魔神と呼ばれた少女
ミンナ シンデシマエ
誰? 誰? この声は誰?
「ユーナ。それは幻だッ こっちに来いッ! 」誰だったっけ。
そうそう。確か私は学校に向かおうとしてたんだったっけ。
小さな子供が道を歩いていて、遠くから車が来て。あれ? くるまってなんだろ。
衝撃が身体を走って、私は死んだ。
目端に泣いている子供がいた。よかった。怪我はないかな。
「ユーナ。それ以上思い出すなッ 戻ってこれないぞ」煩いな。
私は翼を広げ、光線を彼に放つ。「邪魔するなら消す」「やってみろ。俺はユーナたんの味方だ」ははは。何を言っているのだ。愚かな男だ。
「この私に勝てると思っているのか。この身体の主は我ぞ」「うっせぇ。何時までも死んだことを引きずって戻ってきたバカ野郎の分際で俺の事が言えるか」
意識空間で我が爪と彼の剣が打ち合わされる。
その剣は? 幅広の剣。刀身は短く握りが長い特殊な形状。
あの忌まわしき『夢を追う者』の剣ではないか。
これも宿業と言うモノだろうか。面白い。
……消し去るのに何のためらいもない。
「人の心を取り戻せッ ユーナ!! 」「人の心だと?! 誰が……私を魔物にした?! 貴様ら人間だッ 」
私は目が覚めたら不思議な世界にいた。
いろんな人と出会い、素敵な恋をして、沢山の人を幸せにして。
気が付いたら手が赤く染まっていた。
切っ掛けは些細な事だったと記憶している。
だが、人はやがて私を『氷の魔神』と呼ぶようになった。
翼持つ悪魔だとも言った。
私は元の世界に戻れない。
戻ることなんて出来るはずがない。
この身体で。この精神で。
「助けられないの? 」子供の姿をした忌まわしい妖精が叫ぶ。
その短剣をかわし、私は冷凍光線を放つ。
どうも過去の記憶と今の意識空間が同調しているようだな。忌まわしい。
「ユーナ!! しっかりしろ!! 」ふん。貴様がユーナと呼ぶ存在のなんとちっぽけなことよ。握りつぶすのも容易だが。
私は小うるさい封印人格と切り結ぶ。少々寝ている間に訳の分からないことになっていたらしい。
「ユーナ。お前はそんな子じゃない」何を言っている。私が夕菜だ。『沢渡夕菜』。それが私だ。
「草加正人。貴様が消えろ」「うっせぇ?! 過去の亡霊がほざくな。俺はユーナたんの親だッ?! 」
親か。お母さんは何処に行ったんだろう。お弁当忘れて来ちゃったよ。
ああ。涙がでちゃう。人の血って目に沁みるよね。
「ユーナ」「お姉ちゃん」どうやら私の母体となった者が何か外で言っているらしい。私に妹はいない。殊勝なことだな。今まで我が身を守ってくれてありがとう。
「ユーナ。目を覚ませ!!!!! 」
この封印人格を滅ぼしたら。人間は皆殺しだ。




