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異世界ふとん至上主義!  作者: 一人記
第一章

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第八十五話『潮風と共に』


【ながみ視点】


 着替え用の服が数着、非常食の干し肉が数個、その他ポーションや応急手当道具等の雑貨類……


大きな背負い鞄の中身を確認して、ひとつひとつ詰め込んでいく。


「よし、こんなもんかな?」


 出会った当時のルフに貰った大きな背負い鞄がパンパンに膨れているのを見ながら、私は軽く一息ついた。


 やはり旅支度というのは荷物が多くなってしまうものである。

当初の予定ではこれの半分ぐらいに収めようと思ってたんだが……


「重そうだなぁ……持てるかな?」


 そんなことを考えて、鞄を軽く触って。

その、頑丈な革製の布の所々に点在する傷を発見し……ふと考える。


───思えば、こいつとも割と長い付き合いになる。


 調理道具や、私の作った木の槍や、ルフとの思い出……


 ルフと一緒に村を飛び出した時から得てきた、様々な物をずっとこいつに詰め込んできたのだ。

そりゃあ傷のひとつやふたつ、増えるのも無理はないだろう。


「思えば、ルフに出会ってから色んなことがあったなぁ……」


 私は鞄に見える傷を何となく眺め、思いに耽ける。


日本でふとんと共に死に、異世界に来て。


森でのサバイバルの後、命からがらで脱出して……


でも、見つけた村は何故か壊滅状態。


そして、その村で出会ったのが……


……いや、この世界で初めて出会ったのが、ルフで。


「はは……懐かしい」


 確かあの時は話の通じる相手が嬉しくて、めちゃくちゃ話しかけたら思いっきり泣かれたんだよなぁ?


ほんと、懐かしいなぁ……


 自らの口元が、少し吊り上がるのが分かる。

ここに来て少ししか経っていないと思っていたが、もうこんなにも思い出ができるまでになっていたんだなぁ……感慨深い。


「ながみちゃん、そろそろ船が来るで?準備終わったー?」


「あ、はーい!すぐ行きます!」


 部屋の外から掛けられたアーネさんの言葉を聞いて、慌てて準備を進める。


立ち上がって服を軽く払い置いていた背負い鞄を背負って、壁に掛けていた【蒼霊の槍】を手に取った。


そして、外へ駆けて……


「……と、その前に」


───ルフに挨拶して行かなきゃな。


扉に掛けていた手を止めて、踵を返しベット上のふとんに近づいてく。


「……」


 そこには、いつもどうりの可愛らしい顔で眠っているルフの姿があった。


小さな寝息をたてて、私の召喚したふとんにてゆったりと眠っている。


私はそんな彼女の頭を撫でて、軽く抱きしめて。


「ルフ……行ってきます」


 そう呟いて、急いで扉の外へと駆けて行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「おっ来たな!ながみちゃん、じゃあ行こかー?」


