閑話『ながみサイド︰地獄みたいな訓練室の一幕』
※本編に全くもって関係の無い作者のリハビリ用不思議回です。これを読まなくても今後の展開には一切影響ありません!
それでもいいよって方は、どうぞ生暖かい目で楽しんでいただけると幸いです……!
【ながみ視点】
「ゆ、揺れが激しくなってきたなぁ……」
集会が始まってから船酔いに耐えること数時間。
アンリさんの説明も終わり殆ど人影が無くなった訓練室にて、私は壁にもたれかかりながら愚痴をこぼしていた。
「おーい、誰かー……?助けてくれー……」
そのうわごとのような言葉に帰ってくる返事は、当然の事ながら無い。
私の声量が単純にゴミであるというのも原因の一つかもしれないが……
「誰かー……私を部屋まで連れてってくれー……」
しかし、それよりも原因たり得るとすれば、この部屋に人が全然いない事が挙げられるだろう。
というのも、訓練室に居た他の人たちは既に部屋へと戻って行き、残るは数人の乗客と吐き気で動けない私だけになってしまったのだ。
……え?その数人の乗客に助けてもらえって?
いや、それは無理だよ。絶対に無理だね!
どれだけ頼み込んでも運んでくれないね!ヤツら、絶対にそんなことをやってくれるような人間では無い!!!
「うぇっ、ぷ……!うぅ……」
ま……まぁでも、一応、今から話しかけてはみるけど。
でも、絶対に期待しない方がいいぞ?
だってさぁ……
「あのぉー……そこの人〜……?ちょっと助けを……」
「アッ……ゴメンナサイ……イキテテゴメンナサイ……」
残ってるのが、さっき【絡め布】で拘束した人だもんなぁ……
なんかあの一件で戦意喪失しちゃったらしくて、部屋の中心あたりで体育座りしたまま動かないんだよあの人……
加えて、部屋に残ってるその他の人達には普通に無視されるし。
はぁ……辛い。
いくら喋りかけようとも、誰も見向きもしてくれない。
なんとも悲しいことである。
無視されるのがこんなに辛かったとはなぁ。
これは中学時代に避けてしまった数々の学友に、謝らなければならないかもしれない……
───ごめんな、中学時代に声を掛けてきた学友ABCD+α達よ……
君たちが頑張って喋りかけてくれた時、明らかに無視しちゃって悪かったと思ってる……
昔から全然人と関わってなかったから、なんて返せばいいか分からなかったんだ……別に嫌いだったり気取ってる訳ではなかったんだ……コミュ障陰キャなだけだったんだよッ……!
……だから、許してくれ世界!
もう全力で、本当に全力で心から反省するから……!
「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……」
ほら、部屋の中心に居る彼もこうやって頭下げてることだしさ……もういい加減許してくれてもいいんじゃないか世界君?
───それに見てくれよ、私だって心の中ではしっかりと土下座してるんだ!
もう土下座しすぎて首が地面に埋まるぐらい土下座してるんだよ……?
土下座が行き過ぎて、むしろそれは土下座じゃなくて三点倒立だよねってぐらい土下座してるからさぁ……!
……だから、だからこの吐き気を何とかしてくれ!
愚かな私に助けを……助けをく
「うぇっ……!?あぶな……グぅッ……!?!!?!」
───五臓六腑の全てを揺さぶるような、今までで最大であろう揺れに泣きそうになりながら天を仰ぐ。
い、いきなりきやがって……今のは本当に危なかったぞ……!
多分喉上まで来てた。ていうか絶対内臓半分飛び出てた。
そのぐらい私にダメージを与える一撃だった!
「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……!」
「あぁ……神よ!どうして私を見放したのですか……!」
うむ。やはりさっきの揺れは強かったらしい。
戦意喪失した人の声が心なしか大きくなってるし、部屋に残っていた乗客の一人……
集会が始まってからずっと神に見放されてる人も、なんかすごく活き活きし始めてる。
今日イチ迫真の表情である。水を得た魚って感じだな?
