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異世界ふとん至上主義!  作者: 一人記
第一章

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第七十七話『集う者達』


【主人公視点】


「あははっ、ようやく起きたみたいだね?

全く、ほんとながみは昔から寝坊助だねー」


 目の前にいる女性の姿を見て、驚きのあまり大きく目を見開く。思わず高速で三度見ぐらいした後に、そのまま思いっきり目を擦るぐらいには動揺しながら必死に頭を回す。


……もしかして、私死んだか?!


ここは死後の世界で、この光景は私が見てる夢だったり?!


となれば、どうすればこの夢から覚めるんだ!?


「あ、そうだ痛みだ!

痛みを与えれば夢から……って、いや今全身痛いわッ!」


 ほっぺたをつねり痛みを感じようとして、今更ながら全身がめちゃくちゃ痛いことに気が付く。

……痛みのせいでなれないノリツッコミまでしてしまったぐらいである。相当痛いことがわかるだろう。


───例えるならば、鈍痛に次ぐ鈍痛!

小指をタンスにぶつけた時の百倍ぐらいの鈍痛が、笑いながら私の全身をサンバのリズムで踊り狂っているような感じだ……!


え?……意味がわからない?


そうか……分からないか。


……だが、安心して欲しい。

だって私も意味がわからないからな!


「ながみ……ノリツッコミはすべる確率高いからやめた方がいいよ?」


 私は困惑しすぎておかしくなってしまった頭で、必死に状況を理解しようと務めるが……しかし、私の優秀な頭脳を持ってしても些か、いやとても理解出来るような状況ではなかった。


 だって、今そこに居る女性は、"異世界(ここ)"に居るわけが無いのだ。


私が異世界にやってくるもっと前の、はるか昔の高校時代。


当時、クラスにある自分の席に突っ伏して、寝てばっかりだった私に唯一話しかけてきた不思議な女の子。


私の通っていた学校は割と偏差値の高いところだったのだが、それでも周りに比べ飛び抜けて頭脳明晰で、テストでは常に学年一位。


男子女子問わず割と人気があったのだが、その猫のように気ままな性格であまり深く人と関わっている所を見かけなかった不思議な生徒。


───そして、私の人生で一番の友人といえる親友。


 彼女は紛れもなく日本に居た私の親友、光解(コウカイ) マキナその人だった。


「あ、えっと……マキナ……?」


「そうだよぉ?

君がうわ言のように呟いていた、君の"親友"である光解(コウカイ) マキナだよー!ぶふっ……!」


 私が恐る恐る声をかけると、目の前の女性……光解(コウカイ) マキナはニヤニヤと笑いながら小馬鹿にするようにそう返答した。


私は空いた口を塞ぐこともせずに、じっくりと彼女の姿を確認する。


 本人曰く『キャラ付けの為に、好きなアニメキャラに似せてる』らしい、色の薄いふわっとした金髪を両側頭部で小さく纏めた、短いツインテールのような髪型。


高校一年生時から卒業するまでの三年間『やっぱ博士キャラと言ったらコレでしょ!』という謎理論とともに常に身にまとっていた、袖から手が出ないぐらいサイズ感のあっていない大きな白衣。


 そして、現在進行形で私のことを馬鹿にし腹を抱えて笑っている事からわかる、その頭脳明晰な頭とは似ても似つかないような、常に人をからかうおどけた口調と性格……


 あぁ、疑いようもないぐらいに身に染みている、この胸の内に溜まるようなイラッとくる感覚……


今でもはっきりと覚えているよ……!


