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異世界ふとん至上主義!  作者: 一人記
第一章

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第四十九話『暗き逸話』


「ん?なんやながみちゃん、その綺麗な槍のこと知ってるん?」


 アキザさんは店主だから知っていて当然だが、しかし私までもがこの【蒼霊の槍】のことを知っているのに疑問を持ったのか、アーネさんがそう問いかけてくる。


「あ、はい……前来た時にリギドさんに説明してもらいまして。

なんでも"魂を直接攻撃する槍"だとか……」


「魂を直接攻撃かぁ!それはすごいなぁ?」


「はい、そうですね……私もすごく気になってました」


 目の前で爛々と輝いている【蒼霊の槍】に目を奪われながらそう答える。

青を基調としたその体、普通の槍にしては幅が広い刀身、そして何よりもその存在感が私の心を掴んで離さないのだ。


この槍を見てしまうと、目が離せないほど魅入ってしまう。

正直すごく好みなのだよ……!


 そんな私の様子を見ていたアーネさんが、にっこりと笑って口を開く。


「じゃあ、これにすれば」


「だめだ。この槍はやれん」


しかし、その言葉は言い切る前にアキザさんに止められてしまった。


「えぇ?なんでなん?!別にええやん、てんちょうはん!」


 歯切れの悪そうな顔で購入を否定するアキザさんに納得がいかないのか、捲し立てるように抗議するアーネさん。


 だが、それも当然だろう。

武器屋だというのに、武器を売らないというほうがおかしな話なんだから。

そんな理由もあってか、アーネさんはアキザさんに対して声を荒らげたのだろうが、アキザさんは全く譲る気は無いようだ。


「だめだ。この槍を持たせる訳にはいかない」


この通り、ダメの一点張りである。


「でも、こないにきらきら光っとるのに……」


 そんな、テコでも動かなそうなアキザさんを見て少しだけ怯んだのか、とても小さな声で、しかし諦めきれないという感情がありありと伝わってくる不満そうな声をアーネさんは呟いた。


 蒼霊の槍はアーネさんの言う通り、とてつもなく輝いている。

比較的強い光を放っているほかの武器と比べても、その差は歴然といった感じだ。

アキザさんの力が説明してくれた通りなら、これ以上に私に合っている武器はないということだろう。


アキザさんはそんな【蒼霊の槍】を眺めながら、嫌々口を開く。


「あぁ、確かに【蒼霊の槍】とナガミの相性は、今までこの力を使って見た中でもトップクラス……

いや、最も適していると言っていいだろう」


「それならぁ!」


 アキザさんの鍛治師としての客観的な意見を聞いて、尚更諦めきれなくなったのだろう、アーネさんはぱっと明るい口調になる。


「だが、だめだ。この槍はそう簡単に使わせられないんだ」


 しかし……アキザさんには鍛治師としての正しい意見を曲げてでも、否定したいと思う何かが【蒼霊の槍】にはあるらしい。


私にはアキザさんの鍛治師としての意見と自身の意思との葛藤で、答えが堂々巡りになっているように思えた。


「なにか、理由があるんですか……?」


「……あぁ」


 苦しそうなアキザさんの事が気になって、理由を問いかける。

すると、アキザさんは影の落ちたような暗い顔で少し俯く。


「それはいったいどんな理由なん?説明してくれんとわからんよ!」


 アーネさんは、そんなアキザさんの態度に若干イライラし始めたのか、少しだけ雑な感じで話を振った。

多分……長い付き合いだからこそ、イライラしているのだろうな。アキザさん、本当はもっと明るい人だろうし……


「さぁ、どうなんや?!説明するんか?せんのか!?」


「わかった、わかった……説明する……」


イライラした様子のアーネさんに迫られたアキザさん。


観念したのか、呻くように頷いてぽつりぽつりと話し始めた。


「この槍は、"魂を直接攻撃する槍"……というのはリギドから聞いたらしいな」


「はい、前来た時に説明してもらいました。

たしか、最近見つかったダンジョンの主、"グランドレイス"の魔塊?から作られたとか……」


 前にリギトさんに説明された時のことは【蒼霊の槍】に見とれていたせいであまり内容を覚えていない。

だから、少しだけ曖昧かもしれないな……


などと思いながら、少しだけ気を取り直した様子のアキザさんの質問にできる限り覚えていることを答える。


「そう、この槍はグランドレイス……

【壮大なる死霊の王】……その核から作られた槍なんだ」


「【壮大なる死霊の王】……」


 聞きなれない名称だ……グランドレイスの肩書きのようなものだろうか?

だとしたら相当強いんだろうな。壮大な上に王だもんな?


