第38話 ちょっかい出したくなる友人
2週間も遅れてしまい、申し訳ございませんでしたぁあああっ!!m(__)mm(__)mm(__)m
途中で三人称を断念して、ノア目線です!
ノアは、固まったままの青年に小さく話しかける。
「確認ですが、貴方はグレイス・ファーラーですね? 答えてください」
「俺……は、違う。俺は、ダンズ・フロリオだ」
言われた名前に首を振り、青年は名乗る。その名を聞いたノアは嬉しそうな、それでいて面倒臭そうな表情を浮かべた。
「やはりダンズでしたか。めんどそうな集団に入ってしまったようで……頭がイカれちゃったんですか?」
「違っ、俺は……!」
顔を歪めて何かを言おうとする青年は絶望に満ちていて、他人のエイダですら『何か』によって絶望する青年に同情した。
「俺、は……」
口を閉じて黙り込んでしまった青年にノアは顔をしかめ、青年の肩の向こうを見やった。
エイダもつられてそちらを見ると、こちらを笑いながら見る巨体の男がいた。
その男はこの通りの雰囲気に合っており、貪欲に輝く瞳が狂気を感じさせる。
男は青年に見向きもせず、真っ直ぐノアに向かってきた。
ノアも、そんな男に対峙するように体の向きを変え、面倒臭そうに目線をやった。
「ボスの登場がお早いことで。────ダンズ、貴方の素性は知られているので?」
「……あぁ」
「それじゃあ逃げられないんですか。あぁ、本当に面倒なことですねぇ」
「……そう思うなら、首を突っ込むな」
「残念。俺は友人が困っていたらちょっかい出したくなる人間なんですよ」
そう言ってニヤリと口角を上げ、ノアは懐を探った────。
最初に『グレイス・ファーラーですね?』と訊いたのはフェイク。もしダンズでなかった場合は、頷いていただろう。偽者じゃなくてよかった。
ダンズ・フロリオだと本人が名乗ればこっちのものだ。
ダンズとは、俺が王子時代に出会った(当時)少年だ。勿論ノアとして出会ったんだが。
俺とて転生者だからな。ただ城に籠っているなんてことはしなかった。ちょくちょく城下町に下りては闇街に行ったり、適当に遊んだりしたものだ。
その頃、肉屋の息子に会った。それがダンズというわけだ。俺の4つ歳上で、つまりは現在28歳だ。
性格は見栄っ張りで、いざというときに誰も頼りに出来ないアホ。野性味ある外見はなかなかイケメンだが、やっぱり見栄っ張りな中身が残念。
だが悪いことは絶対にしない。思えばこいつは、良いガキ大将みたいなもんだった。間違ったことはしない、面倒見のいい肉屋の息子。
そんな奴が、何故闇街にいるのか。普通の人間なら立ち入らないぞ、ここなんか。
こいつが変な集団に入ったなんて考えちゃいない。入らされたなら分からないでもないが。
闇街にいる理由をダンズに聞いても、本人は答えてくれない可能性が高い。何故って、こいつが見栄っ張りだからだ。自分の情けないところなんて、年下の俺に見せたくないだろう。
ならどうするか。理由を知らなければ、こいつが2度とここへ立ち入らないようにする方法が分からない。
簡単なことだ。
敵の親玉に聞けばいいのだ。
いつの間にかすぐ目の前に立っていた男の顔を見上げ、へらりと笑いかける。こいつ背でかいな。2メートルありそうだ。
最初は、話し合い。
「こいつが、何か迷惑でもかけましたか?」
まず下手に出て様子を伺う。下手と言ったって、媚を売るのではなく相手を気遣うかのように、だ。
俺の態度を気に入ったのか、親玉さんは(下品に)笑い、そして脅すように自身の腰に差してある剣の柄に手をかけた。俺にとっては怖くないけど。
「迷惑? いやァ全然? ただ、そいつにゃ金貸しててなァ? 返せねぇなんて抜かしやがるから、ちょーっと遊んでもらおうと、なァ?」
「ほう。金ですか」
なんて連中から借りたんだよ、ダンズってば。絶対に汚いぞ、その金。ばっちぃよ!
ちらっとダンズを見れば、耳を赤く染めて俯いていた。耳は羞恥によって赤くなっていると見ていいだろう。
何も言わないのだから、つまりこの話は本当だということだ。間違っていれば、こいつの性格上黙っていない。
ダンズよ……もっと信用できるところからお金借りよう?
