第39話 見せしめ
グロさを上手く表現できない……。一応、グロ注意です。
ぱぱっと周囲に目を走らせ、野次馬はほぼいなくなっていることを確認する。皆、巻き込まれたくないと思ったのだろう。周辺には俺達とボス男達しかいなかった。
人がいないのは好都合だ。暴れても無駄な死傷者が出ない。……人、いたとしても頑張って守ったけど。
あと必要なのは、っと。
「ダンズー。そこの、俺の連れの女性の目と耳を塞いでください。ちょっと刺激が強いことするので」
後ろから首に剣を突き付けられているから、振り向けなくて確認できないが、これでエイダ教官の目と耳は塞がれたはず。
本当ならこの場から逃げてもらうのが1番良いんだが……俺の目が届かなくなった所まで逃げた時に襲われたりなんかしたら堪らないからな。この連中じゃなくたって、人を襲う奴などたくさんいる。
男の汚い悲鳴を聞かせたくはないが、エイダ教官よ、我慢してくれ。
「おいおい、何を言ってやがんだ? いいから金出せ」
ボス男の発言に合わせるように、首に押し当てられた冷たい刃が俺を浅く切った。まだそこまで痛くない。
だが傷はついた。まぁ、あれだな。正当防衛の口実に使えるかな。あれぇ? この状況になった時点で口実に使えるのか? ……そもそも、この闇街にいる時点で、法なんて関係なくなっているのか。
うぅむ、よく分からん。
「おい、さっさと金を────」
「煩いですねぇ」
俺は勇者候補と戦った時に使用した黒い刃の刀を出現させ、後ろの人物に向けて軽く振るった。
「ぎゃぁあああああああああっ!?」
悲鳴と共に降りかかってくる熱い液体は、鉄の臭いがする。
ちらと後ろを横目で見れば、小男が右腕を抱え込み、地面にうずくまっていた。その近くには、肘から下だけの右手が落ちている。その右手は短剣を握ったままだ。
小男は、腕を失った痛みからか、無様に泣き叫びながら地面を転がり回った。転がる度に鮮血がそこらじゅうに散らばる。
小男の悲鳴をBGMに、俺はにっこりと笑ってボス男に指を向けた。
「今日のところは、あいつの腕とボスであるこいつの命だけで勘弁してあげます。なのでもう、俺や俺の知り合いに関わらないでくれますか?」
金貨はとっくに懐にしまい直した。あのまま引き下がっていれば渡してあげたのに、全くもって馬鹿だ。欲張ったから金はお預けだ。
ボス男は小男に見向きもせず、気に入らなそうに唾を吐き、腰の剣を抜いた。
「ふざけんな!! つまんねぇこと言ってんじゃねぇぞテメェ!!」
怯えた様子は無し、か。神経が図太いのか、危険を察知できない無能なのか。こいつの場合は無能だな。
頭が剣を抜いたので、その後方の子分達も動こうとする。
が、しかし。
「あとはボスの命だけなので、後ろの人達は動かないでください」
指をくいくいっと動かし、子分同士の空いてる隙間に、地面から氷を生やす。先端が超絶に尖っているそれは、人が真上にいればそいつにぶっ刺さっていたことだろう。
ちなみに、地面から氷を生やすなんて、凄く難しい。ただ俺は0歳の頃から自我がしっかりしていたし? 王子だったから、宮廷魔術師にも魔法を教われたし?
つまり俺強い。血を吐くほど努力した俺、めっちゃ強い!
地面から氷が出たことにより、動くことが出来なくなった子分達。ボス男の助太刀も出来ない。
おや、子分達の中には俺の強さが分かって呆然としているのもいるな。抵抗しても無駄だと分かっただろう。
だってこの魔法、習得が難しいとされる無詠唱魔法の、応用だもん。並大抵の魔術師じゃ出来っこない。
子分の中には俺を理解した奴がいるというのに、ボス男は全く理解していない。今も額に青筋を立てて俺を睨んでくるのだ。
嫌だなぁ。そんなに睨まないでよ。必要以上に苦しめたくなるだろ。まっ、今でも人を殺すのは慣れないから、ちゃちゃっと殺っちゃうけど。
さぁ、ここから先は俺の独壇場だ。
「テメェ、こっち向けやぁああああっ!!」
「だから、煩いですって」
比較的大きめな剣を振りかぶってくるボス男に一閃。
俺の刀はボス男の足首を通り、空洞を作る。
「ぐぁあっ!?」
足を切り落とされ体勢を崩した男は、その場に倒れる。いやはや、呆気ないったら呆気ない。
うつ伏せのボス男を仰向けにさせようとすると右から煌めきが見えたので、まずそちらを反射的に受け、そして払い、斬る。
「アァアアアッ!」
小男だった。どうやら、左手で襲いかかってきたらしい。
俺の刀は小男の左肩から右の横腹までを裂いたらしく、小男は全身血みどろだ。そんな風に、至近距離で斬った俺は返り血でどろどろな訳で。
先程までと違い、昔のように強烈な鉄の味が鼻から舌にかけて感じられる。