「はい、行きましょう!」


 ギルドの一階で待っていたアーネさんと合流して、ギルドの外へと歩いていく。


朝六時だと言うのに慌ただしく動く冒険者たちの姿、そして外に出てみれば、太陽に照らされながら街を歩く住人たち。


 彼らは皆一様に忙しなく走り回り、手に持っている木の板や建築用の道具などを用いて、戦いで壊れてしまったものを直している最中である。


───冒険者も、商人も、漁師も……様々な人々が、手を取り合って修復作業をする。


 時に協力して、時に喧嘩して、時に騒いで……


そこには、防衛戦を行う前の賑やかな街の様子が広がっていた。


「元から被害は少なかったとはいえ、ここら辺もかなり直ってきましたね?」


「せやなぁ、みんな頑張っとるからなぁ」


 リザードマン達との防衛戦が行われた日からおよそ一週間。


 圧倒的な数的不利を伴いながらも、数少ない犠牲で戦の終結を迎えたシーアシラ港町には、続々と街の住人達が戻ってきていた。


 彼らは帰ってきて早々、戦によって壊れてしまった街の修復作業に取り掛かると、動ける冒険者と共にあっと言う間に修復作業を進めて行った。

 ぶつくさと文句を言いながらも、凄まじい速度で全てを直していったのだ。


やはり一般人といえども、剣と魔法の物騒な異世界出身者。

戦後処理に関しては、みんな凄まじく手馴れていたのである。


───まぁ、兎も角、そんな彼らの活躍もあり大まかな街の修繕は終わって、残りの修復場所は巨門前の平原とギルド、そして細々とした街の修繕のみとなったのだが……


 この街の住人たちの働きっぷりを見るに、きっと数日後には元通りになっていることだろう。

みんな一刻も早く街を正常に直そうと精力的に活動しているようだし、冒険者の皆も頑張っている事だし。


「しかし、この一週間……。とっても大変やったなぁ……」


「そうですね、とっても大変でしたね……?」


 アーネさんの言葉を聞いて、戦が終わった直後のことを思い出す。


 ルフやルミネさん、その他の重傷者を見て心を痛めてしまって、その心のダメージを回復するのも大変だったが……


他にも、疲れきった冒険者たちの治療や彼らの食料の確保。


住人たちが帰ってくる前の冒険者たちだけで行った街の修復作業。


治療で使った物品の管理等、事務的な書類整理や街の各所で発生していた雑務をこなす日々。


───果ては、ザック先輩が街道で倒れている姿を見つけて拾ってきたカゲロウの身柄……


 そして、その寝たきりのカゲロウを見守ると言って聞かない、サンドルさんと戦っている最中に突然意識を取り戻したリザードマン……竜人族『イーヴァン』の身柄をどうするかという問題等。


とにかく様々な問題が溢れ出てきやがったのだ。


それに加えて、私はある事のために修行も再開していたし……

それはそれは大変だったのだよ!


「でも……

ながみちゃんとしばらく会えへんなんて、わえ寂しゅうて仕方ないわ〜」


 心の中で愚痴っていると、アーネさんが寂しそうな表情で言葉を零した。


ここ一週間、アーネさんにはアーレ君と共に私の特訓に付き合って貰っていたので、きっとそのせいもあるのだろうが……


それでも、私のために寂しがってくれているというのはちょっとだけ嬉しいものである。


「まぁまぁ、また少ししたらきっと会えますから!

それまで楽しみに待っててください!」


「うーん……それもそやけど……

でも、わえのかいらしい弟子に何かあったらと思うと心配でなぁ……」


「そんなに心配しなくても、私は大丈夫ですよアーネさん!

今日までの間に色々教えてもらいましたから、自分のことは自分で出来ます!」


───そう、この街に来てから魔物との戦い方やこの世界のこと……様々なものを教えてもらったのだ。


 だから、きっとひとりでも大丈夫である。


「そうかぁ……

ながみちゃん、ひとりでもちゃんとご飯食べるんやで?わかったぁ?」


「いや、そんな実家を出ていく子供を心配する親みたいな反応しないでください……」


 そんな事を話しながら、シーアシラ港町にある船着き場へと向かっていく。


 巨門から続く大通りをまっすぐ歩いて、繁華街を抜けて、富裕層のお屋敷が建ち並ぶ区域を抜けて……


───そして、心地よい潮風が吹く、舗装された海岸沿いへと出る。


 この道は初めてのクエストを受けてから何度も通った、私にとって思い出深い道である。


 あの路地ではルーチェさんを襲った白ローブ達を倒したし、その先の道ではダーレスに操られていた聖騎士セラヒムと殺りあった。


そこで、初めて死にかけて……


……


ふむ……

やはり、気づかないうちに思い出が沢山できてしまっていたようだ。


 心に際限なく浮かんでくる思い出に軽く息を吐いて、口元に浮かんでくる笑みを抑えこんだ。


「お……ながみちゃん、見えてきたでー?」


「?……何がですか?」


「何って……ほらあそこ見てみぃ?」


 そんなことを言って、隣に居たアーネさんが海に向かって指をさす。


すごくにやにやしてるが……一体なんだろうか?


