185.
ラフィオス王国 SIDE
三人称となっております
「おや、ジェス様。おかえりなさいませ、いつこちらへお戻りに?」
ラフィオス王国の王都にあるジュスタンの屋敷に戻ったジェスに声をかけてきたのは、家令のタデウスだった。
「タデウス! 今帰って来たとこ! あのねぇ、ジュスタンとエルネストからお手紙預かってきたの! クラリスからのもあるんだ」
ジェスは当然のようにエルネストやクラリスを呼び捨てにしているが、タデウスは驚きもせずに聞いている。
ドラゴンという存在に、人族のルールを押し付けるのは無意味だとわかっているからだ。
「それはそれは、お使いをされるとはご立派ですね。お手紙は私がお届けの手配をいたしましょう」
「えっとね、こっちのお城に届けるのだけお願い。アナベラと~、オレールと~、リュカと~、お母さんにはボクが届けるんだ!」
ジェスは手紙の束から四通の手紙を取り出すと、残りをタデウスに預けた。
ひと仕事して誇らしげにしているジェスに、タデウスは微笑ましげな笑顔を向ける。
王から賜った小さな子爵領に、ジェスと同じ十歳になる孫がいるせいだ。
「本日アナベラ様はお休みですので、今は中庭にいらっしゃると思いますよ」
「わかった! ありがとう!」
中庭に向かったジェスは、タデウスの妻のマヌエラと共にいるアナベラをすぐに見つけた。
楽しそうに部屋に飾る花を選んでいる二人は、走って来るジェスに気付くと歩み寄る。
「ジェス、おかえりなさい。ジュスタン様とは会えた?」
「うん! アナベラの手紙も預かってきたよ! はい!」
差し出された手紙を受け取り、嬉しそうにそっと胸に抱くアナベラ。
「ありがとう。それじゃあお部屋に戻って読むわね」
「ボクは今からオレールとリュカにも手紙を渡してくるよ。二日後にジュスタンのところに戻るから、それまでにお返事書いてね! お母さんのところにも行くから、戻って来るのは明日ね」
「わかったわ。気を付けていってらっしゃい」
アナベラの見送りを受けて、ジェスは薄くなった手紙の束を抱えて屋敷から第三騎士団の宿舎へと向かった。
貴族街の屋敷から宿舎までは、人化したジェスの足でも十分とかからない位置にある。
勝手知ったる第三騎士団の敷地を通り、訓練場へと真っ直ぐ向かう。
訓練場に到着すると、団員の声に混じって聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえてきた。
「やぁっ」
「ほら、また腕の力だけで振っているぞ腹筋にも力を入れないと」
訓練場の入り口付近でイチャイチャと……ではなく、明らかに初心者の手ほどきをしているのはオレールと聖女エレノアだ。
以前言っていた護身のための訓練を、ジュスタンがいないのをいい事にオレールがリュカを説得したのだった。
今ではお互いかなり敬語が取れて、気楽に話をするようになっている。
「オレール~! ジュスタンからの手紙だよ~!」
「ジェス! ありがとうございます。団長達は元気にしていましたか?」
「うん! みんな元気だったよ。はい、手紙」
アナベラとは違い、その場で隙間に指を入れて蝋封を剥がして読み始める。
手紙に目を通すオレールの横をすり抜け、エレノアが近付いて来た。
「ジェスちゃん、私へのお手紙はない?」
「ないよ!」
あっさりと言われ、ガックリとうなだれるエレノア。
「ふふっ、けれどここにエレノアと仲良くな、と書いてありますよ」
機密事項が書かれていないためか、オレールは手紙をエレノアに見せた。
「うう……、相変わらず綺麗な字……。あっ、本当だ! ちゃんと私の事も思い出してくれたんだ!」
嬉しそうにしているエレノアと、それを微笑まし気に見つめるオレールを置いて、ジェスは指導の手を止めているリュカの元へと走り出す。
どうやらジェスが来たことで訓練は休憩に入ったらしい。
「リュカへのお手紙持って来たよ!」
「ありがとうな。あいつらはどうせ元気だろうが……、エルドラシア王国はどうだった?」
オレールと同じように……いや、より乱暴に手紙を開きながら、リュカはジェスに感想を聞いた。
「アリアっていう女の子とね、みんなと一緒に魔導具の実験したよ! その魔導具を使うとちょっとムズムズするだけなんだけど、森にいた魔物は近寄って来なかったんだ。面白いよねぇ」
「へぇ……。お、その事も書いてあるみたいだ。届けてくれてありがとうな」
リュカがジェスの頭を撫でると、ジェスは満足そうに笑った。
「えへへ。二日後に戻るから、それまでにお返事書いてね」
「わかった。ん? その手紙は誰に届けるんだ? アナベラ様か?」
ジェスの手元に残った最後の一通を見て、リュカが首を傾げた。
「ううん、これはお母さんに!」
「あいつ……、王都に行ってから俺に手紙なんて滅多に書かなかったくせに。これだってほぼ業務連絡みたいな内容だしな。従魔のジャンヌにはどんな内容を書いているのやら」
リュカは興味深そうにジェスが持っている手紙を覗き込むが、ジェスは身体で手紙を隠すように背を向ける。
「ダメだよ! これはお母さんへの手紙なんだから!」
「はは、わかってるって。取らないから安心しろ。ジャンヌにも届けるんだろ、よろしく伝えてくれ」
「うん! 明日戻って来るね!」
そう言い残してジェスは巣へと転移した。
次回もこの続きで三人称です