懐かしい、この感じ。3年前以来だが、それまでこの臭いは馴染みのものだった。主に、王子として動いていたときに。
「────ふむ。吐き気がするほど懐かしい」
小男は倒れたので放置だ。今はボス男に集中しよう。
しっかりと見せしめにして、俺やダンズなどに2度と絡まないでほしいから。
立ち上がろうとし、しかし足首から下がないので悶えるだけとなっているボス男の下に足を入れ、転がして仰向けにさせる。
おぉ怖い。恐ろしい形相だ。殺意が駄々漏れ。
「テメェ……テメェ、許さねえ……! 俺様を、こんな目に合わせやがってぇええ!」
「煩いと言っているのだ。少しは黙れ」
恨み言を呻く男の太もも目掛けて、地面から氷を生やす。
氷は男の太ももを貫き、先端から下までが赤く濡れた。
そして氷を次々に生やし、男の至る部位を貫かせていく。その間に苦痛の叫び声が聞こえてくるが、なんとも気持ち悪い声だ。聞いてて気持ちいい悲鳴ってのも無いだろうけど。
氷の1本1本は細く、鋭い。だから貫かせているのは全て、致命傷にならない部位だ。
致命傷でなければ、すぐには死ねない。散々苦しむのだ。そうやって苦しませて、その様子を子分達に見せて、俺が危険なのだと知らせる。
俺は、地面に磔にした男の顔の近くにしゃがみこみ、刀で頬をつついた。
既に男の両手両足は無数の氷に貫かれているので、男は動けない。俺に抵抗することが、できない。
「どこで道を間違えたのだろうな、貴様は。最後に、よりによって私に殺されるとは」
「うる、せ……」
「ほう? まだ喋る気力が残っていたか。だがそろそろ殺させてもらうぞ。私にもこれから用があるのだ」
完全に怯えた風の子分達を見て、俺は声を張り上げた。
「貴様ら、よく見ておけ。今後、私の友人らに関わったり、また私の前に現れたその時には、貴様らはこうなる」
言い終わった直後、磔にされたボス男が絶叫し始めた。
見ていれば、ボス男の腹からごつごつした形の、しかし鋭い氷がゆっくりと上がってくる。その氷は腹の肉を抉り、血肉を宙にばら撒きながら、真っ直ぐ天に向かって生えた。
「……結構エグいな、これ。内臓も飛び出てくる」
ボス男の身体を散らしながら、2本目が生えてきた。俺が生やしているんだけども。
おぉエグい。腸ボロボロ。ボス男の絶叫がエグさを重増しさせてる。
ドリル式の氷を何本も生やし、遂に男の息がほんの僅かになった頃になって、ようやく止めを刺すことにした。
「それでは地獄でごきげんよう」
最期にそう言って笑い、返事も待たずに眉間に氷を貫かせ、その命を絶った。……返事、待ったとしても言えなかったろうな。肺も潰しちゃったし。
よし、これで終了。見せしめ終わり。
子分達を見ると、後で報復に来そうな奴はいなそうだ。そんな気力も起きないように見える。怯えすぎて、失禁してる奴すらいるのだから。
俺は肉塊となったボス男と血だらけで倒れた小男を一瞥し、そそくさとダンズとエイダ教官の元に寄った。
「ここから離れましょう。貴方はともかく、エイダ教官を表に……あぁ、お邪魔でしたか?」
ダンズは エイダ教官を 抱き締めて いた!!
いや、目と耳を塞ぐのに効率的だからなんだろうけど。そうやって向き合ってから抱き締めると、いい感じのどっちも塞げるんだよね。
理由が分かっても、どうしてもにやにや笑ってしまう。
ダンズは笑う俺を睨み付け、自身が来ていたローブを投げて寄越してきた。
「へ?」
「……返り血が酷い。その姿で堂々とは歩けないだろ」
言われてから自分を見下ろす。
わぁ、本当だ。全身に血飛沫浴びてる。まるで俺が怪我したかのよう……。服どうしよう。どこかで買うか。
寄越されたローブを有り難く羽織り、どうですかと聞く。
「顔にも着いてるから、フード被れ」
「へーい」
そういえば至近距離で小男を斬ったんだった。あれで結構浴びたんだな。
返り血を浴びたところは、傍目には見えなくなったということなので、すぐここから離れようと2人を先導する。
その間、エイダ教官はダンズの服の裾を摘まんでくっついてきている。え、俺には? あ、怖い? ごめん、でもやらなきゃいけなかったんだよ、見せしめ。恐怖を刷り込ませないと……って、エグい話はやめておくか。
表の通りに出る直前になって、子分達の動きを制限していた氷が溶けるよう遠隔操作し、俺達は闇街から普通の通りへ帰還した。
お読みいただきありがとうございますm(__)m
この1話の登場人物
ノア・アーカイヤ 黒髪黒目。王兄。強烈な血の臭いを嗅ぐと、口調が王子時代に戻る……とかなんとか。
ダンズ・フロリオ ノアの友人。肉屋の息子。見栄っ張り。