 少しだけ訝しげにアーネさんを見ながらも、それに従って其方を見てみる。


そして、その先。


船着き場にあったそれを見て、私は思わず敬語ではなく素の声をあげてしまった。


「……!なんだアレ、すごいな……?!」


 そこにはクルーズ客船程の大きさをした、木と金属で作られた不思議な形の巨船があったのだ。


「ふっふっふ……驚いたやろ?

あの大きいのが、ながみちゃんを乗せる船……その名も『魔導船』やでー?」


「あれが『魔導船』ですか……凄いですね……?」


 港に停泊している『魔導船』に、ゆっくりと近づいていく。


───所々に綺麗な意匠の施された、木と金属の船体。


 その船体から伸びる複数の帆柱と、停泊している今は畳まれてしまっているが開いていればきっとかっこいいであろう黒い帆。


そして、船体横についた大きな水車のような何かと、それに干渉しないように船体から生えている黒い水掻きのような謎の何か。


「はえー……これどうなってるんだ……?」


 話には聞いていたが、それでも驚きのフォルムである。


明らかに普通の船ではないその姿を見て、私は思わず感嘆の声を漏らした。


「───ふふっ、驚くでしょう?

わたくしも初めて見た時は、そんな風に目を輝かせましたわ!」


 魔導船の下で立ち止まって眺めていると、背後から聞き覚えのある声がかかる。

それは、私の初のクエストの依頼者であり、私がこの船に乗る理由をくれたシーアシラ港町の代表者。


 ルーチェ・ゼーヴィントさん、私の大切な友人である。


「ルーチェさん!もしかして、挨拶しに来てくれたのか?」


「えぇ……わたくしがきっかけで旅立つというのに、挨拶もしないなんて無礼なことはしませんわ!

……それに、単純に少しの間だけでも会えなくなるのは寂しいのでっ!」


───あぁっ、ルーチェさんの笑顔が眩しい!

なんて女神女神してるんだ!本当にこの人は女神すぎる!


ルーチェさんの見せる微笑みに思わず目眩を覚え目を隠す。


「それに、わたくしだけではありませんのよ?

……シンさんやヌルちゃん、アーレくんは昨日旅立ってしまったので居ませんが……ほら!」


 そんな私に対しルーチェさんは笑いかけると、船着き場から少し離れたところにある路地裏に視線を送った。


───そして、その視線を受けて……

路地裏からこの街で関わってきた沢山の人達が、私の元へとだっと駆け出してきた。


「よぉ、ナガミ!

お前のお陰で何とか軽傷で済んだから、命の恩人を見送りに来たぞ!

……向こうでも、俺の槍でしっかり目的果たしてこいよ!」


「ながみィ……寝込んでるリギドの分も挨拶しに来たぜェ!頑張れよォ!?

……あと、ルフの治療法を見つけて来なかったら殺すからなァ!?」


「ナガミ。ルーチェ様の命を確りとこなしてくれ。

(おの)れらシーアシラ衛兵団共々応援しているぞ……そうだよなぁトレントよ?」

「あ、はい。頑張ってください。応援してますね」


「ギルド職員総意の元、ながみ様の目標達成を願います!」


「救護班一同、ながみさんを応援しますよ!

……街に残るルーチェ様のことは僕に任せてくださいね!」


「ながみさん、街に帰ってきたらうちの商店をよろしくお願いします!と……ルフちゃん取り戻せるよう、頑張れよ!」


───アキザさん、ザック先輩、サンドルさん。

トレントさん……はなんか全然心が篭ってないからいいとして。


 ギルドで数回しか話したことの無いような職員さんや、防衛戦の時に共に戦った救護班の皆、馬車で街に連れてきてくれたヴォレオさん……


 今まで出会ってきた皆が私のことを応援して……そして、帰ってくることを願ってくれている。


 人と関わることが苦手で、友達なんて全然いなかったような私が、こんなにも沢山の人に祝福されて……




……正直、とても嬉しい。


「ながみぃー、君ってやつはいつの間にこんな人望を手に入れたんだい?」


 唖然としていた私の肩を、かつて唯一の親友であった彼女が軽く叩く。


私はそんな彼女に向けて、ゆっくりと口を開いた。


「マキナ……いや、私は別に何もしてないんだ。

皆が手伝ってくれて……助けてくれてるんだよ……」


───この街に来て、よく思う。


私の力だけではここまで生きてこられなかった。


皆が、皆が助けてくれて、ここまで来ることができたのだと。


「そうか、そうか!

