第二十二話『大通り』
私たちがギルドから出ると、様々な種族で賑わった活発な街並みが出迎えてくれた。
港の方から来る潮風が肌について、何となく心地よい。
「おう、こっちだ!」
ギルドから目の前にある大通りにでて、少し進んだ辺りでリギドさんが腕を振り上げながら私たちを呼んでいる。
ルフの手を引きリギドさんのあとをついて行くと、大通りに面した所にある大きな排気塔がついたレンガ造りの建物の前に着いた。
「リギドさん、ここはどういう建物ですか?」
「ここはな、冒険者にとって必須と言ってもいい場所だ!」
「へぇ〜、冒険に必要な道具とか売ってるってことですかね?」
私は何故かドヤりながら説明しているリギドさんを横目に、建物を詳しく観察する。
かまくらを大きくしたような形のレンガ造りで、屋根部分を突き抜けるように排気塔が立っている。
大通りに面した無骨な扉の上には、雰囲気いいカフェにあるある様な鉄のフックに吊るすタイプの看板があり、そこに鉄のハンマーのような絵が描かれていた。
「おおきいえんとつ!すごい!」
「そうだろう、そうだろう!ここはすごいんだぞー!」
目をきらきらとさせてはしゃいでいるルフを見ながら、嬉しそうにリギドさんが建物を指さした。
「ここはな、この街にある多くの鍛冶屋の中でも、特に腕のたつ鍛治職人の店なんだ!俺もよく利用している!」
「鍛冶屋さんですか!いいですね!
でも、なんでそんないい所を紹介してくれるんですか?」
「いや、な。
ナガミの使ってる槍があまりにも貧相だったからさ。
……可哀想なんで紹介してやろうと思ったんだよ」
「あ〜、それは助かります……」
リギドさんは大きく笑いながら無骨な扉を開ける。
店の中にはカウンターとその奥に続く扉、フックに掛けておくタイプの商品棚があり、剣や槍、様々な武器防具等に加えて鍋などの日用品なども置いてあった。
そして、その鉄の剣や槍に混じって、薄い輝きを纏った武器防具が目に入った。
「リギドさん、あれなんですか……?」
「ん?……あぁ、あれはこの店の目玉商品で、世間では魔導具と呼ばれる類いのやつだな!」
魔導具!
何やらかっこいい響きだ……!
私がその薄い輝きを纏った武器───特に、ほかとは一線を画す様にガラスのショーケースに入れられた美麗な槍に目を奪われていると、リギドさんが説明を始めてくれる。
「魔導具というのはな魔法の力や特殊な能力を持った道具のことで、古来より崇められたりしてきたものだ」
「魔法の道具、それで魔導具……」
目の前にある魔導具たちは、どれもが不思議な迫力を放っている。私には持つ資格がないと思わせる様な、武器が持つものを選んでいるかのようなそんな感覚を覚えた。
リギドさんの説明は続く。
「物によって等級が分けられていたり、出自が様々あったりするんだが、普通はどれもダンジョン等から稀に手に入るもので、店に下ろされることはほとんどない!」
「店に下ろされることはほとんどないし、ダンジョンからしか取れない、ですか……!」
「あぁ、そう。ダンジョンだ。魔物の巣窟だよ。
───しかし、この店の店主は相当な凄腕でな……?実は、それを作れるんだよ!」
「それを作れるって、魔導具をですか?」
「そう!魔導具を作れるんだ!」
へぇ〜……そんなものを作れるなんてすごいな……!
店に出回ることはほとんどないというのに、ここには何個かあるぞ!
しかし、そんなに珍しいものなのか……しかも店主が凄腕ということは武器防具自体も相当な業物なんだろうなぁ……?
……ということは相当な値打ちものなのでは?
「リギドさん、これってどのぐらいのものなんですか?」
私は目の前にある槍を指さした。
蒼を基調とした槍で、綺麗で透明で儚い、しかしここにある魔導具のどれよりも強いと感じられる蒼い輝きを放つ魔導具。
それは、ショーケースの外から見ただけでも相当な業物だとわかるものであり、吸い込まれるような魅力を放っている不思議な槍のようだった。
「【蒼霊の槍】か……最近見つかったダンジョンの主に、"グランドレイス"っていう上位の悪霊が居てな?
そいつの魔塊を素材として作られた槍なんだよ。なんでも、肉体をすり抜けて魂に直接攻撃するとか……」
「はー……それはすごいですね……?」
「そうだな。こんな業物を買えるのは国に数人しかいない。
冒険者だとランク最高峰のSランク冒険者ぐらいだろうな!」
そう言ってがははと笑うリギドさん。
その後店主さんと話がしたかったらしく店主さんの名前を呼んでいたのだが、どうやら店の店主さんが現在不在なようで、代わりにカウンターにいる店番さんにおすすめの品を聞いたりしていた。
しかし、魂を攻撃する槍か……なんというか心惹かれるな。
形も普通の槍とは違って、どちらかというと昔のヨーロッパで使われていたグレイヴという武器に似ている。
全長は穂先合わせて私の身長と同じ程度、おそらく150cmほどで、蒼色の持ち手に白の美麗な装飾の成されたしっかりとした柄に加え、30cmぐらいの青龍刀のような形の穂先がついている。
多分突いて攻撃するというより、薙刀のように振り下ろして切ると言った感じなんだろうな。
この見た目で、魂への攻撃……!
私の封印していた厨二心がくすぐられる……!
「なぎゃみ、これかっこいい!」
「ルフー危ないから触っちゃだめだぞー」
私がぼーっと槍を眺めていると、ルフが壁にかかっていた大斧を見上げてきらきらと目を輝かせていた。
リギドさんに持たせたら鬼に金棒な迫力のある大斧で、赤い刃がギラリとこちらを睨んでいるようだった。
ルフは体が小さいのにこういう大きな武器が好きなんだな……
まぁ私もこの槍が気になりすぎて人のこと言えないんだが……
「さて、おすすめの鍛冶屋の紹介は終わりだ!そろそろトレントの所に行くぞー!」
私がずっと槍を見ていると、リギドさんがなにかの袋を持って私たちのところに帰ってきた。どうやらここはもう終わりらしい。あぁ……【蒼霊の槍】、またなぁ……
「はーい、わかりましたリギドさん」
「りぎど、ついてく」
「よし、じゃあ行くぞー!」
私はショーケースの中にある【蒼霊の槍】に後ろ髪を引かれながら、元気に歩いていくリギドさんのあとをついて行くのだった。
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