「ちなみに、いくら返せばいいんですか?」
「アァ~? おい、いくらだったァ?」
「利子含めて金貨3000枚ッス!」
ボス男の隣にいた小柄な男が声を上げる。利子なんて、荒くれ者とは思えない単語使うじゃないか。
しっかし、金貨3000枚か。これまた、随分と多い……。屋敷が建つぞ。
この世界の金の価値の計算は至って単純だ。
金貨1枚→一万円札1枚(つまり1万円)
銀貨1枚→千円札1枚(つまり1000円)
銅貨1枚→百円玉1枚(つまり100円)
鉄貨1枚→十円玉1枚(つまり10円)
である。
このことから、さっき男が言った『金貨3000枚』は3千万円になる。金銭感覚が狂っていなければ、どれほど高いか分かってもらえるだろう。
さて、分かったことを述べよう。
ダンズはこいつらに借金をしている。
返済する額は、利子含めて金貨3000枚。軽く屋敷が建つ金額。
この金額を払えないと話したダンズは、こいつらに連行されている最中だった。たぶんフルボッコされて、その後奴隷として売り飛ばされる結末が待っていたのだろう。
ふむ。ここは手っ取り早く────
「金なら俺が払うので、見逃してもらえませんかねぇ?」
俺が借金を肩代わりすればいい。
「駄目だ、そんなの!」
俺の発言に、いち早く反応したのはダンズだった。信じられないものを見る目で俺を見下ろし、顔色を真っ青にしている。
どうでもいいけど、こいつ俺より背でかくて苛つくな。確かに俺、そんな背は高い方じゃないけどさぁ……。
「聞いてるのか、ノア!」
聞いてるから、肩を掴んで揺らすのは止めようか。
「聞いてますってぇ。貴方は俺が借金を肩代わりするのが嫌なんでしょう? こんな時まで見栄張んなくていいんですよ? ほれほれ、お兄さんに頼ってみんさい」
「俺はお前より歳上だ!!」
身体の年齢は、ね! 精神年齢は君より11も上なのさぁー!
まぁ、冗談はさておき。
俺はダンズの手を引き剥がして彼自身を後ろに追いやり、連中のボス男に話しかける。
「そこの貴方ー。別に俺が払ってもいいでしょう? だから、もうこいつにちょっかいかけないでもらえますかー?」
そう言って、懐に突っ込んだままだった手を出す。その手には、商会から卸したばかりの金が入った袋が握られている。
中はちょうど金貨3000枚だ。これを渡せば、ダンズの借金は全て無くなることになる。
ふっ……元王子の財力を嘗めるなよ? 金なんてもっといっぱい持ってるし! 有りすぎて困ってんだよ、むしろ!!
俺の手に握られた袋を凝視したボス男は、だんだんと目を見開き、次に笑みを深くさせた。
これは、乗ったな。
「ここにあるのは金貨3000枚です。渡しちゃうので、手を引いてください」
ボス男は傍らにいる男(さっきの『ッス』口調の奴)に目配りをし、頷かれると自分も頷いた。
「いいだろう」
「そりゃどうも────あっ」
いかにも驚いた風を装い、身を強張らせてみせる。
固まったように見せないと怪しまれるからな。
今、俺の首には刃物が当てられているのだから。
「ノアきょうかっ、むぐぅ!」
「声出すと危ない」
後方から、エイダ教官の中途半端な悲鳴が聞こえてきた。低く呟くダンズの声も。
たぶん、叫ぼうとしたエイダ教官の口を塞いだのだろう。いいぞダンズ。ナイスアシスト。
エイダ教官が悲鳴を上げたくなるのも無理はないだろう。たぶん彼女は、命の奪い合いをするどころか、その現場にいたことすらないだろう。だから、こういう状況は心臓に悪いはず。
なんたって、俺の背後から『ッス』口調の男……小さいから小男でいいか。小男が俺に短剣を突き付けているんだもんな。
俺は怯えた風を装う。
「……何を、するつもりなんですか」
やはり怯えた様子が気に入ったのだろう。ボス男が勝ち誇ったように笑い声を上げる。
「がっはっはっはっは! 現金をそんなに持ち歩いているなら、もっと持ってるんじゃねェのか? あぁン!?」
うん、そんなことだろうと思ってたよ。『もっと金を寄越せや』ってことですねー。
悪い奴だなぁ、ほんと。渡すわけないだろ? だって、俺は借金を肩代わりしようとしているだけだよ? 何でこんな奴らに貢がなきゃいけない訳よ。
ったく。こういう奴らってしつこいから、今追い返しても報復に来る可能性があるんだよ。だから、こういう時の対処法がキツいものになる。
復讐の相手以外を殺したくなかったけど、仕方ないな。もっとも、この世界では人の命を奪わないと生きていけないのだ。
さぁて、お立会い。
お読みいただきありがとうございますm(__)m
この1話の登場人物
ノア・アーカイヤ 黒髪黒目。王兄。金あり。
ダンズ・フロリオ ノアが少年時代に出会った、肉屋の息子。今回、何故か借金していたところをノアにちょっかい出される。ノア曰く、『野性味ある外見』。
ボス男 読み方、『ぼすお』。子悪党臭あり。『ッス』口調の小男は、たぶんこいつの側近。