じゃあ……皆の期待に答えるためにも、頑張ってきなよ!

───ルフちゃんとルミネさんの方は、わたしがしっかり状態維持しとくからさ!」


「あぁ……そうだな。私、頑張ってくる。行ってくるよ!

ルーチェさんも、マキナも、皆……有難う!」


「ながみ様……わたくしは困っている国民を助けただけです。

ですが、ながみ様のお力になれたのならば幸いですわ!」


 周りを囲む皆に顔を見られないように、少しだけ下を向きながら感謝の言葉を述べる。

すると、ルーチェさんがにこりと笑って返事をしてくれた。


 はぁ……全く、最近は涙腺が貧弱すぎて困る。

こんなことでは、袖がいくつあっても足りないよ……


「ふふっ……ながみぃ!

そんなに涙流してたら、体の水分なくなって干からびちゃうよ〜?」


「は、はぁ!?

涙なんて流してないしっ!私は至って平然と……」


 マキナの言葉にわいわいと騒いで、反論しようと口を開いて。


───しかし……その言葉を遮るように、カンカンカン!という甲高い鐘の音が辺りに響き出した。


 びっくりして其方を見てみると魔導船に乗っていた船員さんが打ち鳴らしているようで、どうやら出発の合図らしいことが分かった。


それは、皆と、一時の別れを意味している鐘の音だった。


「……ほら。出発の時間だよ!行ってこい親友(ながみ)!」


「ながみ様、大変かもしれませんが……気をつけて」


「ながみちゃん……いややぁーッ!離れたないぃ……!」


「───ちょっ、おいアーネェ!そんなこと言っても意味ねェから抱きつくなァ!

……ながみィ!こいつはオレが止めるから、さっさと行ってさっさと戻ってこい!……できるだけ早くなァ!?」


 周りにいる皆が口々に声を掛けてくれる。


 一部泣いている人も居るが、それでも大体の人達が笑顔で……

皆、私が寂しくないように笑顔で見送ってくれているのだ。


私はそんな仲間たちに向けて、笑顔を作って言葉を紡いだ。


「皆……有難う、行ってくる!」


 こうして私は、皆に見守られながら魔導船へと乗り込んだ。


その甲板の上からは、こちら向かって手を振る皆の姿が見えて。


私が異世界に来て暮らしていた、シーアシラ港町の姿が見えて。


……そして、潮風と共にその姿は離れていって。


「……皆、待っててくれ。私が、私が必ず……」


 ルフの魔法を解く為の『妖精の秘術』。

ルミネさんの"魂"を呼び戻す為の『輪廻の法』。


それらの知識について書かれた魔導書が保管されているという、この世界にある全ての魔法技術が集まる超大国……!



「『魔導学園都市国家・マナレルム』へ行って、必ず……!」



───必ず、皆を助けてみせる!



 どんどんと離れていくシーアシラ港町を眺めながら、そんなことを心に秘めて。



私にとって既に懐かしいものとなった、肌に付くような潮風と共に。



私は、『魔導学園都市国家・マナレルム』へと旅立った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

親愛なる読者の皆様方、いつもご愛読有難う御座います!


これにて、

異世界ふとん至上主義!【第一章︰シーアシラ防衛編】が終了になります!


見切り発車気味に始めたこの物語が、意外にも沢山の方々に読んでもらえて作者として嬉しい限りであり、読んでくださっている皆様には本当に感謝の念しかございません……!


設定等を詰めていく為、ここから少しだけ投稿ペースが落ちてしまうかもしれませんが……これからも想定している完結に向けて全力で走り抜けて行こうと思っています。


ですので、ここから始まる主人公の物語を是非とも楽しんでもらえると幸いです!


これからも作者である一人記の作品を、どうぞよろしくお願い致します!


(感想、レビュー、ブックマーク、評価してくれると泣いて喜びますので、是非そちらの方も……!)

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