第41話 閑話っぽい何か。
遅くなって申し訳ありませんm(__)m 三人称です。
残されたエイダとダンズは、その場に沈黙を漂わせた。
先程のダンズの長い言葉が、この2人が気楽に会話することを邪魔している。
この居酒屋自体の雰囲気は良いものなのだが、2人の回りだけどんよりとしていた。
仮に、ここにノアがいれば冗談の1つも飛ばしただろうが、生憎席を立ってしまっている。
「……」
「……あの、質問して良いですか?」
終わりようもない沈黙を破ったのは、エイダの方だった。
先程までの険しい表情はどこかへ消え、今は首を傾げて無表情になっている。
「何だ?」
「貴方は、『エル』という方をご存じですか?」
「エル? それは、勿論だが……何でそんなことを聞くんだ? ノアから聞いたのか?」
「いえ、寝言で聞いたので、不思議に思ったのです」
確か学園長に会って……いつの間にかノアの部屋に居た時のことだ。
寝ながら聞いたことのない言葉を呟いた後、名前を呼んで、そして───
「『君がいなくなったら、私はまた独りになってしまう……』と、言っていました! プロポーズですかね、これ! ずっと気になっていたのです! ダンズさん、何かご存じではありませんか!?」
「ど、どうどう……。落ち着いてくれ。話すからよ」
「本当ですか!? ありがとうございます!」
キラキラと目を輝かせるエイダの勢いに負け、ダンズはノアとエルのことを話そうとする。だがエルが死んでいることを思いだし、本当に話していいのかと思い直した。
ノアの同僚であるこの女性の話したら、ノアが気にしないか。余計なことをしたと思われはしないか。
考えた末に、ダンズはこう結論を出した。
「いや、やっぱりそういうのは言わない。聞くなら違うことにしてくれ」
「えー……話が違います……」
心底がっかりそうな様子を見せられてダンズは罪悪感を感じるが、しかしやはりこういうのは自分は話さない方がいいと思うのだ。
「馴れ初めとかは本人から聞けばいいだろ」
「それもそうですね。では質問を変えます。ノア教官の人となりを教えて下さい」
あっさりと納得されてほっとする間もなく、そんなことを聞かれてダンズは訝しげに眉を寄せた。
「人となりって……一緒に教官やってれば分かるんじゃないか?」
「まだ3日程度しか一緒に働いていません」
「あー……それじゃあなぁ。でもそこまで警戒することないんじゃないか? あんな性格でも、良い奴だぞ?」
「初対面でスリーサイズを教えて下さいと言ったりパンツ見てきたりするのが良い人なのですか?」
「すみませんでした変態です」
見るからに初な女性に何をやっているのだ。もしかして嫁を失って欲求不満になってしまったのか。
おかしい……。3年前までそんな人間ではなかった……はずである。変態な部分を隠していたというなら話は別だが。
ダンズは席を立ったノアの姿を思い出し、つい溜め息を吐いた。
「あと聞きたいのですが、ノア教官は……その……」
「おー、何だー?」
口ごもるエイダを不思議に思いながら、ダンズは続きを促した。
促されたエイダは、
「これは決して、ノア教官を貶そうとしているのではないのです。単なる確認というか、そういうものなのです。なので不快に思わないでもらえたら嬉しいです」
「お、おう……」
長い前置きの後、エイダは聞く。
「ノア教官は、犯罪を犯すような人間ですか?」
「はぁ、犯罪。例えば?」
案外冷静に受け止められ、少し驚くが、すぐ気をとり直す。
「例えば、マレディオーネ監獄に投獄されるような……殺してはいけない人を殺した、など」
「マレディオーネ監獄ぅ? そりゃまた随分と有名なとこだな。大罪人が集まるって場所じゃないか。
ノアがそこに行くようなことするとは思わないが、もしかしたらあるかもしれないな。
不思議な奴で、どこで何をしていても変じゃないから。ないとは言い切れない。それに────」
ダンズは厳しい眼差しでエイダをちらと見て、遠い目をした。
「そんな具体的なこと言われたら、俺だって勘づくに決まってんだろ……」
勘づく。つまり、ノアがマレディオーネ監獄にいたことを。
エイダは、あまりに直球に聞きすぎてしまったかと、焦った数十秒前の自分を殴りたくなった。
ノアがこの青年に投獄されたことを言っていないなら、それはエイダから青年に伝えていいものではなかった。それなのに、浅慮な考えで聞いてしまい、勘づかせた。
だが、聞いてしまったものは取り消しようがない。
「あぅ……」
ノアに対する罪悪感が込み上がり、今すぐどこかに消えてしまいたくなる。
軽蔑されるだろうか。嫌われるだろうか。それとも────?
ふざけたように笑うノアと、先の通り────闇街で男を殺した時の凶悪な笑みを浮かべるノアがダブって記憶から出てきた。
変態だし、ふざけてるし、怖い、自分の同僚。
恐らく隠しているのであろう、投獄のことを言ってしまったと知られたら────?
「私……馬鹿ですね。大馬鹿ですね……! ダンズさん、私、貴方に言ってしまったとノア教官に白状してきます!」
「えっ!? いや、何でだ!?」
「白状した方が楽になるからです! そして叱られるなり軽蔑されるなりした方が、黙ってるよりいいのです!」
「思いきりいいな……。まぁ少し待てよ。何か食って落ち着いてからにしようぜ?」
「では何か食います!」
そうして、どこか興奮状態に陥ったエイダを宥めながら、ダンズは店の者に料理を頼んだ。
2人が来た料理を食べ始めて数分後、そのテーブルに音を立てて片手を着いた男が切羽詰まった様子で、
「すみません、所用ができたので俺は行きます。ダンズ、エイダ教官を家まで送り届けてやってください。エイダ教官、深夜頃に戻るので先に帰っててください。夕食は7時らしいですが、たぶん間に合わないのでご承知おきを」
「へっ? の、ノア教官!?」
「ではっ!」
シュビッ、と右手を振り、急いで外に駆けていった。
それを見送るダンズとエイダは、しばらくポカンと口を開けていたのだった。
お読みいただきありがとうございますm(__)m
登場人物の紹介に関してですが、作者の忙しさがなくなったら追加していこうかな……と思っております。『えー、書いたほうが良かったのに……』と思ったら感想かメッセージに気軽にお書きください。急ぎます。