二人ともなんで残ってるかは知らないが、揺れのメーターとして分かりやすくて良ッ!?
「おぇ……ゆ、揺れが強……!?」
「あぁぁあ!終わりだ!終わりなんだッ!神は私を見放したッ!」
「ゴメンナサイ……! ゴメンナサイ……!ホントウニゴメンナサイ……!」
……とまぁそんな風に、ヤバめなメンツ(私含め)が並んでいる訓練室の隅に座りこんで、私はぼーっと考え事を続けていたのだ。
……うん。
考えてみれば、訓練室に誰も助けに来てくれないのが頷ける状況である。
普通の人ならば、こんなヤバいやつらが揃ってるやばい場所には近づかないのだよ。
私が苦しんでるのを見兼ねてこんなヤバい集団の中に入って来たら、それはもう勇者の称号を貰っていいと思うね。
いや、待てよ?
違うな!
それはもう勇者どころで済まない……
それはもう、勇者通り越して魔王になってるかもしれないな……?(名推理)
だとすると、勇者魔王……
もしくは勇者=魔王、勇=魔王=者、勇者aka魔王か。
勇者×魔王、魔王×勇者の線もあるな……
勇者feat.魔王で曲をリリースして、さらに関係性が進み相容れない二つの存在がバンド組んでアルバムを出す所まで見えたな。バンド名はユウマオあたりで……
……
……
……明らかにテンションがおかしくなっているが、これは仕方の無いことなんだ。
それぐらい船酔いが辛いことを理解して欲しい。
むしろ、引いてるやつの方がおかしい。
もし引かれたら、思わず遺憾の意を示してしまうかもしれない。
……ていうか、理解しろ!
理解しなかったら逆ギレするからな!?
───ッ……!?また揺れがぁ……!?
「ぐっ……クラーケンめ……
どこまで私をコケにすれば気が済むんだ……!」
「ゴメンナサイ……」「神よ、なぜ私をッ……!」
揺れにより体勢を崩し、床に這いつくばりながら怨嗟の声を上げる。
すると、それに呼応するかのように喋り出すヤバいやつら。
……こいつら狙ってやってないか?
私が声を出した瞬間に話し始めるんだが?
アンリさんに楯突いて大声出してた時は、正直めちゃくちゃ死ねって思ったけど……
なんかもうここまで来ると、一周まわって仲間意識目覚めてきたわ。表面上は何の関わりも無いけど、心で繋がってる感じするわ。
「……」「……」「……」
え、なんかめっちゃ目合ってるんだけど?
何、この状況……?
え?さっきまで喋ってたよね?
……え?何で急に黙って見つめ合ってるの?
───いや、その中に私も含まれているけれども!
しかし、私に限っては、この状況が全く理解できていないことは確かだよ!?
「……」「……」「……」
「……えっと」
「アッ……ゴメンナサイ……」「あぁ!神よッ!なぜ私を……!」
あぁもうわかんねぇわ。1ミリも心繋がってなかったわ。
───ただひとつ分かることとすれば、私の声をトリガーにこいつらが喋り出すって事だけだわ。
「ゴメンナサイ……ゴメンナサイ……!」
「神よ……神よ神よ!
あぁ、あなたはなぜ私を見捨てる神なのですか?!」
───どんどんヒートアップしていくヤバいやつらと、とんでもない揺れ。
それらは確実に私の精神と体を蝕んでいく。
この世の全てを混沌とし飲み込んでいくかのような、世界すらも飲み込む高波。
それが、私の全てを流しさらんと欲している。
……
かっこよく言ってみたが、簡単に言えばもう限界である。
「ゴメンナサイ……」
「神よ神よ神よ神よかま……あ、噛んじゃった……」
……うん。
なんかね……あー、もういいや!
「私、今からここで吐きまー」
四つん這いになった私は、誰にも止められなッ『ガチャ』
「……えっと、大丈夫ッスか?」
「あ、はい……すみません大丈夫です……」
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