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俺、悪役騎士団長に転生する。  作者: 酒本アズサ


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101.

「お前達! 何を見ている! 作業に戻れ!」



 工房から顔を出している職人達を怒鳴り付けるジュール。

 貴族丸出しな恰好をしているせいか、職人達は慌てて顔を引っ込めた。

 職人に貴族はいないはずだから、難癖付けられた場合助かる手立てがないせいだろう。



「ジュール、そんな風に下の者に偉そうに対応していると小物っぽいぞ。偉そうなのと威厳があるというのは全く別物だからな。仕事はできるんだからすぐに騒がずに毅然としていろ。陛下が大声を出しているところなんてほとんど見た事がないだろう?」



「え……あ、そう……ですね。はは、仕事ができるなんて言われたのいつぶりでしょう、いつも先輩や上司から仕事を押し付けられては遅い遅いと言われていたので」



 どうやらあまり同僚に恵まれてなかったようだ。

 もしかして普段からイライラしているからあんな態度だったんだろうか。



「今のところバシルもジュールの仕事ぶりに満足しているようだし、しっかり仕事をしていたらジュールを指名した仕事も増えるだろう。そうなれば多少の勤務年数など関係無く出世するんじゃないか? 特に今回の仕事は国にとっても大きい仕事だろう?」



「はい……っ!」



 書類を持つジュールの手に力が籠った、どうやらやる気に火がついたらしい。

 こうして関りを持った奴が出世してくれるのは大歓迎だ、何かあった時に色々助かるからな。



 そんな話をしている間に、二階建ての工房が三軒できあがっていた。

 そこへ更になにやら魔法をかけているように見える。



「バシル、あれは何をしているんだ?」



「ん? あれは最後に硬化魔法で強度を上げているんだ。でないと儂らがちょっと喧嘩しただけで壁が壊れたりするからな! あとは防音魔法もだな、手前の工房の二階は炉の火を絶やしたくない時に使える仮眠室にしてあるから必要だろう?」



「すごいな、そんな事までできるのか。人族だと範囲限定の魔導具か、絨毯なんかを魔導具にしてあるものを使っているんだ。やはりドワーフは技術が違うんだな」



 魔力量の違いから人族には伝わっていない魔法なんかもあるのかもしれない。



「わははは! そりゃあ儂らは人族と寿命も魔力量も違うからな! ドワーフが人族の国にあまりおらんのは、その技術が悪用されて戦争が大規模になるのを防ぐためでもある。ドワーフが一丸になって戦争をしてみろ、人族の国なんぞいくつも滅ぶぞ?」



 バシルはニヤリと挑発的な笑みを浮かべた。

 ジュールは青い顔をしているが、そんな事をしないと俺は知っている。



「戦争なんかしていたら、大好きな物作りができなくなるだろう? 武器もこだわった一本の剣より、大勢が使える量産の物になってしまうだろうしな。復興のために資材も使われて工房で使う分がうんと減るんだろうな」



「ククッ、わはははは! よくわかってるじゃないか! そうならないようにドワーフは各地の集落に隠れ住んでいるというわけだ! 今回は何かあればジェスやジャンヌ、そしてお(ぬし)が何とかしてくれるだろう?」



「まぁな、俺も魔物討伐はともかく、邪神の復活もあるというのに人族同士で戦争なんてしている場合じゃないと思ってるさ」



「それを聞いて安心した。お、どうやら終わったようだな、今度は儂の番というわけだ! さぁ、儂らの新しい住処を造りに行くとしよう。文官の坊主、木工はユーゴが得意だからできるだけ早く素材を運び込むようにしてやってくれ、道具は集落から持って来ているから問題ないがな。アイツらは今からでもやる気だぞ」



 ジュールに要求を伝えると、バシルはサッサと馬車へと向かった。

 事実、ユーゴとコームはすでにメジャーを持って窓枠やドア枠のサイズを測っている。



「では私は一度木工の工房長に話をしてきます」



 ジュールは奥の工房へ向かって行った、ここはユーゴとコームが屋敷に戻れるように馬車を一台残しておくべきだろう。

 俺はバシルが乗っていない方の御者にユーゴとコームが戻って来るまで待機するように伝えた。

 そして戻ってきたジュールと共にバシルの乗っている馬車に乗り込み、第三騎士団へ向かう。



「バシル殿、そういえば道具は持って来ていると言っていたが、彼らは魔法鞄(マジックバッグ)でも持っていたんですか?」



「ん? ああ、儂らは自作した魔法鞄を持ち歩いているんだ。気になった時にちょっと直したりできるだろう? 本当なら炉を持ち歩きたいところだが、さすがにそれは無理だからな! わはははは」



 ジュールの質問で新たな事がまたわかった。

 ドワーフは全員魔導具も作れるという事か、今後欲しい魔導具があったらちょっと相談してみるのもありだな。

 馬車が第三騎士団に到着すると、ジュスタン隊の部下達とジェスが入り口に向かって来るところだった。



「おお~、本当に団長が帰って来たぜ。ジェスの索敵能力って本当にスゲェな」



「でしょ? ジュスタンの気配だったら絶対間違えないもんね!」



 どうやらジェスは俺の気配がしたからジュスタン隊の部下達と一緒に様子を見に来たらしい、ちょうど建築の様子をジェスに見せてやりたかったから呼びに行く手間が省けた。

 馬車から降りてジェスをヒョイと抱き上げる。



「ジェス、今からバシルがジャンヌ達が住む宿舎を建てるぞ、一緒に見るか?」



「見る!」



「よーし、では観客も来た事だし、張り切るとするか! よし、この辺りでよかったな、『創造(クリエイション)』」



 向こうの工房より大きい三階建ての宿舎だというのに、先ほどの工房を建てる時より地響きが小規模だった。

 これは魔力操作の精密さが関係しているのかもしれない、長なだけはあるようだ。



「うわぁぁ! すごぉぉい!!」



 ジェスは手を叩いて喜んでいるが、部下達はあんぐりと口を開けて固まっている。



「とりあえず全体に硬化魔法と、儂らドワーフ側の部屋には防音魔法を施しておくか。子供らがいる方は騒がしい時に様子を見るためにも防音でない方がよかろう」



 スタスタと中に入って行くバシルの後を追うと、玄関の奥には二重の螺旋階段があった。

 駐車場なんかでよくある、同じ場所にあるのに上りと下りのルートが別々になっているやつだ。

 これならいざという時に二つの階段を使って一気に移動できる。

 部下達も中に入ろうとしたが、ジュールが手を出して止めた。



「ここから先は関係者以外立ち入り禁止です」



「なんでだよ!? 第三騎士団の宿舎なんだからオレ達も関係者だろ!?」



「いいえ、完成するまでは建築の(・・・)関係者以外はダメです」



「ジェスだって入ってるじゃねぇか!」



「彼はヴァンディエール騎士団長の従魔でしょう? ならば関係者と考えていいでしょう」



「てんめぇ……!」



「フッ、睨まれてもダメなものはダメです。お引き取り願いましょう」



 シモンが食ってかかるが、ジュールは冷静に対応している。

 ぶっちゃけ殺気を飛ばしているからまた腰を抜かすんじゃないかと心配になったが、どうやらジャンヌのおかげで耐性がついたらしい。



 建物の中に入って来た時に「彼女に比べたらまだまだだな」って言っていたから間違いないだろう。

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