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異世界ふとん至上主義!  作者: 一人記
第二章

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第八十八話『権能』


【ながみ視点】


 私のふとん技【天井布団(テンジョウノフトン)】により、アンリさんが大きなふとんの下敷きになって数秒後。


「……ぷはぁ!ひ、久しぶりに死ぬかと思ったぜ……」


 アンリさんはもぞもぞと動きふとんの下から顔を出すと、唖然とした表情でそう呟いた。

ふとんの下から上半身を生やし、疲れきった様相ではぁはぁと息を切らしている姿はどこか少しだけ滑稽である。


「どうですか、アンリさん?これで満足しましたか?」


「あぁ、もう今日は満足……というか無理だー!

抜け出すのにまじでアタイの全身全霊を掛けたっーーーー!」


「はぁ……これに懲りたら毎日何回も試合を挑んで来るのは辞めてくださいね?」


 訓練室のリング上に、グダリと上半身を投げ出すアンリさん。


私はそんなアンリさんの手を取って、軽くため息を吐きながら下半身救出の手伝いを始める。


「ほらほらアンリさん、手伝いますから力入れてください!」


「もう無理だーーーーーーーー!あとは頼んだお嬢〜……」


「それこそ私の力じゃ無理ですよ……」


 きっとふとんの中で蒸れてしまったのだろう、アンリさんの体にはじっとりとした汗が滲んでいる。

どうやら、ふとんの下から抜け出すのに相当な労力を使ったらしく、もう動く気力も残っていないようだ。


しかし、アンリさんの力で無理なものを、私の力だけじゃどうにもできな……


…………あ!待てよ……?


「そうだ。あれがあるな?」


 私は思わずそんなふうに呟くと、おもむろにステータスを表示する。

そして、ふとん召喚スキルのステータスを表示し、その一番下……


【特殊ふとんスキル】という謎の欄にいつの間にか出現していた、『改訂』のふとんスキルをタップした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

            改訂


召喚した布団に触れることで


『付与された能力の書き換え』『召喚物の削除』


が可能になる。


              [ステータスLv20達成報酬]

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


[ステータスLv20達成報酬]という表示からして、おそらく私のレベルが20になって自動取得されたものと思われるのだが……


 如何せん内容が曖昧なせいで使うタイミングがわからず、ここ一週間の特訓中でも全く使ってこなかったスキルである。


……だがそんな中で、少しだけ目に付いていた"召喚物の削除"という説明文。

……これは、もしかするとアレなのではないだろうか?


 この異世界に来た当初から、長いことずっと微妙に欲しいと思っていた……アレができる機能なのではないだろうか!?


「これを使えば、【天井布団(テンジョウノフトン)】が消えるかもしれない……やってみよう!」


 初めて使うから当然勝手は分からない、が!


───しかし、物は試しである!


 私はアンリさんの上にのしかかっている【天井布団(テンジョウノフトン)】に近寄っていき、その大きな身にそっと触れた。


そして、


「【改訂】!」


力強くそう唱えて……


……


……


えっと……?


「うん……?どうすればいいんだろうか……?」


 頭でふとんが消えるイメージをしてみたり、心の中で名前を唱えてみたり、ふとんステータスの『改訂』をタップしてみたりなどなど……

 とりあえず思いついた様々なことを試してみるが、一向に何かが起こるような様子は感じられない。


全くの無反応である。


「ふとんスキル、"改訂"発動ッ!………………。


ふむ……少なくとも言い方の問題では無い、と。


───ならば次は……土下座か?」


 もう思いつくものと言ったら、ふとん様に向かって土下座しながらお願いするぐらいしかないぞ?

地面に頭擦り付けて必死に頼み込むぐらいしか思いつかないぞ?


でも、それでできるはずがな……


「……いや、待てよ?」


 一度もやったことがないことを、頭ごなしに机上の空論と断定してしまうのはどうなんだ?


 もしかしたら、私の召喚したふとんがめちゃめちゃ偉いやつで、土下座しないと消えてくれないのかもしれない!

もしかしたらそういう異世界的サムシングなのかもしれない!


 それに、この発想に辿り着いたということ自体、何かしらのお導きなのでは!?


───だって普通土下座なんて思いつかないだろ……!?


 私は気づかないうちに、神的な存在に思考を誘導されていたのではないだろうか……?

スキルの使い方が自然と思いつくように脳みそが作られているのではないだろうか……?


……ならば、やってみる価値は……ある!?


「ふぅー……。よし……!」


 私はそこまで考えて、ゆっくりと姿勢を正してリング上に正座をした。


そして、ふとん様のことを考えながら頭を下ろし……


「ふとん様、消えてくださいお願いしま」


「……お嬢、何してんだ?

頭でもおかしくなったのか……?」


……その途中で、ふとんに挟まっているアンリさんに可哀想な目で見つめられて、何事も無かったかのようにスっと立ち上がるのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「なんだぁ!そんなことかよ!

いきなり頭下げだしたから何かと思ったぜー!」


 私の話を聞き、床をバンバンと叩いて大笑いするアンリさん。


その姿を見て話したことを若干後悔しながら、心做しか熱を持った顔を冷ますように私は口を開く。


「仕方ないでしょう!

スキルなんて今までは何となくで使えたんだから!」


「ははははッ!お嬢は本当に面白いなぁっ!」


「ええい、笑うな笑うな!私だって頑張ってるんだ!?」


「いや、頑張ってるにしても頭下げるって……ぶふッ……!」


───くそう……!