 そんなくだらないことを考えている私はさておいて、話しはどんどん続いていく。


「一年ぐらい前、この近くの寒村にいきなりドデカい城が現れたのは知ってるか?」


「それって、あれやんなぁ。

ミレー村の大ダンジョンって一時期騒がれとったやつやろ?」


「あぁそうだ。禍々しい見た目の、黒いオーラを放つ居城。

そこに居たのが、グランドレイスだ」


 目を瞑り、何かを思い出すような素振りを見せたあと、次の話を始める。


「最初は新しいダンジョンが生まれたってんで、冒険者たちが喜んで入っていったんだよ。

ダンジョンには宝や魔導具が見つかることが多いからな」


「そうやなぁ、わえもお金がおへんどした低ランク時代は、よくダンジョンに潜ったなぁ……」


しみじみとしながらそう呟くアーネさん。


きっと昔を思い出して懐かしんでいるのだろうが……

ダンジョンというのはそんなにメジャーなものなのだろうか?


私は二人の会話を聴きながら、そんなことを考える。


「そうだな。

なんてったって低い階層なら、すぐ帰って来れるのが普通だからな。

そういうこともあって、賑わったんだが……


……しかし、それも長くは続かなかった」


「理由は、入った冒険者が一人も帰ってこなかったからだ」


「まじかぁ……それは……すごいなぁ」


 なにかに耐えるような声色のアキザさんと驚いた表情のアーネさん。

どうやら……いや、まぁ……無帰還はそりゃあやばいか……


「これを重く見たミレー村付近の冒険者ギルドは、すぐに集められた高ランク冒険者18名に緊急依頼を発令し、ダンジョンの攻略に乗り出したんだ」


「その中には『四銀のダグラス』もいたらしいぜ」


「『四銀のダグラス』ってあのSランク冒険者の!?

じゃあ、攻略したも同然やん!」


誰だろう……?


「あぁ……誰もがそう思っていた……それに事実として、グランドレイスは倒されて武器になってるわけだからな」


 アキザさんはそう言って上を向くと、はぁ……と息を吐き一呼吸する。

そして、また口を開いた。


「だが、帰ってきた人数が問題だった。

Bランク十名、Aランク七名、Sランク一名のうち何人帰ってきたと思う?」


「そんなの、ダグラスがおったなら全員生還やろ?あの人ほんまバケモノやもん」


『四銀のダグラス』って人そんなに強いのか……

あのアーネさんが当然だと言わんばかりの口調で答えるぐらいだからなぁ……


じゃあ、アーネさんの言う通り全員生還


「……一名だ」


「……はぁ?

ダグラス一人しか帰って来なかったってことどすか?」


「いや……帰ってきたのは、若いBランク冒険者一人だ」


わぁ……凄まじいな……?

アーネさんが絶対の信頼を置くような人がいたチームが、ほぼ全滅か……!


「そして……そのBランク冒険者も、ギルドに魔塊を渡してから息を引き取ったらしい」


───いや、ほぼじゃなくて全滅だったか。どれだけ強いんだよ【壮大なる死霊の王】……!


「まじかいな……最近あんまり活動してなかったから知らんかったけど……そんなことがあったんやな……」


「あぁ……話を続けるぞ。

その後、ギルドはそんな多大な犠牲を払った魔塊を無駄にしないようにということで、この素材で武器を作るように俺に依頼してきた」


「俺はその話を知っていたし、死んだ冒険者の中にも何人か知り合いがいたというのもあって、全力で取り組んだんだ」


「そして……出来上がったのが、魂を直接攻撃する……魂を喰らう槍【蒼霊の槍】って訳だ」


 知り合いがいたのか……それは……苦しいな。

何となく渡したくない理由はわかったが、きっとここまで来たら本人の口から話したいだろう。


そんなことを考えて、少しだけ辛そうな顔をしながらも説明を続けるアキザさんを私は見守る。


「この槍を使うには、グランドレイスに魂を呑み込まれないぐらいの、相当な精神力が必要になる。

それに、俺としても、知り合いたちが命張った結果の産物だから……俺が認めたやつにしか、渡したくねぇんだ」


 アキザさんはきらきら光る【蒼霊の槍】を、ゆっくりと悲しそうに、ショーケースのガラスを挟んで手を触れた。


「だから、すまない。この槍は諦めてくれ」


 そして、その頭を深く下げて見せた。

神職人と言っても過言ではないような身分のアキザさんが、ここまでするなんて……


「そんな大切な代物だったんですね……」


「それならそうと、はよう言ってくれればいいんに!

さすがにそんな槍をながみちゃんに持たせるわけないやろぉ?」


「あぁ、そうだな……こんなに長く話して、諦めさせて済まないな。ながみ」


 アーネさんの少しだけ茶化すような言葉を受けて、アキザさんは申し訳なさそうにもう一度頭を下げる。

どうやらアキザさんはとても礼儀を重んじる人らしい。


「いえいえ、全然いいんです!

