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第43話 まずは、1人

 今月初の投稿……遅くなってすみませんm(__)m テスト終わったのでこれからはもうちょっと早くなれるかな……(ごにょごにょ

 日が暮れて1時間程した頃、ある子爵家の邸宅に1人の男がボロボロの状態で転がり込んできた。

 すっかりボロ衣となった衣服の上に簡易なローブを羽織っているだけの、顔を恐怖に歪ませたその男を見て、子爵邸の使用人は慌てて彼を屋敷に入れた。

 ローブを脱ぐと全身に切り傷があった。特に背中は酷いものであったが、医者を呼ぼうとする使用人を制止し、男は主人のもとへ駆けていった。



 ────と、こんな状況を俺は子爵邸の周りにあるうちの1本の木の上で見ていた。

 おっと、木の上()()見ていたんじゃないぞ。ちょうど木の上で見ているだけだ。ここなら誰にも見つからないと思ったからな。


 ではどうやって屋敷の中の様子まで見ているかって? そんなの簡単だ。

 この世界には取得属性魔法たるものがあるのは誰でも知っている。そして取得属性魔法に含まれない魔法もあるということも。

 取得属性魔法に含まれない魔法は一般に無属性魔法と呼ばれるが、これがまた便利なんだよ。

 魔法陣など、属性がないものは全て無属性魔法だし、無属性なので魔力があれば誰でも使える。

 魔法陣には使役魔法という、一時的に動物を自分の支配下におく魔法があり、それを使うと使役している動物の視覚などを情報として得ることができるのだ。

 俺は今、使役魔法でネズミを使役している。ネズミはアーロン・エージーの周りをちょろちょろ動き回って俺に情報を伝えてくれているのだ。


 本来、無属性魔法の身体強化以外の高度な魔法は専門の学校に通わなければ習得できないのだが、俺は元々この国の王子だ。

 魔法なら宮廷魔術師長に色々教えてもらっていた。魔法に関してはあの人の右に出る者はいないと言える、優秀な魔術師に。

 ただ、性格に難があるのだが……。多分あれだ、ああいうのを狂科学者マッドサイエンティストならぬ狂魔術師(マッドマジシャン)とでも言うのだ。

 たまたまでも気が合わない人間だったら、関わりたくない人間だった。




 さて、話が逸れた。

 俺は目を瞑り、ネズミが送ってくれている映像に集中した。

 アーロン・エージー……長いな。アーロンでいいや。

 アーロンは無様な姿のまま主人の部屋に駆け込み、凄まじい勢いで喚きだした。

 多少濁っているが、声も集中すれば伝わってくる。


『ミハイル様! でんごっ、伝言です! 早く読んでください! 早く!!』


 うわ、焦ってる。……それもそうか。俺が背中に字を書いた後眠ってしまって、目覚めたのは夜だもんな。

 俺に捕まったのが昼過ぎなのだから、『早くしなければ殺される』と思い込んでいても仕方ない。

 眠ってしまった、と言うのは、俺が眠らせたからだ。ちょいとやりたいことがあったので、起きる時間を調整して魔法をかけたのだ。



 さてと、アーロン君の様子を見なくては。


 アーロンの酷い取り乱しように、主人であるミハイル・ロマノフ子爵もいつもの尊大な態度を崩して動揺した。


『な、何事だ!? 闇街で何か……!?』


『違います!』


『では何なのだ!! くだらんことで私を煩わせるな!!』


『実はッ───』


 ここでアーロンは部屋を見回し、ミハイル・ロマノフ以外誰もいないことを確認した。足下のネズミには気付かなかったようだが。

 人間は誰もいない、と確認したアーロンは悲惨なことになった自分の背中をミハイル・ロマノフに向け、何があったかを説明し始めた。


『闇街に行く途中、第1王子が───』





 説明を聞き終わったミハイル・ロマノフは震えながらアーロンの背中の文章を読み出した。

 文は呟きながら読むタイプのようで、ネズミの耳にミハイルが呟く俺の文章が入ってきた。


『ミハイル・ロマノフ子爵へ。……単刀直入に申し上げるが、私は3年前の宰相派に属していた全ての人間を殺すつもりだ……。理由など必要はなかろう────』


 ここまで読むと、ミハイルは黙りながら文章を読むようになった。


 数十秒後、パッとアーロンから離れると呪文を詠唱し始めた。

 主人が何故そんなことをするのか分かっていないアーロンは戸惑ったようにミハイルを見る。


 そしてミハイルの魔法が完成して、数秒経つ。

 その瞬間だ。



 アーロンの身体が吹き飛んだのは。



