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俺、悪役騎士団長に転生する。  作者: 酒本アズサ


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64.

「ふむ……、防具はきちんと手入れしているようだな。ちょっと腕を上げてみろ、……次はそっち。ここだけ少し歪んで擦れているな」



 さっきの軽口を叩いていた時とは別人のような真剣な目で、シモンの鎧を確認しながらメモを取るボスコ。

 シモンの鎧のチェックをしている間に、俺も自分の鎧を装備して確認をしてもらった。

 結果的に二人共鎧は少しだけメンテナンスをして、剣は預けて翌日の夕方に取りに来るように言われた。



「ああそうだ。ボスコはドワーフの弟子だろう? どこでドワーフに習ったんだ? どこかの町か?」



 俺が尋ねると、ボスコは気まずそうに首の後ろを撫でた。



「いやぁ~……、どこで、と言われるとわからんとしか答えられねぇんでさぁ」



 俺が貴族だからか、(おそ)れを抱いているからか、ボスコは一応丁寧に話そうとしている……らしい。

 だが商人以外の平民がまともな敬語を使えないのはわかっているから、(ジュスタン)もこれまで職人達に対して理不尽に怒ったりしなかった。機嫌が悪くなければ。



「どういう事だ?」



「これはワシがやっと一人で剣を造れるようになった頃の話だが……、ドラゴンの鱗を使った剣を造りたくても、素材の値段が高くて手が出なかった。だがどうしても欲しくて、それなりに腕に自信もあったし、ドラゴンの鱗採取の依頼を受けた冒険者達の後をこっそりとつけて行ったんでさぁ」



「それはまた随分無茶したなぁ……」



 シモンが呆れた声を出した。

 無茶をするシモンに言われるくらいだから、無謀と言ってもいいくらいだ。



「ははは、若気の至りというやつだ。だがその時行き倒れたお陰で、通りすがりのドワーフに助けられて弟子になれたんだがな! ワシが鍛冶道具を持っていなければ、そのまま放置されるところだったらしい。採掘できる場所があればと思って金槌を腰に引っかけていて正解だったわ!」



「で、それはどこだったんだ?」



 行き倒れた場所がわかれば、その周辺を探せば見つかる可能性は高い。



「それが……、行きは冒険者達の後を追いかけていただけだし、途中で見失って行き倒れて、気付いた時にはドワーフの集落の中だったんでさぁ。帰りはわざと遠回りをしているようで、正確な位置はさっぱりなんですわ。ただ……、冒険者達はタレーラン辺境伯領の東にある山脈に向かっていたのは間違いねぇんです。ドワーフの集落には時々ドラゴンが訪れて、自然に生え変わった鱗と引き換えに……」



 ボスコはツラツラとまだ話していたが、俺は脳内の地図で大体の場所を思い浮かべていた。



「タレーラン辺境伯領の東の山脈か……、確かにジェスが言っていた場所と一致するな」



「団長、って事はジェスの母親がそこにいるんじゃないのか!? しっかし……、そうなるとかなり遠いな」



「ジェスって誰だ? ドワーフの子供でも保護したのか?」



 俺がジェスと従魔契約を交わした事は、今のところ貴族や神殿関係者以外には知られていない。

 あとは俺の裁判に来ていたような、耳の早い商人くらいだろう。

 だがジェスの事を話したら、素材をよこせと言ってきそうだ。



「言っておくが、ジェスに無理強いは絶対しないからな。それを踏まえた上で聞けよ? ジェスは色々あって、俺と従魔契約したドラゴンの子供だ」



「は?」



「先日ドラゴンが出たという噂を聞かなかったか? そのドラゴンは俺と主従契約を交わしたんだ」



「そ、そん……、え? だっ、だったら……抜け落ちた鱗を売ってくだせぇ!!」



 ズシャアァァァ!

 そんな音を立てながら、ボスコは俺の目の前に(ひざまず)いた。



「国の予算で素材は仕入れてもらえるんじゃないのか?」



「そりゃそうですが、長年経っている物ばっかりで、ドワーフの集落で見た鱗とは比べ物にならない粗悪品ばかりなんですわ! もし譲ってもらえるんなら、今よりいい剣を提供する事を約束しますんで!!」



 下から頼まれているのに、圧がすごい。



「自然に抜け落ちた物なら構わんだろう、ジェスにも聞いておく」



「ありがとうごぜぇやすッ!!」



 ほぼ土下座でお礼を言うボスコ。ドワーフの弟子になれるだけあって鍛冶馬鹿なんだろう。

 ところでドラゴンの鱗はどのくらいの頻度で生え変わるのだろうか。

 今の大きさのままと、本来の大きさでは鱗の量もかなり変わりそうだが。



「浮かれていないで手入れはしっかり頼むぞ」



「もちろんでさぁ! 任せてくだせぇ!! とりあえず預かってる間の剣はそこにあるやつから好きな物をどうぞ!」



 俺とシモンは並んでいた剣を使って素振りをし、一番手に馴染みやすい物を選ぶ。



「う~ん、コレかこっちが良さげだな。シモンは決まったか?」



 微妙に重心の違う二本を比べながら問う。



「オレは決まったぜ! 鞘もいるだろ? はい、お兄ちゃんの分」



「ああ、ありがと……って、おい!」



 シモンの方を見ずに受け取り、お兄ちゃんと言われた事に気付いて振り向くと、シモンはしてやったりとに言わんばかりに、ニタ~っと笑っていた。



「あははははは! やっぱり今度から団長の事お兄ちゃんって呼ぼうかな~!」



 そう言ってボスコの作業場を飛び出すシモン。



「待て! 貴様、ふざけるなよ!!」



 鞘を手にし、抜身の剣を持ったままシモンを追いかけた。



「ヴァンディエール騎士団長が変わったってのは噂で聞いていたが……、本当だったんだな」



 そんなボスコの呟きが、数日後には職人達の共通認識となった……らしい。

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