そんな大切なものをもつ強さは、今の私にはまだありませんし……」


そう、私にはそんなものを持つ資格はまだない。


「それに……」


「それに?」


何故ならば、私には……


「そんな魔導具を買うお金もありませんからね!」


 私がなにを言おうとしているのか気になっている様子のふたりに、財布の中に入っている10枚の金貨を見せながら、軽く笑って私はそう答える。


───そう、ここまで【蒼霊の槍】の購入権利でずっと話し合っていたのだが、考えてみればこの槍は国宝級の宝である。


そういえばリギドさんにもそんな話をされていたし……


元から私の財布に入っている残金で買えるはず無いのだ!


「く……ハハッ!そうかそうか!まぁ、そりゃそうだなぁ!

これを買うには、黒金貨10枚はくだらないもんなぁ!」


「いや、黒金貨10枚って、てんちょうはんそれ買わせる気ないやろ……?」


 私のお金ない発言を聞いて唖然としていたアキザさんは、突如として大変愉快そうに笑い始めた。

そして、その言葉を聞いたアーネさんも呆れたようにそう呟く。


「アーネさん、黒金貨10枚ってどのくらいの値段なんですか?」


 手が届かないことは何となくわかるが、どの程度のお宝なのか参考までに聞いておきたい。

そんな軽い思いでアーネさんに聞いてみたのだが……


「えっとなぁ、今やと一枚千万ゴルドぐらいの価値があるかなぁ……」


アーネさんの口から私の予想を超えた驚愕の値段が飛び出した。


「いちまい千万……?!」


てことは、10枚で一億……!?


「それは……買えませんね……!」


 その数字の大きさに圧倒されて、私は思わず後ずさる。

すると、その様子が面白かったのか先程までの暗雲どこえやら、アキザさんが腹を抱え笑いながら私に声をかけてくる。


「はっはっはっ、そうだなぁ!

じゃあ、ナガミに次に合ってるこの槍でどうだ?

【蒼霊の槍】程じゃないが割といい感じに光ってるし、Bランク以下ならこのぐらいで十分だろう!」


そう言って、アキザさんは私に一本の槍を差し出してくる。


 柄の部分は持ちやすそうな軽い木でできており、そこに朱色の塗装が施されたシンプルな創りとなっている。


 私の身長と同じぐらいの長さである所や、柄の先端に小ぶりの刀剣を取り付けた所謂グレイブのような形状……

それらを鑑みても【蒼霊の槍】と酷似しているように思えるが、しかし【蒼霊の槍】よりも少しだけ小ぶりな刃渡りをしている上に、しっかりとした装飾も施されていない。


ムダの削ぎ落とされたような、完全な戦闘用といった感じである。無骨でいい感じだ。


「おぉ、ええやん!お値段も5万ゴルドで丁度よさそうな感じやし、持った感じもぴったり合いそうやし!」


「そうですね……さっきまで選んでたやつより、手に馴染む感じがします!」


 持ってみたらわかったのだが、アキザさんが選んでくれたこの槍は、その前に試していたどの槍よりもしっくりと手に馴染んだ。


手に来る重さや、取り回しやすさ……全てにおいて完璧。


ふむ……どうやら、私はこの形状の槍が得意らしい。


 そうやって選んで貰った槍の使用感を試していた私に、アキザさんが嬉しそうに声をかけてくる。


「よし、じゃあこれに決まりだな?

今回は色々と時間を取らせちまったし、ぐんとまけて3万ゴルドでいいぜ!」


「えぇ?!てんちょうはん男前ぇ!」


「いいですか!?そんな2万ゴルドも……」


そんな通信販売の割引みたいな値段の引き方で大丈夫なのだろうか……?


「いいから持ってけ!

これでも商売人だからこのぐらいなんともねぇんだよ!」


 そんな私の心配を他所に、アキザさんは私から3枚の金貨をかっさらうと押し付けるようにしてその槍を渡してきた。


「ありがとうございます!」


 私はそんなアキザさんに深々と礼をする。

こんなにも心の底から感謝したことなど、私の人生で数度しか……

いや、異世界に来てからすごく感謝することが多いけど、それでも、それらに匹敵するぐらいにはめいいっぱいの感謝を伝えなければ!


ここまでされたらもう感謝するしかないからな……!


「さぁ、ようがすんだなら帰った帰った!

あたりも暗くなった見てぇだから、気をつけてな!」


 そう思って礼をする私だったが、そうそうにアキザさんに店の外へ追いやられてしまう。

外は既に太陽が落ちていて、代わりに月が空に浮かんでいた。


 だから、外の暗さに対して店の中のあかりが強かったせいかもしれないが、私にはアキザさんの顔が少しだけ嬉しそうにほころんでいるように見えた気がした。


「てんちょうはんありがとぉ~!また来るでぇ~」


「また来ます!」


 元気よく手を振るアーネさんに続くように、店の外で軽く礼をしながらそんなことをアキザさんに伝える。


「おう!また来なぁ!」


 アキザさんは店のドアを開け放ち私たちを眺めながら、ギルドへ歩いていく私たちが見えなくなるまで、手を振ってくれていた。


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