 死ぬ瞬間の声は聞こえなかった。ただ、爆発音とアーロンだったモノが飛び散る音がネズミを介して俺に伝わってきた。

 ミハイルの展開した魔法は、自分を守るものだったので、本人は魔法の衝撃波どころか血も浴びていない。


『あ……』


 ミハイルは全身をガタガタと大きく震わせ、目の前の血だまりを見下ろす。見下ろし続ける。

 肉や骨が入り交じったその血だまりに、アーロンの頭だけは原型を留めた状態で落ちていた。

 生首は顎から下が無くなり、目玉が若干こぼれ落ちた────そんな形になって、転がっている。


『あ、ああ、ああああ……! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!』


 汚い仕事など全て部下にやらせるお貴族サマの精神はイカれ狂ってしまったようで、ただただ絶叫しながらその場に(うずくま)る。


 本来ならこんな大声を上げていれば使用人の1人も入ってきそうなものだが、そうはならない。

 だって、アーロンがミハイルの部屋に入ってすぐに、俺がこの家の使用人全員を闇魔法で眠らせたから。屋敷の外からでもそれくらいなら出来るのだ。

 助けが来たら俺の計画が壊れるので、本当に少し眠ってもらっているだけだ。


 ───じゃあ、お次は仕上げと行こうか?



















 ふらつきながらも血塗れの部屋から出たミハイルは、廊下の先に立つ俺に気づいて身を縮ませた。

 一応フードを目深に被って、顔は見えないようにしている。顔ってのは隠しておいた方が得するからな。色々と。


「だ、……ど、……!?」


「『誰だ?』『どうやって入ってきた?』かねぇ? 答えを教えてしんぜよう。

 俺はアディニス・レイリッジ・レヴェリッジだ。死んだふりをしている、この国の第1王子でーす。

 どうやってここに入ってきたかは、適当に1階の窓に穴を開けてそこから鍵も開けて入ってきただけだ。はい、回答終わり」


 若干ふざけながらの説明は逆にミハイルの恐怖心を煽ったらしく、奴は俺がいるのとは反対方向へ逃げようとした。

 逃がすわけ、ないのにな?


 指をくいっと動かし、向こう側の廊下を氷付けにする。氷の壁も作り、行き止まりに。


「ったく、王子サマから逃げるなんて躾がなってないね」


 チッチッチ、と舌を鳴らして指を振る。

 するとミハイルは裏返った声で叫びだした。


「だっ、第1王子は死んだッ!! あの日、宰相殿の手によって!!」


「いやいやいや、どうせ俺の死体も見てないくせに何言ってんの? あ、死体っつっても俺だって確認する方法ないよな……。顔隠してたし」


 そういえば、死んだことになっているけど、誰がどう手を回したのか知らなかった。

 弟は知っているのだろうか、事実を。それともアルドヘルム(長官のじじい)が全て片付けのだろうか。

 今度会えた時に聞かなくては。



「おい、誰かいないのか!! 私を助けろ!! 逆賊がいるのだぞっ!!」


 口から泡を吹きながら喚き続けるミハイルが煩いので、さっさと終わらせることにするか。

 なるべく苦しめたいけど……拷問の方法は習っていないから分からない。

 まぁ、習うより慣れろと言うし……やってみるかね。


「ミハイル・ロマノフ。伝言の通り、俺はお前を殺しに来た。だが簡単に殺されると思ってくれちゃあ困るんだ」


「ひぃっ、ひぃぃっ! 違う! ()()は宰相が勝手にやったのだ! 私は何も、何もしていない!!」


「う~ん残念。宰相派の奴らは何かしらの罪は犯しているうえに、お前らが徒党を組んでいたおかげで仲間が数人減ったこともある。つまり同罪。オーケー?」


「知るか……そんなの!! 私は、私はァアアアアアッ!!」


「黙れ」


「ガアアッ……!」


 あまりにも耳障りな声なので軽く蹴飛ばした。

 ミハイルの体は俺が作った氷の壁に激突し、数センチか埋まった。


「アァ、アァァ……」


 汚ならしく涙で顔を汚し全身を震わせ失禁するミハイルを、俺は嫌悪感剥き出しの表情で睨め付ける。フードで見えないかもしれないが。


「1時間後には楽にさせてやるよ。だからさ───」


 闇街で購入した短剣と毒薬を懐から取り出す。







「1時間たっぷり、地獄の苦しみを味わってくれや」



























 まずは、1人。


 ※アーロンさんはあくまで復讐の対象の貴族の部下なので、人数にカウントされません。

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