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転生したけど受精卵に負けてしまいました  作者: 鴉野 兄貴
チート主人公ですが彼女に翼をくださいなんて誰が望みやがりましたか

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全部捨てて

 やぁ。俺だ。

無理だわ。こら。

沢渡強すぎ。勝てるわけねえ。あばばばば。

後半ふざけてしまったが沢渡の言うことは悉く当たっているしな。

でも解ったことがある。あの曲者の神様共が教えてくれなかったこともな。


 沢渡は俺と同じ境遇だ。同じ境遇って言ったら沢渡は怒るな。

幸せの絶頂にあって死ぬなんて予想もついていない青春ど真ん中の女子高生とエロゲ―のヤリスギで死亡する二五歳を比べちゃいけない(笑=わら)。

圧倒的リア充過ぎ。俺ヤル気無さすぎ。沢渡みたいな死に方だったら確かにあっちの世界に未練残りまくるわあ。無いわ。こんな幸せな生き方してみてえわ(棒読み)。


 しかし沢渡は幸か不幸か異世界に魂だけトリップしてしまい、

勇者として戦うことになる。数々の出会いと別れを繰り返し、異世界で愛する人もでき、真の勇者として歩みやがて宿願を果たしてめでたしめでたし。

そうなればよかったのにな。


 強すぎる沢渡はやがて畏れられるようになり、

彼女を慕う者はもとより僅か。

恋人だと思っていた者にまで畏れられ、些細なことで彼女を恐れる無辜の人を殺した沢渡の歯車は一気に狂った。

あとは悲劇一直線、沢渡は人類を滅ぼす悪魔として大いに力を振るうようになる。

そこに六人の冒険者が現れ、沢渡を討とうとするのだが。

圧倒的な沢渡の実力に苦戦しつつ、剣を交え術を重ねるそいつらの顔は俺も知っている顔だった。

六人とも泣いていた。何だ。沢渡。お前いい友達持ってたんだな。

人類に対して復讐を誓う沢渡の輪廻転生術を阻止すべく後の神様たちは厳重な封印を八つ用意した。その封印がこの村そのもの。


 沢渡の絶望に希望を。

沢渡の憤怒に正義を。沢渡の嫉妬に友情を。

沢渡の劣情に愛を。沢渡の怠惰に弱者を労わる勇気を。

沢渡の強欲に自由を分け与える気持ちを。

沢渡の暴食にヒトの権利を求める心を。

そして沢渡の傲慢に平等を愛する心を。


 村にはかつて彼ら六名が倒した魔物たちの末裔が集い、

封印を守る代償に人間社会から隔絶されて安全に過ごせるようになっていく。

って。ああ。そうか。

確かにトゥリ婆ちゃんとか餓鬼族に見えるもんな。疑問が溶けたわ。

他にもこの村、ニンゲンの顔してない奴幾何かいるけど異世界だから気にしなかったわ。むしろ盲点だったわ。

ジャックさんは人間な顔だけど似ても似つかん。ジャックさんは元はよそ者だったんだろうな。にしちゃ実に良好な親子関係だけど。


「何をごちゃごちゃと」沢渡の怒りの声が聞こえる。

俺たちは沢渡の意識世界の奥底に潜っていく。奥へ奥へ。小さく。小さく。


「なに。これ」


 破壊光線だの冷凍光線だのバンバン撃ってくれて気づかなかったろうけどな。

俺たちは圧縮されているのだよ。ほら。PCでも余計なデータは圧縮して別のドライブに放り込むよな。

「なにをしているの」「決まってるじゃん。俺たちはユーナの世界に不要な記憶だろ」

「ばかっ?! 消える気ッ?! いやっ?! お父さん! お母さん! 」

「俺は消える訳じゃない。キミも消えない。でも今を生きるユーナにはいらないだろ。ほら……」


 俺の指先には彼女を案じて手を伸ばすアルダスの指先。

あの笑顔があれば、託してもいいかな~とか思ったり。

「お前、アルダス君嫌い? 俺悔しいけど大好き♪ 」

俺が問いかけると沢渡がふるふると手をふる。

「私、『夢を追う者ボウケンシャ』たちと『神剣』は憎んでいない。今気が付いた。すごく憎んでいたけど、そうじゃないって」「だろう? 俺もそう思ってるんだ」


「私たち消えるの? 」「いんや、俺たちって元々ユーナたんの一部じゃん」「そうね。その通りだわ」「……元に戻るだけさ。元に……ね」


 意識がゆっくりとなくなっていく。

俺の記憶がどんどん細分化され、圧縮され、俺と沢渡そのものが小さくなる。

ユーナ。大きくなったな。今なら俺たちがいても君は消えないはずだ。

俺が必死で守ってきたキミの領域は残っている。だから。

「目を覚まして。わたし」沢渡の声が優しく響く。

「これからよ。これから戦わなきゃダメなのよ。ユーナ。マサト」

眠いんだって。話しかけるなよ。沢渡。

「聞いて。草加。私の封印を司る魔物たちは生きているわ……」眠いんだって。いい加減寝ろよ。沢渡。

「マサト。魔物たちが起きる。『夢を追う者たち』はもういない……」ふあああ。もう限界。寝るぞ。さわたり……。

「私の、私たちの村を守って。私の愛する人たちを守って。草加……」眠いんだ。魔物だろうがなんだろうがぶっとばしてやるからお前も寝ろ。ほら。抱きしめてやらあ。俺じゃキモイだろうけど。

「お願い。有難う。草加。私もマサトのこと。……スキだよ」

最後の声はユーナたんだったのか、沢渡夕菜だったのか。俺には判別もつかなかった。

俺たちは細分化され、圧縮され、ユーナの記憶領域を侵害しないように分散されていく。俺たちは消えていく。

「私、ユーナでいいよね」「うん。もう全て終わった」

「私をみんな許してくれていない」「死んだんだって。仏になった人まで恨めんよ。俺が許す。寝ろ。そしてユーナたんとして生きるんだ」

お前が望んだことじゃないか。やりなおしたいって。誰かを愛したいって……。

「そうだね。そうだね。やりなおしてみる……」

もう寝かせてくれよ。沢渡。お願いだからさ。

「あはは。お休み。マサト。でも貴男の仕事はまだまだ続くから。残念! 」もみゅ。沢渡。もう無理。


 ふみゅみゅ。

すやすや……。

すやすや……。

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