第三の人格
よくあるよな。第三の人物が出てきて物語が大きく動いて終局に向かうって奴。
ただし、この場合はバットエンド一直線だが。
やぁ。俺だ。ちと厄介なことになった。
『沢渡夕菜』とか言う娘がいきなり出てきた。
曰く、俺とご同類らしいんだが。この女無茶苦茶強い。
「口に出すのも憚れる不潔な理由で死んだ上、受精卵の生きる意志程度にも負けた貴様が私に勝てるわけがなかろう」おっしゃる通りです。ハイ。返す言葉もございません。
「こちらは生きたくても生きられなかったの! 死にたくても死ねなかったの! 勇者だった私が、お前のような生きる意志も気力も希薄な男に負けるはずがない!! 」
ただ、この女過去と未来の記憶がゴチャゴチャしているのか、言動が可也おかしい。
いや、ハッキリ言う。ある種の狂気に染まっている。会話が成立しない。
その癖、俺の能力や記憶は全部把握していて、こっちの手は全部読まれている。
「スキル『Dウイング』オープン」
「スキル『Gウイング』オープン!!」
そう言えばコイツの能力はユーナたんのそれと同じか同等だもんな。
俺が腰のバックルから切断系の術を放つと敵もまた対抗して来た。
手口は同じ、技も同じだが、精度と威力では悔しいが向うが上だ。使い慣れてもいる。
俺は全身を輝かせ、必殺の攻撃を放つ。「スキル『Dビーム』発動」
「Dビーム!!」煌めく光は全方位性。回避不能の一撃となるのだが。
「スキル『Gビーム』発動」奴は全方位性の技を一か所にまとめて撃つ離れ業で対抗してのけた。
ダメだ。笑えてきた。強すぎる。
「死ね。死ね。皆死ね。そのために私は地獄から帰ってきた。『Gアロー!! 』」
うげっ?! 超音波攻撃かよ?! おまけに魔導まで俺より上ときた。たまったもんじゃない。
果たしてその一撃を翼から生み出した同等の音波攻撃で打ち消した俺だが方向感覚を狂わせてしまい精神世界の奈落の底にまっさかさま。
「夕菜。ごはんにしましょう」「ユーナ。御誕生日おめでとう」
「ねえねぇ夕菜ちゃん遊ぼう」「お姉ちゃん! お姉ちゃんのばか! 」
「夕菜。髪を切ってあげる」「お姉ちゃんの翼って綺麗」
こいつは、沢渡とユーナの記憶?
沢渡の記憶が俺の中に入ってくる。
勇者として持ち上げられ、恋人がこの世界に出来たこと。
剣を手に戦い抜く日々。人に言えぬ葛藤。
やがて些細な行き違いから勇者ではなく悪魔と呼ばれるようになり、
血に飢えた魔物として六人の冒険者に討伐されるまでの記憶。
死に際に『生まれ変わり』の術で復活を計り、それを防ぐ封印術が施された事も。
ああ。そうだ。
「お母さん。今日は早く帰るから」沢渡の声が聞こえる。
「ユーナ。戻っておいで。早く」アルダスの声が聞こえる。
俺は拳を握りしめ直し、もう一度傷ついた翼を広げて舞い上がった。
「沢渡ッ 闇の底から戻ってこい!! 今のお前はユーナだ!! 俺たちの可愛い娘だッ 」




