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俺、悪役騎士団長に転生する。  作者: 酒本アズサ


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224/238

224.

「俺の記憶が抜け落ちているというのは信じるしかなさそうだな。しかし……、このどう見ても人族にしか見えない二人がドラゴンで、俺の従魔なのか……」



 ニヤリと悪人顔で笑うジュスタン。

 そして舐めるような視線をジャンヌに向けた。



『やめろ! そんな目をジャンヌに向けるなよ! ジャンヌ! ジェスでもいいから、ジャンヌには黒がいる事を言ってやるんだ!』



『わかった!』



 ジャンヌは面白がっているように見えるが、こっちは気が気じゃないぞ!?

 ジェスが請け負ってくれた事にホッと胸を撫で下ろす。



「ジュスタン、お母さんにはお父さんがいるからね」



「……父親は俺の従魔じゃないのか?」



「団長、ジェスの父親は古竜(エンシェントドラゴン)で、団長の事睨んでたからヘタな事しない方がいいぜ」



 シモンの補足説明にジュスタンが固まった。

 ありがとうシモン! よく言ってくれた!!

 直輝としての記憶を思い出してからの話はまだタレーラン辺境伯領から出ていない。

 ジェスすら話に出てくるのはまだ先だから、黒の話に到達するのはいつになるやら。



『ふふふ、どちらも主殿ではあるが、随分と性格が違うものよ。早う元に戻らねば、国に戻った時に周りは混乱するであろう』



『本当だよ。早く萌が来てくれないかな。ジャンヌ、もしもジュスタンが妙なマネをしそうだったら、多少怪我させていいからわからせてやってくれないか? 俺が許可するから!』



『あいわかった。念話ができる時点でわかっておったが、やはり身体の方よりこちらの主殿の方が我ら親子との結びつきが強いという事で間違いないようだの』



 俺の存在を感じ取っていたのか、瞑っていた目を開いてチラリとジュスタンを見た。

 あちらはシモンが途中経過をすっ飛ばして邪神討伐の話から黒の説明をしている。

 ジュスタンからしたら、いつものように王命に従って魔物討伐をしていたら、実在するか怪しいとすら思っていたドラゴンを従魔にしている上、伝説的な存在の古竜やエルフの事を部下のシモンが当たり前みたいに話しているんだもんな。



 目の前にいるのがエルフじゃなければ、ジェス達がドラゴンだというのも信じていなかったはず。

 そうこうしている内に、廊下からドタバタと数人分の足音が聞こえて来た。



「ジュスタンの記憶がなくなったじゃと!?」



 客間に入って来るなりそう叫んだのは萌だった。

 その後ろには菊と茅、そして蓮達三人が一緒に来たらしい。



「何だこの子供は。俺はこんな子供にまで名前を呼ぶ許可を与えたのか」



 ジロリと入口に立つ萌を睨むジュスタン。

 しかし、萌は動じる事なく不思議な生き物でも見るような目をジュスタンに向けていた。



「ほぉぉ、これはまた……。見事に魂が分かれたものじゃ。のう? 飛び出しておる方のジュスタンよ」



 そう言った萌と、ジェスの隣に浮いた状態だった俺の目が合った。



『俺が見えるのか!? ジャンヌやジェスでも見えなかったのに!』



「んっふっふ、ダテにハイエルフではないという事じゃ。とりあえず蘭の部屋を見てみようかの」



 ジェスとジャンヌ以外は俺の存在を認識していないせいで、いきなり宙を見て話し出した萌に、ポカーンとしている。

 しかし、蘭の部屋に萌が向かうと、我に返ったのか皆で追いかけて行った。



 俺が追いついた時には、入口にしゃがみ込む萌の姿。

 蘭の部屋を知っているという事は、萌は前にもこの家には来た事があるようだ。



「ふぅむ、これは禁術の魔法陣じゃな」



「「「禁術!?」」」



 シモンと藍、そして菊が驚いて声を上げた。

 しかし、藍と菊は禁術を蘭が使った事に驚いているだろうけど、シモンは禁術が何かわからず、初めて聞いた言葉だから驚いているんだと思う。



「うむ、身体から魂を引っ張り出して肉体を殺すか、遠い昔には身体の入れ替えをも可能にしたものじゃ」



「どうして蘭がそんな禁術を知っているんだ……」



 そういえば藍は蘭をちょっと下に見ていた感じがしたもんな。

 そんな相手が自分も知らない知識を持っていたと知ったら複雑なんだろう。



「だから言ったじゃない! 蘭は嘘を吐いてるって! 絶対藍より年上だと思ったのよ! やっぱり魔力量が多い老獪(ろうかい)なオバさんだったんだわ!」



 自分というより、藍が騙されていた事に怒る菊。

 大丈夫か、そのセリフは萌にもダメージが入りそうだぞ。

 よし、気を逸らそう。



『そういえば蘭が魔法陣を発動させてから、自分の身体から俺の身体に移るみたいな事を言っていたような』



「やはりジュスタンの身体を乗っ取るつもりだったようじゃのぅ。案外元の中身は男だったかもしれん」



 だからこそ藍を手玉に取れたのかもしれないな。

 禁術を使えるなら優秀だろうし、そんな自分のような人間の自尊心をくすぐる言葉は熟知していたはず。



「おおかた主殿の身体を乗っ取れば、妾達親子を使役できると考えたのだろうが……、従魔契約とは身体ではなく魂との結び付きゆえ、無駄な事を」



 ジャンヌは蘭を小馬鹿にしたように、フンと鼻で笑った。



「長く生きたとしても、エルフはエルフ、ハイエルフのように魂の形までは見れぬでな。しかし、目的が二人であれば、また狙ってくるやも。その前にジュスタンを元に戻したいところじゃが……」



『戻る方法を知っているのか!?』



「うむ、知ってはおるのじゃが問題がある」



 再び宙を見て話し始めた萌に、皆は心配そうな目を向けていた。

 蘭の中身が男性だったかもしれないという現実が受け入れられず、呆然としている藍以外は。

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