「なんでお前がここに居るんだマキナ!?……痛ッ!」


 動かない半身の痛みも忘れ、私は苛立ちに任せ思いっきりマキナの腹を叩くが……すぐに体へダメージが帰ってきた。


マキナはそんな私を見て勝ち誇ったように鼻で笑うと、今度は何かを閃いたように指を鳴らして私へ顔を近づけた。


そして、吐息混じりの言葉を私の耳元で発する。


「へへ、親友(ながみ)に会いに来ちゃった♡」


「うわぁ……」


「え?!ちょっとそれは酷いんじゃないかなッ!?」


うわぁあぁ……マキナだ……


完全にマキナだ……


高校時代、ことある事に私の席までやってきて、


『ながみ……大好きだよ♡』


と、先程と同じような吐息混じりの声で告げてきたあのマキナだ……


 私は思い出したくない記憶の引き出しを取り出してしまったことに、凄まじい後悔を覚えながらマキナの姿をはっきりと視認する。


「うわぁ……お前なんでここにいるの……?」


「うわぁ……が思いっきり漏れてるってながみ!

それ割と心にくるからやめてくれるかなぁ……?!

そんなに私のイケボ嫌だったかな!?わたし君のこと助けたんだけど!?」


 その冗談八割本音二割の私の言葉を受けて、マキナは畳み掛けるように距離を詰めてくる。


その焦ったような表情が、なんとも懐かしい。


「ふふっ……!」


 私はその懐かしさに言いようのない安心感を覚えて、思わず口から笑みをこぼした。


あぁ、本当にマキナなんだな。


日本にいた時、私が一人でふとんを研究していた際に唯一連絡をとってくれていた親友……


頭が良いくせに、馬鹿で、ノリがうざくて、ギャグが寒くて……そして、とっても優しい。


本当に、本当に懐かしいよ。


「ながみ何笑って……って、なんで笑った後にすぐ泣くかな君は!?情緒不安定ですか!?」


「ふふっはははっ!何でもない、目にゴミが入ったんだよ!」


「目にごみぃ?

そんなアニメみたいなこと早々無いんだよ?

ながみはもっと現実をみな?」


「……お前、今自分がいる世界のことを否定してるようなもんだからなそれ?」


「いや、異世界はあるよ?……でも、目にゴミはない!早々無い!」


「はぁ?!それは絶対におかしいだろ!」


「いーやおかしくないね!わたしは自分の身に起きたことしか信じないん……あっ痛!目にゴミ入ったッ!?」


───はー……こいつはホントに……!


 凄まじいタイミングで目にゴミが入り泣き叫んでいるマキナを見ながら、私はグッと頭を抱える。


 全く、こいつにはほとほと呆れるよ!

私が構ってやらなかったら、マキナの相手をするやつが可哀想でならないからな!仕方なく私が相手をしてやってるのだ!


だから、今頭を抱えているのは、決して自らの口元にある笑みを誤魔化している訳では無いぞ!


ないったら無いのだ!


……ほんとだぞ!?


「はいはい二人とも!

仲がいいのはわかりましたが、今は治療中ですので暴れないで頂きたいですわ!」


 私はともかくとして、マキナがギャーギャーと騒いでいると、少し離れた場所から最近よく聞きなれた声が聞こえてきた。


───正しくお嬢様然とした、綺麗で透き通る美声。


それでいて、あっけらかんとした太陽のような温かみを与えてくれる、そんな声。


「ルーチェさん?なんでここに居るんですか?!」


「あらあら、今気づいたんですの?

どうやら其方の方に逢えて本当に嬉しかったようですね!」


 自らの頬に手を当ててふふっと笑う女神のようなその姿は、見間違うことも無くシーアシラ港町代表ルーチェ・ゼーヴィントさんそのひとである。


 彼女は少し離れた場所から、私を中心として描かれている魔法陣に手を添えて、何やら魔力のような何かを流しているようだ。


「もしかして、私の傷を治してくれてたんですか?」


「はい、それはもう本当にぎりぎりでしたわ!

あと数秒でも遅ければ、ながみ様は死んでいましたよ?」


 そうか……

ルーチェさんが私を死の危機から救い出してくれたのか……


 汗をかきながらふぅと息を吐くルーチェさんを見て、迷惑をかけてしまい申し訳なく思う気持ちと同時に……


心の内側にある何かが埋まっていくような謎の感覚に襲われた。


「そうか……ルーチェさん、ありがとう」


「いえいえ。

お礼ならば私ではなく、今ここに居る皆にして下さいね?」


 ルーチェさんはそう言って、嬉しそうに笑いながらどこかヘ目線を向ける。

その目線の動かし方は意図的で、きっと、目線の先に何かあるのだろうことがわかった。


しかし、ここにいるみんな……一体どういうことだろうか?


