エピローグ
転生したけど受精卵の生きる意志に負けました。
復讐のため再度転生しましたが今はとても穏やかな気分です。
「ねね」彼女は大きく実る稲穂を眺めながら足元で急かしく小さな足を動かす幼馴染に声をかける。
「アルダス君は何処にも行かないよね」「にゅ?」
彼はすっとぼけてみせる。数百年。下手をすれば千年以上この世界を守り、戦い続けてきた『神剣』と呼ばれる男。
俺から見ればちょっと小生意気な友人。
私から見れば忘れられないヒト。
秋風が肥料の匂いを二人の口元に運んでくる。
その香りの先にはいつもの母の料理。
遠くでは若き領主が新しい農政を考え元村長にダメ出しを喰らい。
村の中央の酒場では今日も男たちが呑んだくれ、神殿の神官である娘が聖印の形に手を振り。
鍛冶屋の父を連れ戻しに来た幼い娘の声がここまで聞こえるかのよう。
「とぼけないでよ」
ほら。がんばれ。がんばりなさい。
俺は。私は。あなたなのだから。
頬が熱くなる。足がふらつく。胸が意志に反して大きく鳴る。
舌が絡まって言いたいことも言えない。伝えたい言葉が喉から出かかっているのに。
「そ、その。アルダス君」「なに。ユーナ」
「もうすぐ。お祭りだよね」「だね」
いかないで。そこにいて。
そう思うのに脚は動かず、彼の小さな足取りを恨めしく目線が追う。
彼は振り返って意地悪く微笑む。自然こちらの口元も緩む。
「あのね。もしよかったら。お祭り。……私と踊って」「喜んで」
瞳から漏れる熱いきらめきは、秋の風を受けて七色に光り輝き、彼の頬を濡らす。
大きく彼の前に膝をつく。土の香り。
彼の唇は甘い唾液の味がした。
(おしまい)




