198.
クラリスの護衛が交代する時間になり、クラリスとフェリクスの昼食前に入れ替わる。
今日はフェリクスの部屋で二人揃っての昼食らしい。
護衛の人数が一人増えていても、周りはそう気にしないだろう。
シレッと護衛に混ざって食事が終わるのを待つ。
「ちょっと庭を歩こうか。護衛は一人ずつでいい」
食事が終わると、フェリクスがクラリスの手を取って立ち上がった。
一人ずつ、の言葉に、第一の騎士達とアイコンタクトで頷き合い、俺とフェリクスの近衛隊長の二人が同行する。
とはいえ、残りの護衛は声が聞こえない程度の距離をおいて離れてついて来ているのだが。
背の低い花ばかりが植えられている区画を歩きながらフェリクスが口を開く。
「ジュスタン団長、義兄上から簡単に話は聞いたが、詳しく話してもらえるだろうか。すでに父上と手の者には彼の周辺を探るように伝えてあるんだが、そなたが知った経緯なども詳しく話してもらえるだろうか」
「はい。彼女にはフェリクス様達に話す許可をもらったので……」
アリアからは最終的に先代の仇を討てれば、自分が罰を受ける事になってもかまわないからと、フェリクス様達に話してほしいと言われた。
というわけでアリアが魔塔主の部屋の前で聞いた話や、今わかっているコーヒーを持ち込んでいる者達の事を話し終えると、二人は痛みに耐えるような表情を浮かべる。
「育ての親を知らずに手をかけてしまっていたと……。むごい事をさせる」
「だからあの時、学院を休んでいたのですね。わたくしったら何も知らずに結婚式の準備で浮かれていただなんて……」
「クラリス……それは私も同じだ」
さらりと惚気たな。
しかもフェリクスも何気にエルネストの事を義兄上と呼んでいたし、いい関係を築いているようでなによりだ。
惚気はともかく、王家の情報収集専門の者達が動いてくれているなら心強い。
俺達では手に入らない情報もきっと集めて来るだろう。
「魔塔主を避けていたせいで実験中に怪我をしましたが、それも今は回復して……いるのはご存じですね」
「ええ。魔塔主に関する事は学院内ではどこに耳があるかわからないから話せなかったようだけれど、自分の怪我については教えてくれたの。うふふ、シモンったら意外に漢気があったのね」
どうやらシモンの機転でポーションを使った事はクラリスに話しているらしい。
傷跡は靴下を履いたら見えない位置だから、自分から話したのだろう。
なんだかんだしっかりお友達をしているようだ。
「しかし……、基本的には魔塔や王宮の敷地内から出ないのに、どうやって外部の者の協力を仰いだのか……。しかも正体不明な者なら尚更だ。暗部の者が情報を掴めるといいのだが」
暗部って言っちゃったよ。いいのか? 妻となる者の国民とはいえ、余所者の俺の前で王家の秘密とも言える情報を口にして。
まぁ、すでに王家の者の謀反について、これでもかというほど情報を知ってしまっている今となっては些細な事なのかもしれない。
フェリクスがそれだけ俺を信用してくれていると思おう。
実際裏切るつもりも、この事を口外する気もないしな。
近衛隊長もフェリクスの発言を咎めないという事は、俺の事を信用してくれているのだろう。
もしかしたら、エルネストが俺の事をいいように伝えてくれたのかもしれない。
ゆったりと歩きながらの会話を続け、必要な情報共有を済ませて室内に戻り、俺は迎賓館に戻る事になった。
帰りは交代の馬車がないので歩きだ。言えば馬車を準備してもらえるだろうが、待つ事になるだろうし。
こういう時は愛馬が恋しくなるな。元気にしているだろうか。
またジェスに手紙を届けてもらうついでに、様子を見て来てもらおう。
テクテク迎賓館まで歩いていると、迎賓館用の訓練場から威勢のいい声が聞こえて来た。
他国の王宮へ行った事で、妙に肩が凝った気がするし、俺も後で参加するか。
ジュスタン隊の部下達は全員訓練場にいるのか、部屋に戻ると誰もいなかった。
きっとジェスも暇つぶしに訓練場へついて行ったのだろう。
王宮へ行くための正装から訓練着に着替え、訓練場へと向かうと気合の入った声と木剣を打ち合う音が聞こえる。
まだ筋肉痛が酷いだろうに、頑張るじゃないか。
そう思って中に入ると、ジュスタン隊は訓練はしておらず、訓練している者達を眺めながらエルネストと立ち話をしていた。
全員が入り口に背中を向けていたから、気配を抑えてそっと近づく。
もしかしたらたまたま休憩時間なだけで、サボっているわけではないのかもしれないからな。
思い込みで頭ごなしに怒るのは避けたい。
しかし、汗もかいておらず、聞こえて来た内容から休憩ではなくそれなりの時間無駄話をしていただけだと判明する。
「本当ですか!? ジェスにもそんな事してるの見た事ないですよ!? ジェスは清浄魔法で済ませているというのもありますが」
「そうなのか? 随分と手慣れていたからてっきり毎日ジェスにしているのかと……。部下の君達もしてもらった事はないのか?」
優越感を含んだようなエルネストの声、そんなエルネストの言葉にマリウスが驚いているようだ。
清浄魔法? 何の話だ?
「団長がエルネスト様の髪をねぇ……。けどよ、そういう世話はしてもらった事はないけど、手作りのお菓子とかパンとかは何回も食べた事あるから!」
「ちょっとシモン! パンはジェスが分けてくれたからでしょ! まったく意地汚いんだから……。ねぇ、ジェス?」
「一緒に食べると美味しいからいいの! アルノーも欲しかったら言ってね。ジュスタンにお願いしたらまた作ってくれるから! ねっ?」
「ああ、そうだな」
従魔契約のせいか、気配を抑えてもジェスだけは俺の存在に気付いていたのだろう、いきなり振り向いて同意を求めてきた。
確かにジェスが望むならパンくらいいくらでも作ってやるが、お前ら何の話をしているんだ! お世話されマウントか!?
俺はジェスに返事をすると、無言で木剣を手に取り、笑顔で振り向く。
「お前達、そんなに俺に面倒を見てもらいたいのなら、今からたっぷりと訓練の相手をしてやる。もちろんエルネストもな」
「ジュスタン団長……? この遠征が終わるまでは私を王族として扱うのでは……?」
笑顔で呼び捨てにしたせいか、エルネストは頬を引き攣らせた。
「ここは訓練場だからな。訓練中は王族よりも騎士団員として扱うのが妥当だろう? さぁ、全員木剣を手に取れ! でなければ無手で相手すると判断するぞ!」
この後、筋肉痛を忘れるくらい、大暴れした。
本日から新作ブロマンスを不定期投稿します!
タイトルは『不器用転生~前世厨二病は知識チートで活躍したい~』です、よろしくお願いします。