私はその意味を知るため、ルーチェさんの向いた方向を見渡してみる。


───すると、そこには今日何度目かも分からない驚きの光景があった。


「き、貴様らッ!吾を誰だと思ってッ!?」


「おらぁ!

ながみちゃんが起きるまで、この蜥蜴全力で止めるでざっくはん!」


「あァ?!

何言ってんだァ!ながみが起きる前に仕留めんだよォ!」


 そこには……私が対峙していたリザードマンとナイフ2本で鍔迫り合いをしているザック先輩と、それを魔法で支援するアーネさんの姿があった。


「な、なんでザック先輩達が……」


確かみんな前線にいたはず……それがなんでこんなところに……?


 私は驚きと困惑と……胸が熱くなるような不思議な感覚がごちゃ混ぜになったような……そんな感情を抱きながら、思考をめぐらせる。


 一体なんで……

みんな、今回は助けは来ないって思ってたのに、なんで……?


「ながみ様、それだけじゃないですわ。後ろを見てくださいな?」


「後ろ……?」


 しかし、そんな風に困惑した様子の私に何も答えずに、ルーチェさんはただ後ろをむくように促してきた。


私はその見ればわかると言うようなルーチェさんの言葉に、困惑しながらも従って、言われたまま後ろを振り向く。


「ながみーーーーーー!

まだちゃんと生きてるーーーーーーーー?」


「ながみ殿ーーーーー!拙者が参上致しましたよーーー!」


 少し離れたところから、駆けて来ている三人の姿。


それは見覚えのあるもので……


ひとりは、傍からでもわかるぬるぬるとした元気なスライム娘。


───ヌル。


ひとりは、至極色の小さな龍尻尾が特徴の目を閉じた和装ポニテ。


───シン。


そして、最後に茶髪眼鏡ショタ。


───アーレ君。


みんなみんな、私の冒険者仲間たちだ。


「ながみー!死んでなくて良かったねぇー!」


「ながみ殿、敵は何処ですか!?拙者がお守り致します!」


「ふん……元気ではないか。……心配して損した」


 彼ら三人組は、私がボーとしている間に近くへ駆け寄ってきて、そのまま私に向かって口々に言葉を掛けてくる。


それは、とても暖かくて……


私は胸の奥に、ぐっと何かが落ちるような……


不思議な、不思議な感情が溢れて止まらなかった。


「みんな……ありがとう……!」


 俯きながら、小さくその言葉をつぶやく。


ほんとならちゃんと顔を上げて言いたいけど、今は顔を見られたくない。


きっと、皆に馬鹿にされてしまうから。


あぁ……しかし本当に私は一人で行動する度に、誰かに貸しを作ってしまうな?


ながみは不器用なんだから、もっと人に頼れ……か。


やっぱり、私と一番一緒にいた女の言うことは違うな。

めちゃくちゃ当たってるよ。マキナ。


 口元に手をあてて、

「正統お嬢様とはんなり美人とテンプレナイフ舐め男とスライム娘と心眼和装ポニテ龍人とメガネショタか……いいな?」

と呟いている親友の姿を横目で見ながら、私はそんなことを考えていた。


「まぁ、そういうことだナガミ。皆を呼ぶのまじで苦労したぜ?」


 自らの服で必死に目を拭き涙のあとを隠している私に向かって、頭上から声がかかる。


その声は、リザードマンに襲われているところを私が必死に助けようとした、神鍛冶師アイレン・アキザさんの声であった。


私はその声を聞いて、思わずばっと顔を上げた。


「アキザさん!生きてたんですね!」


「おうとも!