 ふとんの下敷きになって上半身しか動かせない奴に、こんなにも笑われるなんて……!


なんとも屈辱である……!


「……しかしまぁ、使えないスキルか!

そりゃあけったいなモンを持ってるみてぇだな?」


「……?どういう意味ですか?」


 アンリさんが呟いた意味深な言葉が気になって、がくりと膝を着いていた私は軽く顔を上げる。


 すると、先程まで笑っていたはずのアンリさんの表情は一転しており、何かを思案しているような落ち着いたものとなっているのが見て取れた。


なんだろうか……何か知っているんだろうか?


「……まぁ、お嬢には楽しませてもらってるしなぁ?

良いだろう、アタイが知ってる情報を教えてやるぜ!」


 アンリさんは私の気持ちを読み取ったのか、そう言って軽く頷いた。どうやら、何かを教えてくれるらしい。


 私はアンリさんの今までの印象のせいで少しだけ半信半疑になりながらも、いつになく真面目な顔をしたアンリさんの様子を見てとりあえず聞いてみることにした。


 そんな私の心情を知ってか知らずか、アンリさんはその内容を話始める。


「実はな……スキルの中には、"権能"という効果を持った特殊なスキルが存在するんだよ」


「"権能"?」


「あぁ、"権能"だ。

なんでも"世界の理"から外れた力を行使する為に、特殊な宣誓を必要とするスキルとかなんとか……」


「アタイも人伝で聞いた程度ではあるから、あんまり詳しいことは知らないんだが……まぁ、概ねこんなところだったと思うぜ?」


 アンリさんは地面に這いつくばっている姿勢でそういうと、頬を軽く掻いて目を瞑った。どうやら、必死に思い出そうとしてくれているらしい。


しかし、"権能"、"世界の理"……か。


初めて聞く言葉がいっぱいである。


「あ、そういえば……確かあいつ、権能スキルにはレベル表示が無いとか言ってたぞ?」


「へぇ……そうなんですね?」


 ぱっと目を開けたアンリさんにそう言われ、私はすぐさま思考を切りかえてステータスを表示すると、ふとんステータスの下の方にある『改訂』をしっかりと確認してみることした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

         〘ふとん召喚〙


MPを消費し ふとんを召喚する


消費MP︰5


ふとんポイント︰75→30


【ふとん一次スキル】


 結界︰5 走行︰7 浮遊︰6 回復︰6 


消費MP軽減︰5


New︰水浮︰1 変熱︰1


【ふとん二次スキル】


 ホーミング︰6 疲労軽減︰2


【ふとん三次スキル】


形状変化︰1


【特殊ふとんスキル】


    改訂


取得可能(消費ポイント)

 耐刃(20) 精霊化(100)


進化可能(消費ポイント)


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「レベル表示……あ〜ほんとだ、無いですね」


「そうかそうか、なら話ははえぇな!

今から言う言葉を復唱すれば、たぶん行けるはずだぜ?」


 へぇ……アンリさんって戦闘しか脳がないタイプの人かと思っていたが、意外とこういった情報に強いんだな。すごく頼りになるじゃないか。


 やはり魔導船という大舞台の船長、集団のトップともなると力だけではやっていけないのかもな?


私はアンリさんの話を聞きながら、心の中でそんなことを考えてアンリさんに対し感嘆の意を募らせた。


「……じゃあ、今言ったことを唱えてみてくれ!さぁ!」


 そんな私の中で株が急上昇中のアンリさんから全ての文言を聞き終える。喋り終わったアンリさんは、興味津々といった様子で私のことを見つめた。


私はそんなアンリさんに、半ば急かされるようにして口を開く。


「───あー、おーけーです……わかりました。

えーと……『永巳(ながみ) 叶夢(かなむ)の名において、スキル︰改訂の権能を行使』、で良いんですよね……っ!?」


───そう、私が呟いた瞬間、私の目の前にあるものが現れる。


 それは、この世界に来てからよく見るようになった、この世界の理とも言える"青い板"。


しかし、そこに書かれているのは私のステータスではない。


──────── 権能の行使を受理 ─────────


スキル︰改訂の権能


『召喚物の削除』を実行しますか?   Yes / No


───────────────────────────


 いつもとは違う、"世界からの問い"とでも言うべきその表示に、私は恐る恐る手を伸ばして……


書かれているイエスの文字を押した途端、ふとんに触れている私の手が光始めたのだ。


「っ……!?」


 私はその光に驚いて、思わずふとんから手を離し距離をとる。


しかしそんな中、私の召喚した大きなふとんがパラパラと光の屑になって空間に溶けていった。


 それは、蛍の光のように淡く、しかしどこか無機質で機械的な感じのする光。


 私はその幻想的で無機質な光の屑を、ただただ唖然として見つめることしか出来ない。


「おぉ〜、本当に権能スキルだったのか!すげぇなぁー!」


 アンリさんが光の屑になったふとんの下から立ち上がり、消えていくふとんを物珍しそうに眺めている。


何処か見慣れた様子なのは、権能スキル説明時の話にでてきた"あいつ"という誰かのお陰だろうか?


「しかし、綺麗だなぁー。いやーいいもん見れたな!」


 私はそんなことを呟き頷くアンリさんの声を聞きながら、その目を離せない不思議な景色を眺めて……


「……この世界って、いったい何なんだろうか」


───そんな、意味の無い言葉を溢れさせて。



───言葉は光の屑と共に宙空に消えて……



 そのまま果ても無いような思考の海に、

しばらくの間、私は深く、深く、囚われてしまうのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

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