186.
三人称視点です。
次回からはジュスタン視点に戻ります。
「お母さ~ん! ただいま~!」
「おお、ジェス。おかえり。主殿は壮健であったか?」
「うん! ジュスタンもみんなも元気だったよ。それでね~」
王都で手紙を渡し、転移で山の巣に戻って来たジェスは手紙を渡すのも忘れてエルドラシア王国での出来事を楽しそうにジャンヌに話した。
ジャンヌが色々質問して、ジェスが時々ウンウン唸りながら思い出しては話す、そんな様子を父親である黒は微笑みを浮かべて見つめている。
「ジェスが竜化した方がその魔導具より効果があるんじゃないのか?」
「あっ、お父さん! 竜化したら、ボク魔導具みたいになるの?」
コテリと首を傾げるジェスに、黒は肩を揺らして笑った。
「ははっ、違う違う。ドラゴンの気配で小物の魔物は近付かないからな。人化していると気配は随分抑えられるから、普通にしていれば魔物が逃げたりしないだろう?」
「うん、逃げてなかったよ。ジュスタンの所に戻ったら、今度ドラゴンの姿で森に行ってみようかなぁ。でも実験が終わったみたいだから、もう森には行かないかも」
「王女の結婚式が終われば、また移動するんだろう? その時にでも試せばいい。それとも我と一緒に今から試しに行くか?」
「え~? お父さんがいたら魔物なんて逃げちゃうでしょ? ボクの気配で逃げたかわからなくなっちゃうよ。だって、お父さんは人化してても気配が大きいんだから」
ジェスに指摘され、黒は無言でポリポリと頬を掻いた。
会話が途切れた事により、ジェスは手紙の存在を思い出す。
「お母さん、ジュスタンからお母さんへの手紙を預かってきたの。はい」
「そうか、お使いができてえらいぞ」
ジャンヌは手紙を受け取ると、ジェスの頭を撫でた。
手紙を開くと期待に満ちた顔をしているジェスのために、手紙を音読し始める。
「ジャンヌへ。そちらは変わりないだろうか、ジェスがこちらに来たせいで寂しい思いをさせていたらすまない。あと半月ほどすれば結婚式が行われ、その後は陸づたいで西のアストリアという国に行こうと思っている。その時はジェスだけじゃなくジャンヌも一緒に行けるはずだ。黒も同行したければ構わない。ただし、ドラゴンという事は隠してもらわなければならないだろうが……か。ふむ、あと半月もすれば妾も共に行ってよいそうだ」
「わぁ~い! 楽しみだねぇ。お父さんも行く!?」
「う……む、考えておこう」
「ふぅん?」
ジャンヌやジェスと一緒にいるのは嬉しいが、従魔契約の主であるジュスタンが一緒だと、自分よりジュスタンを優先されるさまを目の当たりにするのではという思いがよぎり、素直に頷けない黒。
一方ジェスは、元々黒がいないのが当たり前だったせいで、それほど執着はなさそうにしている。
「そういえばさっきアストリアとか言ってなかったか?」
「ああ、今いる国がエルドラシア王国で、王女の結婚式が終わればそこから西のアストリアに向かうと書いてあるぞ」
「山を越えて行くなら、ちょっと面倒だぞ。あやつらがいるからな」
黒は鼻にシワを寄せるほど嫌そうな顔をした。
「あやつらとは? 妾はあちらの方に行った事がないゆえわからぬ」
「確かに我があやつらに会ったのは気ままに暮らしていた百年以上前の事だからな。あやつらって言うのは、ほら、人族より耳が長くて気位の高い……そう、エルフだ! 思い出せてスッキリしたぞ! ははは」
「ほぅ、エルフと言えば人族の間では伝説の存在として知られておる者達ではないか。かような所に住んでおるのだな。それにしても、国と国の間に住んでおるのに、伝説と言われるほど見つからずに暮らしておるとは」
考察するような言葉と違い、ジャンヌはエルフにはさほど感心がなさそうに手紙へ視線を落としている。
そんな様子に苦笑いを浮かべながらも、黒は言葉を続けた。
「あやつらは魔法に特化しているから、認識阻害を集落全体にかけているんだろう。それと……、あっちの森や山はラフィオス王国の五倍はあったから、広くて人族がエルフを見つけられないんじゃないか? それなのにちょ~っと縄張りに入っただけで、汚らわしいだの失せろだの言って、素直に帰せばいいものをわざわざ迷わせる魔法をかけてきて……」
「ほほほ、ずいぶん詳しいのぅ? さてはエルフの縄張りに入って迷わされたな?」
「あぅ、あっ、あの頃はまだ若造だったから仕方ないだろうっ! それより! 前に他のドラゴンから聞いた話だと、人族のように国を作ろうという若手が奥深い山を出て人族でも足を踏み入れるくらいのところに集落を作ろうとしていたとか……。だからジュスタンが移動する時にエルフと会うかもしれないと思って……お前達も同行するのだろう!?」
どれだけ前の事かわからないが、失敗をここまでムキになって反論するという事は、本人にとってそう昔の事ではないのかもしれない。
それをわかっているのか、ジャンヌはそんな黒に生温かい微笑みを向けている。
しかし、そのせいで黒は余計にムキになって弁明を続けるのだった。
そんな二人のやりとりを聞きながら、ジェスは久々の巣の寝床で手紙を届けた達成感を噛み締めていた。
来週の更新はお休みします。
来月に入ったら多めに更新できたらしますので!
明日5月23日(金)は小説デビュー作、『自由に生きようと転生したら、史上4人目の賢者様でした!?』こと、自由賢者のコミックス一巻の発売日です!
巻末SSはweb版を読んでいる人だけが更にニヤニヤできる内容となってます。(カクヨムでのみ公開されてます)
書籍だけだとギルマスとバネッサの関係性が全て出てませんからね!
思い切り笑えると思うので、よろしくお願いします♡