お前が助けてくれたおかげで、こうして生き延びたよ」


 アキザさんは既に回復してもらったのか、私が応急処置をした方の腕をぐっと上にあげて元気だということをアピールしてくれた。


───良かった……

アキザさんが死んでたらきっとみんな悲しんでいたし、何より私が嫌だったから。本当に良かった。


そんなことを考えて、ほっと胸を撫で下ろす。


「しかし、お前が時間を稼いでくれなきゃたぶん死んでたぜ!

店の中に俺の創った魔法通話用の魔導具が無かったら危なかったな!はっはっはっ!」


「そうか、じゃあアキザさんにもお礼を……」


「いや、まぁそれもこれも、お前があの蜥蜴の注意を引いてくれたからできたんだぜ?

だがら、そのお礼は受け取れねぇよ!」


「でも……」


「だから、いいんだって!

ナガミはその命を自分の手で勝ち取ったんだよ!わかったか?」


 そう言ってアキザさんは距離を詰め、私の頭を軽く叩いた。


私はそのアキザさんの言葉と、そのごつごつとした大きな手を受けて、なぜだかとても嬉しく思った。


……


だから、思わず……


「……あぁ、ありがとうアキザさん」


そう、口にしてしまったのだった。


「おま……!まじかよ……!?

ここまで言ってそれ口にするか普通!?」


「あ、いや!これは思わず口に出てしまって!

そんな、出し抜こうみたいなことではなくて……!」


 唖然とした様子で私を見つめるアキザさんに、私は慌てて弁解する。


これは全くもって意識して言ったものでは無いのだ!

無意識に出てしまったやつだ!だからノーカン!ノーカンだ!


「はぁ……わかってるよ。

じゃあ、もういいや!ナガミ、こちらこそありがとさん!」


 アキザさんはそんなふうに慌てている私を、ため息を吐きながら呆れた目で見たあとに……満面の笑顔で感謝の言葉を伝えてくれた。


あー……うん。


いいひとすぎるな……アキザさんも。


……皆も。


何度も言うけど、本当に、本当に……


「皆……有難う……!」


───本当に、これしか言葉が出てこないよ……!


 私はアキザさんの笑みに負けないぐらいの笑顔を浮かべて、泣き笑いながらその言葉を呟いた。


「ほらほら、そんなこと言ってるんじゃない!

まだやつとの戦いは終わってないんだぞ?」


「うん……うん。そうだな!

早く、みんなと一緒に戦わなければ!」


そう、こんなところで止まっていてはいけないのだ。


少しでもみんなの役に立てるように、みんなと肩を並べられるようにしなくては……!


 私はまたも零れてきてしまった涙を、慌ててごしごしと拭き取りながら、ゆっくりと立ち上がって進んでいく。


うん……ルーチェさんの魔法のおかげで体も完治しているし、何やら力が溢れてくるような感覚もある。


みんなの友情パワー……なんて言いたいところだが、きっとさっきから私の後ろで何かの機械を弄り回しているマキナのお陰だろう。

おそらく何らかの固有スキル……?

いや、こいつのことだから普通に科学の力という線も有り得るな……


だが、まぁしかし……


───これならば、カゲロウにだって遅れはとらないはずだ……!


私はぐっと拳を握り、ザック先輩達の方へ歩き出す。


「……おい、ながみ。これ忘れてるぜ?」


 しかし、そうやって意気込んで前に歩き出した私に、後ろからアキザさんが声をかけて引き止めた。


それを受けて、私は思わずそちらを振り向き口を開く。


「忘れ物……って、うわっ……!?」


 だが、その言葉を遮るようにして、アキザさんが棒状の何かを私の手元に投げ寄こした。


───それは、昔のヨーロッパで使われていたグレイヴという武器のような形をしている槍。


 全長は穂先合わせて150cmほどで、蒼色の持ち手に白の美麗な装飾の成されたしっかりとした柄に加え、30cmぐらいの青龍刀のような形の穂先がついている。


その姿は、ショーケースの中で見ていたものよりも、ずっとずっと綺麗で、それでいて確かな重圧を感じるものだった。


加えて、今まで持ったどんな槍よりも、軽い。


そう、それは……


「【蒼霊の槍】……いいんですか、アキザさん」


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