おはよう
「おはよう! アルダス君!! 」「うわっ?! びっくりしたっ?! 」
私の頬に当たった暖かい涙や彼の声をもう少し聴いていたかったのはそうなのですが、流石に本気で泣かれるのは辛いのです。
おはようございます。ユーナです。
ぐずぐずと真っ赤な顔をごしごしする彼をあえて無視。
横を見ると同じく真っ赤な顔で鼻水をぐちゅぐちゅで泣いている妹のユカ。
『おいで』と手で招くと思いっきり抱き付かれました。
「おねえちゃん~!!!!!! 起きてよかった~~~~!! 」
妙に気分爽快なんですけど、私何日寝ていたんだろう。
鼻水と涙で私の着ている夜着はぐちゃぐちゃ。
ぐちゃぐちゃ……あれ? アルダス君が顔を逸らしてますけど。
「見るな~~~~~~~~~~~~!!!!!!!! 」
彼が凄い勢いで家から飛び出していきます。もう。
頬っぺたに抱き付いて鼻水と涙を押し付けてくる妹にほとほと困り果て、私は窓の外を見ると外に飛び出た筈のアルダス君と目があいました。
「こら」「見てない」うそつき。別に良いけど。
「ユーナ!!! 」お、お、おがあざん。ぐるじい……。
「もう目が覚めないと思ってたのよ!! 守り神様たちにお願いして良かった!! 」
あ~。守り神様達か~。何故か良い気がしないんですけど何故でしょうか。
何故か空中で守り神様達が『よくやった』と親指をグッと出している光景が頭に浮かびました。馬鹿馬鹿しい妄想ですけど。
「ユーナ姉ちゃんが目覚ましたって? 」
ぴょこんと窓をよじ登ってきた鍛冶屋のカズヒトさんの処のカズヨちゃん。
「おお。嬢。目が覚めたか。こうなったら俺とユリカが結婚してお互いの力を合わせて介護するしかと」「嫌。ジャック」「さいですか」
どさくさで人の母にプロポーズしないでください。いつもの事ですけど。
……ぷぷ。
私は嫌いじゃないんですけどね。ジャックさん。
私とユカを撫でてくれるトゥリお婆ちゃん。長生きしてねって言うと「心配かけていたのはお主だ」と珍しく叱られました。ごめんなさい。
なんでも三日以上目覚めず、ウェル様が遠くの街からお医者さんを呼んでくださったそうですけど。
「と、いうかウェル様がうちみたいな領民の家に?! うわあああっ?! ショック?! こんな格好で?! 」「おねえちゃん残念なコだね」
慌てふためく私に冷淡に告げる我が妹。
そうと知っていたらもっと綺麗な服を?!
「ボク、婚約解消しようかな」
絶対ダメ。というか婚約してないじゃないですか!! アルダス君?!
「嫉妬か? アルダス」「まぁね」
ちびすけの頭をつつくジャックさんに頬を膨らませる彼を見てちょっと落ち着きました。
魔王芸の服装をした元村長さんが来て仰るに。
「やはり魔王様にお願いして良かった」神官さんにお叱り受けますよ。まったく。
その神官さんは村長さんの脇腹に軽く突きを入れます。この方中央から派遣されたばかりの若くて綺麗な女性なんですけど村長さんと気が合うんですよね。
「神のご加護です。祈りましょう」そう言って私の額に触れる神官さん。
この村ってたくさんの神様や魔王様に祝福されているのですね。改めてそう思います。
永い夢を見ていました。
不思議な世界に過ごす女の子の夢。神話のような戦いの夢。
お父さんのように私を支えてくれる男の子の夢。
産まれる前の私の夢、生まれてからの私の夢。
私の視線が稲穂に注がれます。
そしてこれからが、――私たちの夢。




