冬がまた空間制御による時間遅滞。
バック宙返りを打ちながら、ストラの両目に爆裂苦無を打った。
時間が強制的に遅らされているストラはバリアを張る間もなく両目に苦無が突き刺さり、しかも脳天を吹き飛ばすほどの爆発が襲ったが、当たり前ながらなんのダメージもなくそのまま爆炎の中から現れ、玄冬の度肝を抜いた。




