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俺、悪役騎士団長に転生する。  作者: 酒本アズサ


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228.

ジュスタン視点です

 クソッ、こんな状況で子供を助けるなんて俺らしくもない。

 そう思った次の瞬間、見知らぬ部屋で、見た目こそ美しいが見知らぬ妙な女と一緒にいた。

 タレーラン辺境伯領で子供を庇って魔熊の攻撃を受けたはずだが……。



「ふふ、あとはこの身体を捨てて魂を移すだけね」



 妙な女が妙な事を言い出した。



「何を言っている? ここはどこだ。妙な見た目をしているが、貴様は何者だ」



「どういう事!? 魔法陣は完璧だったはずなのに!」



 魔法陣? 俺に何かをしたのか?



「おい、命が惜しいのならば答えろ。……チッ、剣はどこだ」



 いつものように剣に手を伸ばしたつもりが、帯剣していない。

 俺が剣を手離すはずがないからな、室内にいるから収納したのか。

 魔法鞄に手を突っ込むと、予想通り剣があった。だが、手に馴染んではいるものの、握り心地が微妙に違う。

 取り出して確認してみると、これまで使っていた剣より格段に素晴らしかった。



「ほぅ、見覚えのない剣だが、手に馴染むいい剣だ」



 俺は迷わず剣を女に向けた。



「おい、女。これが最後だ。ここはどこで、貴様は何者だ! 見たところ人族ではないようだが」



「ここまで一緒に来たから知ってるでしょ、黒狼の集落よ。あなた……ジュスタンよね?」



「黒狼の集落? なんだそれは。それに……俺を知っているのか?」



 よく見ると、女の耳が明らかに人族と違う。

 肌や髪の色が違えば、まるで子供の頃乳母が聞かせてくれた物語に出て来るエルフのような……。



「団長! 何かあったのか!? ジャンヌとジェスが団長との繋がりが薄れたって……て、な~んだ。何も起こってねぇじゃん」



 女と対峙していたら、シモンの声が聞こえた。

 俺の知らない名前を口にしている。



「シモンか。お前は現状を把握しているようだな。俺達はタレーラン辺境伯領にいたはずだが、何があった?」



「…………は?」



 簡単な命令のはずだが、シモンは理解ができないとばかりに動きを止めた。



「何を間の抜けたツラをしている。さっさと答えろ」



 アルノーやマリウスに比べたら頭の動きは愚鈍だと知っていたが、そこまでバカではなかったはずだ。

 このわけのわからない状況といい、シモンの愚鈍さといい、苛立ちに拍車をかけてくる。



「いやいやいや! 何言ってんだよ団長! タレーラン辺境伯領なんて一年以上前の話だぜ!? て事はジェス達の事や、邪神討伐した事とか、婚約した事も忘れてんの!?」



「婚約だと!? 誰とだ!」



 タレーラン辺境伯領にいたのが一年以上前と言った気がしたが、婚約は一生の問題でもある。

 思わず素直に疑問が口から出た。

 色々な意味で悪名高いと自覚はある。

 そんな俺と結婚しようという物好きな令嬢はどこの誰だ。



「本当に忘れてんだな。ほら、エルネスト様の婚約者のディアーヌ様……」



 ディアーヌだと!?

 もしやエルネストの奴から奪う事に成功したのか?

 思わず口の端が上がる。



「その侍女のアナベラ嬢だよ。アルノーから真っ赤なバラの花束持って親に挨拶しに行ったって聞いたぜ!」



 何だその女は。

 アナベラ? 聞き覚えがない事もないが、確か学院時代からディアーヌの取り巻きの一人だった気がする。

 学院時代に俺の邪魔をしていた奴らの一人だ。

 俺が真っ赤なバラの花束を持ってだと? そんな女と俺が婚約なんて、わけがわからない。



「シモン、主殿の様子はどうだ?」



「ジュスタン! 大丈夫!?」



 シモンの後から、美しい女と凡庸な子供がやって来た。

 子供の方は明らかにラフィオス王国民ではない見た目をしている。

 


「それがさぁ、この一年以上の記憶がない上に、性格も昔に戻ってるみたいなんだ」



 どうやらこちらも俺の事を知っているようだ。

 シモンは旧知の仲のように、気安く話している。

 まぁ、シモンは初対面だろうが、誰とでも気安く話す奴だが。

 二人の言葉をすんなりと受け止めているところを見ると、さっき主殿と聞こえたのは気のせいではないようだ。



「シモン、そいつらは誰だ。主というのは俺の事か? なぜその子供は俺を名前で呼んでいる」



 女の方は明らかにメイドなどではない雰囲気だ。

 だが、他に俺の事を主と呼ぶような関係が思いつかない。

 しかも女は主と呼ぶのに、この子供に名前で呼ばせているのも明らかにおかしい。

 こいつらと俺の関係は一体何なんだ。



「あぁ~! もぅオレもわけわかんねぇよ! いったい団長はどうしちまったんだ!?」



 シモンが頭を抱えて叫んだ。

 女と子供は宙を見ながらこちらを気にする様子もない。

 それにしても、エルフのような女もなかなかいい身体をしていたが、この女は見た目だけでなく、その上を行くイイ女だな。

 だが、突然俺を主殿と呼んだ女がエルフのような女をひたりと見据えて口を開く。



「蘭よ、主殿に何をした」



「し、知らない! ジュスタンがいきなりここはどこだって言い出して……」



 エルフのような女は先ほどまでの勝気な態度と一変して、オロオロと戸惑っている……演技をした。

 花街の(おんな)達に比べたら、まだまだだな。

 あいつらは舞台女優よりも演技が上手いから、十代の頃は何度か騙されたものだ。



「いったい何の騒ぎですか!」



 今度はそれこそ物語に出て来たエルフそのものの姿をした男が現れた。

 驚きはしたが、早く現状を把握したいのに、誰も正確に報告できない事に怒りが頂点に達した。



「シモン! いい加減さっさと現状を報告しろ! ここはどこだ! 黒狼の集落なんぞ聞いた事もないぞ!」



 そう叫ぶと、最後に現れたエルフまでが驚いた顔で俺を見た。

 どいつもこいつも使えない奴ばかりなのか!

あと二話ほどジュスタン視点が続きます

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